プロローグ
この世界では、十六歳になると“何か”が芽生える。
それは人によって形を変え、炎となり、雷となり、あるいは目に見えぬ力となって現れる。
人々はそれを――スキルと呼んだ。
誰もが当たり前のように持つ、特別な力。
だからこそ、それは“特別”ではなくなっていた。
――俺、神代レンにとっても、それは同じはずだった。
「……はぁ」
窓の外に広がる、いつも通りの景色。
騒がしい教室。笑い声。誰かの自慢話。
スキルがどうとか、強いとか弱いとか。
そんなものに興味はない。
目立たず、静かに。
それが、俺の望みだった。
なのに。
「おい、神代」
低く、荒い声が俺の名前を呼ぶ。
嫌な予感しかしない。
振り向かなくても分かる。
クラスで一番関わりたくない相手。
「お前、スキル出たんだろ? 見せてみろよ」
教室の空気が、わずかに変わる。
面白がる視線。
期待する視線。
どうでもいいと思っている視線。
全部が、こちらに向いていた。
「……別に、見せるほどのもんじゃない」
「は? いいからやれって言ってんだよ」
逃げられない。
いや、逃げたらもっと面倒になる。
……仕方ない。
俺は、小さく息を吐いた。
「――《神核生成》」
口にした瞬間。
空気が、変わった。
視界の中心で、光が集まる。
淡く、ゆらめくような光。
それが徐々に形を持ち――
――現れたのは。
赤い髪をした、小さな少女だった。
静かに、そこに立っている。
まるで最初からそこにいたかのように。
一瞬の沈黙。
そして。
「……は?」
「なんだそれ」
「幼女じゃん」
「マジで? それスキル?」
教室が、笑いに包まれる。
「ははっ、お前それで戦うのかよ」
――やっぱり、こうなるか。
自分でも分かる。
これは“ハズレ”だと。
……帰ろう。
そう思った、その時だった。
トン、と。
小さな足音が響く。
少女が、一歩前に出た。
その赤い瞳が、ゆっくりと――
俺の前に立つ男へと向けられる。
「……あ?」
不良が眉をひそめる。
次の瞬間。
少女は、感情のない声で告げた。
「――主に対する害意を確認」
その言葉に、教室の空気が凍る。
何かがおかしい。
そう誰もが感じた、その直後。
――消えた。
そう錯覚するほどの速さで、少女の姿がぶれる。
「っ――」
音が、遅れて響いた。
ドンッ!!
重い衝撃音。
そして。
クラス最強と呼ばれていた男の体が――
教室の端まで吹き飛ばされていた。
机を巻き込み、壁に叩きつけられる。
誰も、動けない。
誰も、声を出せない。
ただ一人。
赤髪の少女だけが、静かにそこに立っていた。
そして。
ゆっくりと振り返り――
俺を見る。
その瞳に宿るのは、感情ではない。
ただ一つの、確かな“役割”。
「――私は“擬神”」
小さな唇が、そう告げる。
「主を守る存在」
静かに。
絶対の意思を持って。
その瞬間。
俺の“静かな日常”は――
完全に、終わった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




