第一話 私は擬神、その名は
「――私は“擬神”。主を守る存在」
赤髪の幼女は、静かにそう告げた。
「……」
言葉が出ない。
目の前では、ついさっきまで威圧的に立っていたクラス一の不良が、壁に叩きつけられたまま動かない。
「うそ、」
「……あの不良が、一撃で……」
ざわめきが教室を満たす。
現実感が、薄い。
俺は、ゆっくりと息を吸った。
「……すぅ〜〜……」
落ち着け。状況を整理しろ。
目の前の幼女。
さっきの一撃。
そして――“擬神”。
どう考えても、普通じゃない。
「どうされました?」
赤髪の少女が、小さく首をかしげる。
その視線が、まっすぐ俺に向いていた。
「……すまん、ちょっと来てくれ」
「はい?」
教室の視線を背中に感じながら、俺は少女を連れてその場を離れた。
できるだけ目立たないように、廊下を抜け、校舎の裏へ。
そして――体育館裏。
人の気配がなくなったところで、ようやく足を止める。
「それで、主様。どうされました?」
当たり前のように“主様”と呼ばれ、軽く頭が痛くなる。
「え〜っと……まず、お前は誰だ?」
「?」
少女は不思議そうに瞬きをした。
「……ですから、擬神と」
「そうじゃない。すまない、いろいろと混乱していてな」
一度、言葉を区切る。
「まず、名前は?」
ほんのわずかな間。
そして、少女は胸を張るようにして答えた。
「私は炎の擬神――ソレイナ。貴方様を守る炎神です」
「……ソレイナ、か」
口に出してみると、やけにしっくりくる名前だった。
「じゃあソレイナ。この《神核生成》って……?」
自分のスキル名を思い出しながら問いかける。
ソレイナは、少しも迷うことなく答えた。
「はい、主様。そのスキルは、私のような擬神を作り出す力です。ですが――どのような擬神が現れるかはランダムとなります」
「ランダムなのか〜……」
思わず空を仰ぐ。
とんでもない能力だということは、なんとなく分かる。
同時に、とんでもなく扱いづらそうだということも。
「……まぁ、それはそれとして」
視線を戻す。
改めて、ソレイナを見る。
小さな体に似合わない、背中の巨大な剣。
そして、どこか現実離れした存在感。
「炎神ってことは炎を使うのか? それと、そのでっかい剣は何だ」
「はい、私は炎神ですので炎を扱います。こちらは武器です」
あっさりと答える。
「というか、あの不良には物理で攻撃してたように見えたけど」
「はい。あの程度、力を使うまでもないので」
「……なるほど」
さらっととんでもないことを言う。
頭を抱えたくなった、その時だった。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……
「あ、もうすぐ授業だ……」
現実に引き戻される。
どうする。
このままここに置いていくか?
「えっと、ここにいてもらうことは〜……」
「却下します」
即答だった。
「ですよね〜」
だろうな、とは思っていた。
――教室。
扉を開けた瞬間、空気が固まる。
「…………」
クラスメイトたちの視線が、一斉にこちらに向いた。
その中心にいるのは――俺ではなく。
「……?」
後ろに立つソレイナだった。
そりゃ、目立つよな。
赤髪の幼女に、巨大な剣。
どう見ても普通じゃない。
俺は小さくため息をつきながら席につく。
ソレイナはというと、教室の後ろの方で静かに立ち、じっとこちらを見ている。
「???」
首を傾げているが、その存在感は消えない。
……もう、諦めるしかないか。
――放課後。
「主様。今更ですが、ここは一体どこなのでしょうか」
帰り道、ソレイナがそう尋ねてきた。
「ん? ここは『異能学園高等学校』っていう、能力者の集まる学園さ」
ポケットから端末を取り出す。
「で、この学園に入ると、こういう端末が支給されるんだ」
画面を見せると、ソレイナは興味深そうに覗き込む。
「これは?」
「俺のステータスが表示される。まぁ、図鑑みたいなもんだな」
「なるほど」
素直に頷く。
少し歩いてから、ふと気づく。
「……というか、家までついてくるのか?」
「もちろんです」
迷いのない返答。
「……あはは、だよな」
乾いた笑いがこぼれる。
普通じゃないスキル。
普通じゃない存在。
静かに暮らしたかったはずなのに。
――気づけば、もう戻れないところまで来ていた。
こうして。
俺達の物語が――始まった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




