第十六話「眠り姫と学園散歩」
翌日――。
「ふぁぁ〜……」
大きなあくびとともに、ふわふわと空中を漂う少女。
自然の擬神――ユシルは、相変わらず眠たげな様子でレンの隣を漂っていた。
「……本当に起きてんのか?」
神代レンは半ば呆れたように問いかける。
「起きてるよ〜……たぶん……」
「たぶんってなんだよ……」
そんなやり取りを見て、氷室凛が小さく笑う。
「まぁいいじゃない。今日は学園の中を案内するんでしょ?」
「そうだったな……」
レンは軽く伸びをしてから、ユシルの方を見上げる。
「ってことでユシル、今日は学校の中を案内するぞ」
「ん〜……おさんぽ?」
「まぁ、そんな感じだ」
「やる〜……」
やる気があるのかないのか分からない返事だったが、とりあえず了承したらしい。
◇◇◇
最初に向かったのは――校舎の廊下。
朝のホームルームが終わったばかりで、廊下には多くの生徒たちが行き交っている。
「ここが普通の校舎。授業とかは基本ここでやる」
レンが説明すると、ユシルはふわふわと天井近くまで浮かびながら辺りを見回す。
「人いっぱ〜い……」
「まぁ学校だからな」
「自然、すくな〜い……」
ぽつりと呟かれたその言葉に、レンは苦笑する。
「まぁな、都会の学校だし」
「……あとで増やす?」
「増やさなくていいからな!?」
思わず即ツッコミするレン。
ソレイナが静かに口を開く。
「ユシル、ここでの無断な力の行使は控えてください」
「は〜い……」
本当に理解しているのか怪しい返事だった。
◇◇◇
次に向かったのは――中庭。
そこには木々や花壇、小さな池があり、校内では比較的自然の多い場所だった。
「ここが中庭。まぁ、休憩とかする場所だな」
その瞬間。
ユシルの目が、ほんの少しだけはっきりと開いた。
「……いいとこ」
ふわり、と彼女の周囲の空気が変わる。
草木が、微かに揺れる。
「おい、なんかやってないよな?」
「やってな〜い……ちょっと、うれしいだけ〜……」
その言葉通り、ユシルはどこか心地よさそうに空中でくるくると回る。
花壇の花が、ほんの少しだけ色鮮やかに見えた気がした。
ソレイナが静かに言う。
「……やはり、自然の多い場所では力の同調が起きやすいようですね」
「同調?」
「はい。ユシルの性質によるものです」
レンは腕を組みながら頷いた。
「なるほどな……」
◇◇◇
その後、体育館や図書室、購買などを回り――。
最後に辿り着いたのは、生徒会室だった。
「ここが、俺たちの拠点みたいなもんだな」
ドアを開けると、中にはすでに天城修也、朝比奈咲夜、月影詩乃がいた。
「おや、戻ってきたか」
「案内どうだった〜?」
「……問題、ありませんでしたか……?」
それぞれが声をかける。
レンは軽く手を振る。
「まぁ、なんとかって感じだな」
ユシルはというと――。
「……つかれた〜……」
ぽすん、とソファの上に着地し、そのままごろんと横になる。
「いやお前ほとんど浮いてただけだろ!?」
「浮くのも……つかれる〜……」
「絶対嘘だろ……」
そんなやり取りに、咲夜が楽しそうに笑う。
「でも、かわいいからいいじゃん!」
詩乃も小さく頷く。
「……癒し、ですね……」
その時。
ユシルが、うとうとしながら小さく呟いた。
「……ここ、わるくない……」
「主のいる場所……きらいじゃない……」
その言葉に、レンは少しだけ驚いたような顔をする。
だがすぐに、軽く笑って肩をすくめた。
「そりゃどうも」
ソレイナはその様子を静かに見つめていた。
主と、新たな擬神。
その距離は、確実に縮まりつつある。
そして――。
まだ見ぬ“他の擬神”たちもまた。
この繋がりを、どこかで感じ取っているのかもしれない。
生徒会室に差し込む午後の光。
穏やかな時間の中で。
レンの日常は、確実に“非日常”へと染まっていくのだった――。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




