第十五話「まだ見ぬ力たち」
静寂が支配する世界。
空もなく、地もなく、ただ無限に広がる“水面”だけが存在する場所。
そこは現実とは異なる、しかし確かにどこかと繋がっている領域――。
揺らめく水鏡の中心に、ひとりの少年の姿が映っている。
――神代レン。
その姿を囲むように、いくつもの“影”が存在していた。
茶色いフードの少女が、水面に映るレンをじっと見つめながら静かに口を開く。
「……召喚されたのは、ユシルですか」
その声は落ち着いていて、どこか分析するような響きを持っていた。
その隣で、猫耳のフードを被った少女が、ぴょんと軽く跳ねるようにして反応する。
「いいなぁ〜……!私も早く外に出たいよ〜」
彼女は尻尾をぱたぱたと揺らしながら、羨ましそうに水面を覗き込む。
すると、どこからともなく、柔らかい声が響いた。
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
姿ははっきりと見えない。
けれど確かにそこに“いる”と感じさせる、不思議な存在感。
その声に、紫色のフードを被った少女が小さく頷く。
「……“リーダー”の言う通りです」
彼女の視線は、水面に映るレンだけでなく、その奥――まだ見えぬ未来を見通すかのように鋭い。
少し離れた場所では、氷のように淡く輝くフードを纏った少女が静かに言葉を紡ぐ。
「私たちは、ただ待つだけ……」
その声には感情の起伏がほとんどない。
しかし、その奥には確かな“覚悟”が宿っていた。
「主が必要とする、その時まで」
その言葉に、黄色いフードの少女がこくんと素直に頷く。
「うん、そのほうがいいと思う」
そして再び、茶色いフードの少女が締めくくるように小さく言った。
「……ですね」
水面が、わずかに揺れる。
映し出されるレンの姿の隣には、ソレイナとユシルの姿。
すでに“二つ”の力が、彼のもとにある。
だが――。
ここにいる“彼女たち”は、まだ呼ばれていない。
呼ばれる資格がないのか。
それとも、まだ“その時”ではないのか。
答えは、誰にも分からない。
――現実世界。
夕焼けが校舎を赤く染めていた。
生徒会室では、ユシルの登場による騒ぎもひと段落し、どこか落ち着いた空気が流れている。
ソレイナは静かにレンの隣に立ち、ユシルはふわふわと浮かびながら、相変わらず眠そうにしていた。
「すぅ〜……すぅ〜……」
「……ほんとによく寝るな」
レンが呆れたように呟くと、氷室凛が肩をすくめる。
「でも、その分強いんでしょ?」
「らしいけどな……実感ない」
レンは頭をかきながら、ユシルを見上げる。
その時だった。
ユシルが、うっすらと目を開けた。
「……ん〜……」
眠たげな瞳が、レンを捉える。
「主……まだいる?」
「いるよ。勝手に消えねぇよ」
「そっかぁ……よかった〜……」
そう言って、また目を閉じるユシル。
その様子に、朝比奈咲夜がくすっと笑う。
「なんか、マイペースだね〜」
「……ですが、力は本物でしょう」
月影詩乃が静かに言う。
その視線は鋭く、ユシルの内に秘められた力を見抜いているようだった。
天城修也も腕を組みながら頷く。
「二体目の擬神……これは戦力としてはかなり大きい」
「……でも」
レンがぽつりと呟く。
「これで終わりじゃない、んだよな」
その言葉に、ソレイナが静かに応える。
「はい、主様」
「《神核生成》は……それだけではありません」
その声は、いつもよりほんの少しだけ重い。
「まだ、存在しています」
「……呼ばれていない“擬神”たちが」
その瞬間。
レンの胸の奥で、何かが“微かに脈打った”。
それは、まだ形を持たない力。
まだ出会っていない存在。
けれど確かに、“繋がっている”という感覚。
遠く、どこかで。
“誰か”が、待っている――。
レンは、静かに拳を握った。
「……全部、使いこなせるようにならねぇとな」
その言葉は、小さく。
けれど確かな決意を帯びていた。
夕焼けの中。
新たな力と、まだ見ぬ存在たち。
そして、これから訪れるであろう戦い。
神代レンの“普通ではない日常”は、さらに深く、広がっていく――。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




