第二話 擬神と母
俺の名前は、神代レン。
ごく普通の高校生――だった。
「ここが、主様のお家ですか……大きいですね」
隣で、赤髪の幼女――ソレイナがぽつりと呟く。
「まぁな。空き部屋がありすぎて、ほとんど物置だけどな」
「なるほど」
感心したように頷くその姿は、見た目相応にしか見えない。
……が、その実態は“擬神”。
未だに現実感が追いつかない。
とりあえず玄関の扉を開ける。
「ただいま」
「あら〜おかえり〜……」
奥から、のんびりとした声が聞こえてくる。
そして――
「あら? どうしたの? その子」
母さんの視線が、俺の後ろに向いた。
ソレイナは一歩前に出ると、丁寧に一礼する。
「はじめまして、お母様。炎の擬神ソレイナと申します」
「……あらあらあらあら、レンが女の子を、それに幼女!」
「えっとだな、これには理由が……」
誤解が広がる前に、俺は慌てて説明を始めた。
スキルのこと。
《神核生成》のこと。
そして、ソレイナのこと。
「――と、いうわけなんだ」
一通り話し終えると、母さんは少しだけ目を丸くして。
「まぁ、スキルから?」
「はい」
ソレイナが素直に頷く。
「……あらあらまあまあ」
驚いているはずなのに、なぜか楽しそうだ。
「お部屋、準備しないとねぇ〜」
「いえ、私は主様と同じ部屋で」
さらっととんでもないことを言う。
「それはだめよ。神とはいえ、女の子なんだから」
「はぁ……?」
ソレイナが本気で理解できていない顔をする。
まあ、そりゃそうか。
「そうだ、ソレイナちゃんはご飯食べるの?」
「いえ、私たち擬神は何も食べません」
「あらそうなの? 残念ねぇ」
本当に残念そうにするな。
「と、とりあえず、部屋行くから」
これ以上話を広げると面倒なことになりそうだ。
「お供します」
当然のようについてくるソレイナ。
階段を上がり、自分の部屋の前で足を止める。
ドアを開けると、いつもの光景が広がっていた。
「ここが、主様のお部屋……綺麗ですね」
「まあ、散らかしてないだけだ」
ソレイナは興味深そうに部屋の中を見回し――
「これはなんです?」
机の上に置いてあるものを指さした。
「ん? あぁ、パソコンだよ。いろいろ調べられる」
「なるほど……」
じっと見つめるその様子は、どこか新鮮だ。
しばらくして。
「……主様、主様」
「ん? どうした」
ソレイナが、少しだけ柔らかい声で呼ぶ。
「いえ、なんだか……他の擬神のみんなにも見せてあげたくて。この景色を」
「……他の擬神とも知り合いなのか?」
思わず聞き返す。
「はい。皆さん、とっても良い方ですよ」
当たり前のように答える。
まるで、どこか別の場所に“世界”があるみたいに。
「そうか。それは……会ってみたいな」
自然と、そんな言葉が出た。
「はい。いつか主様に召喚してもらえれば……」
「そうか。《神核生成》で……」
自分の手を見る。
この力は、まだ分からないことだらけだ。
どんな擬神が現れるのか。
どれだけ呼び出せるのか。
そもそも、どこから来ているのか。
でも。
少なくとも一つ、分かっていることがある。
この力が――
俺の世界を、確実に変えていくということだ。
その中心にいるのは。
「主様」
名前を呼ばれて顔を上げる。
そこには、赤髪の擬神が立っていた。
揺るがない視線で、まっすぐに俺を見ている。
――守るために存在する者。
静かに、物語は動き始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




