第七十三話 黒影の来訪者
生徒会室の空気が変わっていた。
つい先程までの穏やかな空気は消え去り、室内には静かな緊張感が漂っている。
レンは窓の外を睨んでいた。
確かに見えた。
黒いローブ。
そして、あの妙な気配。
凛が腕を組む。
「……消えたわね。」
修也は静かに目を細めた。
「あぁ、ただの通行人ではなさそうだ。」
詩乃はノートを抱えたまま、小さく呟く。
「視線……感じた。」
咲夜は窓の外を覗き込みながら口を尖らせた。
「うわぁ〜、なんかホラーっぽい。」
ソレイナはレンのすぐ横へ移動する。
「主様、警戒を。」
「あぁ、わかってる。」
アヤネは床に手を触れた。
すると小さな石粒がカタカタと震え始める。
「……周囲に異常振動なし。」
ユシルは眠そうな顔のまま天井を見上げた。
「でもぉ〜……嫌な感じ〜……」
フリートも珍しく真面目な顔をしている。
「海の流れもまだ落ち着いてません……。」
レンは頭を掻いた。
「お前ら感覚鋭すぎだろ……。」
「擬神ですので。」
ソレイナが当然のように答える。
その時。
コンコン。
突然、生徒会室の扉がノックされた。
全員の視線が向く。
修也が口を開いた。
「どうぞ。」
ゆっくりと扉が開く。
そこに立っていたのは。
教師だった。
白衣姿の女性教師。
長い黒髪を揺らしながら軽く笑う。
「あら、みんな揃ってるのね。」
凛が小さく息を吐いた。
「……なんだ、先生ですか。」
「なんだとは失礼ねぇ。」
女性教師は苦笑する。
この学校の養護教諭。
九条 美玲。
異能学園高等学校でも数少ない治癒系異能者だった。
修也が椅子から立ち上がる。
「どうしたんです?」
「ちょっと気になる報告があって。」
その言葉で空気が再び張り詰める。
美玲は真剣な表情になった。
「町の外れで異能反応が観測されたわ。」
レンが眉をひそめる。
「異能暴走状態か?」
「断定はできない。でも反応が不安定すぎるの。」
詩乃が静かに顔を上げた。
「……どこ?」
「旧工業地区。」
咲夜が顔をしかめる。
「あそこって今ほとんど使われてない場所だよね?」
「えぇ。」
修也は顎に手を当てる。
「……タイミングが悪いね。」
ソレイナの瞳が細くなる。
「先程の気配と関係がある可能性があります。」
アヤネも頷いた。
「高い確率で。」
ユシルはソファから起き上がる。
「いくの〜?」
修也は少し考え込み。
そして頷いた。
「念のため確認しよう。」
レンが立ち上がる。
「なら俺も行く。」
「もちろん。」
凛も髪を払った。
「放っておくわけにもいかないし。」
咲夜は拳を握る。
「よーし!久しぶりの出動だね!」
詩乃は静かにノートを開いた。
「……準備する。」
フリートは少し不安そうにレンを見る。
「主さん、気をつけてくださいね……。」
「お前も行くだろ。」
「あ、はい!」
ソレイナは静かにレンの前へ出る。
「主様の安全は我らが保証します。」
「だから重いって……。」
そんなやり取りをしていると。
アヤネが突然床を見る。
「……?」
「どうした?」
「地面が。」
「またか?」
アヤネは目を閉じた。
「……何かが移動しています。」
空気が凍る。
修也が真顔になる。
「場所は?」
「……校内。」
「は?」
次の瞬間だった。
ズンッ――!!
校舎全体が大きく揺れた。
「きゃっ!?」
咲夜がバランスを崩す。
窓ガラスが震え、机の上の書類が舞った。
レンは咄嗟に机へ手をついた。
「なんだ今の!?」
ユシルの尻尾の葉が逆立つ。
「地下〜……!」
ソレイナが即座に炎を纏う。
「主様、下がってください。」
修也は扉へ向かった。
「全員、戦闘準備!」
凛の周囲に冷気が広がる。
詩乃の瞳に星の光が宿る。
フリートの足元に水が浮かび上がった。
そして。
再び。
ズズズズズ――――。
まるで巨大な何かが地中を這うような音が響いた。
アヤネが小さく呟く。
「……来ます。」
直後。
生徒会室の床が――爆ぜた。
轟音と共に砕け散る床。
土煙。
舞い上がる破片。
その中心から。
巨大な“黒い腕”が突き出した。
「なっ――!?」
レンが目を見開く。
黒い腕は異常なほど巨大だった。
まるで泥と闇を混ぜたような不気味な質感。
そして。
その奥。
砕けた床の下から。
ゆっくりと“何か”が姿を現そうとしていた。
低く。
不気味な声が響く。
「――――見ツケタ。」
ソレイナが前へ出る。
「主様から離れなさい。」
炎が爆ぜる。
凛の冷気が走る。
咲夜の雷が弾けた。
だが。
黒い腕はそれでも止まらない。
まるで執念だけで動いているかのように。
修也が剣を構える。
「……全員、迎撃する!」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




