第百十八話 『神核共鳴』
空が軋む音がした。
いや、正確には空そのものが悲鳴を上げているようだった。
巨獣の咆哮と黒衣の男の存在が、世界の理を押し潰している。
その中心で、俺は立っていた。
右腕の紋様が脈打つたびに、熱が骨の奥へと沈んでいく。
「主君……」
アイナの声は、いつもより少しだけ緊張していた。
「神核生成の準備状態、最大出力領域に到達しています」
ソレイナが静かに前へ出る。
「主様」
「今なら、私たちの核も共鳴できます」
ユシルがふわりと浮かびながら笑う。
「わぁ……なんかすごいこと起きそうだねぇ」
アヤネは周囲を見回す。
「空間の歪みがさらに強くなっています」
「長時間は持ちません」
フリートが拳を握る。
「時間との勝負ですね」
◇
黒衣の男は、上空でその様子を見下ろしていた。
「なるほど」
「擬神を束ねる器、か」
その言葉には、嘲りではなく純粋な興味が混じっていた。
巨獣が再び翼を広げる。
空間が裂けるような圧力。
「だが、それでも足りない」
男が指を軽く振る。
瞬間。
世界の重力が変わった。
◇
「っ……!」
地面が沈む。
いや、沈むというより“押し潰されている”。
氷室が膝をつきそうになる。
「重力操作……!」
朝比奈が叫ぶ。
「こんなの戦闘じゃないよ!」
月影詩乃は矢を地面に突き立てる。
「耐える」
短い言葉。
だがその声には確かな意志があった。
天城修也が刀を構える。
「全員、意識を保て」
「まだ終わっていない」
◇
アイナが高速で情報を解析する。
「重力場、局所的に三重重ね構造!」
「外部からの干渉は不可能です!」
ソレイナが炎を揺らす。
「では内部から崩すしかありませんね」
ユシルが小さく首をかしげる。
「うーん……中から壊すってどうやるの〜?」
アヤネが冷静に答える。
「神核共鳴の完全同期です」
フリートが息を呑む。
「つまり、主さんと全部の力を一気に繋ぐってことですね」
アイナが頷く。
「はい」
「ですが成功すれば、結界・重力・再生構造すべてを上書きできます」
天城が低く言う。
「失敗した場合は?」
アイナは一瞬だけ沈黙し。
「戦闘不能、もしくは……消失の可能性があります」
空気が凍る。
◇
俺は一歩前に出た。
右腕の紋様がさらに強く光る。
ソレイナが隣に立つ。
「主様」
「怖くありませんか?」
少しだけ考える。
怖いかどうか。
答えは単純だった。
「怖いに決まってるだろ」
ユシルが笑う。
「だよねぇ〜」
アヤネが静かに言う。
「ですが、進むしかありません」
フリートが前を見たまま言う。
「ここで止まれば終わりです」
アイナが真っ直ぐに俺を見る。
「主君」
「選択を」
◇
黒衣の男が微笑む。
「いい顔だ」
「それでこそ器だ」
巨獣が動く。
世界が軋む。
限界が近い。
だが――
俺は刀を握り直した。
「やる」
一言。
その瞬間。
全員の気配が一つに重なる。
ソレイナの炎。
ユシルの生命。
アヤネの制御。
フリートの流動。
アイナの知識。
そして俺自身の核。
「――神核共鳴」
アイナが静かに呟いた。
「開始します」
◇
世界が一瞬、無音になった。
音が消えたわけじゃない。
“上書きされた”。
俺の右腕が爆発するように光る。
その光は炎でも水でも植物でもない。
“存在そのものの圧縮”。
黒衣の男が目を細める。
「ほう……」
巨獣が咆哮する。
だがその声すら届かない。
空間が歪む。
重力が崩れる。
結界が割れる。
その中心で。
俺はただ一言、言った。
「展開する」
瞬間。
世界が塗り替えられた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




