第四話 生徒会と擬神
「あなたの“擬神”、少し見せてもらえる?」
教室の入り口に立つ女子生徒は、まっすぐに俺を見据えていた。
長い黒髪。無駄のない立ち姿。
ただそこにいるだけで、周囲の空気が張り詰める。
「……誰だ?」
思わずそう口にすると、教室のざわめきが一段と強くなった。
「おい、知らないのか……?」
「生徒会だぞ……」
小声が聞こえる。
女子生徒はゆっくりと教室に足を踏み入れた。
「失礼したわ。名乗りが先ね」
そのまま、俺の前で足を止める。
「私は生徒会所属――氷室 凛」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
――ツワモノが集まる生徒会。
その中でも、戦闘能力が高いことで知られる名前。
「で、その生徒会様が、俺に何の用だ?」
できるだけ平静を装って返す。
氷室はわずかに目を細めた。
「昨日の件は、すでに報告が上がっているわ。クラス最強の生徒を一撃で制圧した“擬神”」
ちらりと、後ろのソレイナに視線を向ける。
「興味があるの。規格外の力には、ね」
「主様」
ソレイナが一歩前に出る。
氷室の視線と、ソレイナの視線が交差した。
――ピリ、と。
空気が震える。
「……へぇ」
氷室の口元が、わずかに緩む。
「ただの召喚体じゃないわね。自律型……それもかなり高位」
「擬神です」
ソレイナは淡々と答える。
「私は擬神ソレイナ。主を守る存在」
「主、ね」
氷室の視線が再び俺に向く。
「神代レン。あなた自身の戦闘能力は?」
「……ほぼゼロだな」
正直に答える。
隠しても仕方ない。
「なるほど」
納得したように頷く。
「なら――試させてもらうわ」
「は?」
「あなたじゃない。“その擬神”をよ」
教室がざわつく。
「ここじゃダメね。場所を変えましょう」
氷室はくるりと背を向ける。
「訓練場へ来なさい。拒否権は……ないと思ってくれていいわ」
その言い方に、クラスの誰もが口を挟めなかった。
「主様」
ソレイナが俺を見る。
「……行くしかなさそうだな」
ため息をつきながら立ち上がる。
――学園訓練場。
広い空間。硬質な床。
明らかに戦闘を前提とした場所だ。
「ここなら問題ないわ」
氷室はゆっくりと振り返る。
「安心しなさい。本気で壊すつもりはないから」
そう言いながら、片手を軽く上げる。
その瞬間。
――空気が凍りついた。
足元から、白い霜が広がっていく。
「私のスキルは《氷結領域》」
氷室の周囲に、冷気が渦巻く。
「さあ――見せてみなさい。“擬神”の力を」
「……ソレイナ」
「はい、主様」
ソレイナは一歩前に出る。
小さな体に、不釣り合いな巨大な剣。
「戦闘許可を」
「……危なくなったら、すぐ止めるぞ」
「問題ありません」
その声には、一切の迷いがなかった。
「私は――主を守るために存在します」
その言葉と同時に。
――ゴォッ!!
紅い炎が、ソレイナの周囲に噴き上がる。
氷と炎。
相反する力が、空間の中でぶつかり合う。
氷室の目が、わずかに細められた。
「……いいわ」
次の瞬間。
「来なさい」
戦いが――始まった。
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