第十三話 もう一つの核
俺は神代レン。
普通の高校生――だったが。
スキル《神核生成》によって擬神・ソレイナを生み出し、
そして生徒会に入り、訓練を続ける日々を送っている。
――訓練後。
「おつかれ、」
氷室凛が、ペットボトルを軽く掲げながら声をかけてくる。
「あぁ、ありがとな……」
受け取りながら、一息つく。
体の芯に残る疲労が、まだ抜けきらない。
「ん?」
その時、ふと気づいた。
「ソレイナ?どうした?」
いつもなら隣に立っている彼女が、少しだけ離れた場所で立ち尽くしている。
「?」
呼びかけに、わずかに反応が遅れる。
「あ、いえ、主様。少し考え事を」
いつも通りの落ち着いた声。
だが、どこか違和感がある。
「考え事?」
「はい」
ソレイナはゆっくりとこちらに歩み寄る。
「もし、私一人で守ることのできないようなやつが現れた場合のことを考えていて」
「……」
その言葉に、自然と表情が引き締まる。
「そろそろ、もう一人の擬神を呼び出したほうがよいかなと」
「もう一人、か……」
思わず呟く。
確かに――。
今の戦いは、ソレイナ一人に頼りすぎている。
俺自身はまだ戦えないし、完全に後衛だ。
「そうね」
氷室が腕を組む。
「そのほうが安全なんじゃないかしら」
「……でもさ」
少し迷いながら言う。
「俺、まだちゃんとソレイナのことも扱えてないのに、もう一人って……」
「その不安は当然です」
ソレイナが静かに言う。
「ですが」
一歩、近づく。
「主様の力は、“増える”ことに意味があります」
「……増える?」
「はい」
その瞳は真っ直ぐだった。
「擬神は、それぞれ異なる役割と力を持っています」
「私が“攻撃”と“守護”を担う存在であるならば」
「別の擬神は、別の役割を担う可能性があります」
「例えば?」
「索敵、支援、制御、あるいは――」
少しだけ間を置く。
「主様自身の力を補助する存在」
「……なるほどな」
単純に“強い仲間が増える”ってわけじゃないのか。
「でもさ」
まだ引っかかる。
「本当に出せるのか?もう一人」
「それは主様次第です」
迷いのない答え。
「《神核生成》は、意思と状況に応じて発動します」
「つまり?」
「“必要だ”と主様が強く認識すれば、応える可能性が高まります」
「……なんだよそれ、めちゃくちゃじゃねぇか」
苦笑が漏れる。
「ですが、それが主様の力です」
「……」
視線を落とす。
頭の中に浮かぶのは、訓練中の光景。
氷室の氷。
朝比奈の雷。
天城の圧倒的な存在感。
そして、その中で戦うソレイナ。
確かに――強い。
でも。
「……もし」
ぽつりと口にする。
「ソレイナでも止められないやつが来たら」
想像するだけで、少し背筋が冷える。
「主様」
その瞬間、ソレイナが一歩踏み出す。
「その時は、私が命に代えてでも――」
「やめろ」
反射的に言葉を遮る。
「そういうの、やめろ」
少し強い口調になってしまった。
「……主様?」
「守るとか命とか、そういうのも大事だけどさ」
顔を上げる。
「一人で全部背負うなよ」
「……」
ソレイナが、わずかに目を見開く。
「俺の力なんだろ?それ」
「なら、俺もちゃんと関わる」
「……主様」
「だから」
少しだけ息を吸って。
「もう一人、呼び出してみるか」
「……ええ」
ソレイナが、静かに頷く。
「それが良いかと」
「いい判断ね」
氷室も小さく頷いた。
「ただし、場所は選びなさい」
「だな……」
こんなところで暴発したら洒落にならない。
――その日の帰り道。
夕焼けが、街を赤く染めていた。
「主様」
ソレイナが隣に並ぶ。
「本当に、よろしいのですか」
「何が?」
「新たな擬神の召喚です」
「……」
少しだけ考える。
怖くないと言えば嘘になる。
何が出てくるか分からない。
でも。
「必要なんだろ?」
「はい」
「なら、やるしかないだろ」
そう言うと。
ソレイナは、ほんのわずかに微笑んだ。
「……承知しました」
その時。
ふと、どこかで“視線”を感じた気がした。
「……?」
振り返るが、誰もいない。
「どうかしましたか」
「いや……なんでもない」
だがその違和感は、なぜか消えなかった。
まるで――
“誰かに見られている”ような。
そしてその頃。
あの水面の世界では。
少女たちが、静かにその瞬間を待っていた。
主が、新たな力を求めるその時を――。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




