第百十四話 静寂を裂く警報
俺は神代レン。
普通の高校生だったが、スキル《神核生成》というスキルでソレイナという炎の擬神が現れてから俺の普通は終わった。
自然の擬神ユシル。
操りの擬神アヤネ。
海洋の擬神フリート。
そして知識の擬神アイナ。
五人の擬神たちと過ごす日々は賑やかで、少し騒がしくて、だけど楽しいものだった。
神代家。
夕食も終わり、リビングではいつものように擬神たちが思い思いに過ごしていた。
ユシルはソファに寝転がりながら果物を食べている。
フリートはテレビを興味深そうに見ている。
アヤネは本を読んでいる。
ソレイナは食器の片付けを手伝っていた。
アイナは机の上にノートを広げ、何かを書き続けている。
レンはそんな光景を眺めながら麦茶を飲んだ。
平和だ。
本当に平和だった。
母もどこか嬉しそうに擬神たちを見ている。
「賑やかになったわねぇ」
「まぁな」
「みんな良い子だし」
「そうか?」
「そうよ」
母は笑う。
その時だった。
アイナのペンが止まった。
ソレイナも顔を上げる。
アヤネも本を閉じた。
フリートもテレビから視線を外す。
ユシルだけがまだ果物を食べていた。
レンは違和感を覚える。
「どうした?」
アイナが静かに窓の方を見る。
「何か、います」
空気が変わった。
ソレイナの表情が真剣になる。
「私も感じます」
アヤネが立ち上がる。
「かなり強いですね」
フリートも頷く。
「海じゃない……もっと嫌な感じです」
レンも立ち上がった。
母は不安そうに全員を見る。
「何かあったの?」
ソレイナは優しく微笑んだ。
「大丈夫です」
だがその表情はどこか固い。
アイナは窓へ近づく。
外を見る。
そして。
その瞬間。
学園から支給されている通信端末が激しく鳴り響いた。
レンは即座に端末を開く。
画面には緊急招集の文字。
発信者。
天城修也。
レンの顔つきが変わる。
「緊急招集……」
アヤネが目を細める。
「やはり」
ソレイナも頷く。
「来ましたね」
レンはすぐに通信を開く。
すると修也の声が響いた。
「レン、聞こえるか」
「あぁ」
「至急学園へ来てくれ」
「何があった」
通信の向こうで少し沈黙。
そして。
「異能暴走体が出現した」
レンの目が見開かれる。
異能暴走体。
異能者が何らかの要因で力を暴走させた存在。
危険度は個体によって大きく異なる。
だが。
修也が緊急招集をかける時点で普通ではない。
「規模は」
「大型だ」
レンの表情が険しくなる。
「場所は」
「学園から西側三キロ地点」
「被害は」
「まだ出ていない」
修也の声が低くなる。
「だが時間の問題だ」
通信が切れる。
リビングに静寂が落ちる。
母も状況を察したらしい。
「行くのね」
レンは頷く。
「あぁ」
母は少し心配そうな顔をした。
だが。
止めなかった。
「気を付けて」
「わかってる」
ソレイナたちも前へ出る。
「主様」
「あぁ」
「行こう」
炎の擬神が微笑む。
自然の擬神が立ち上がる。
操りの擬神が手袋を整える。
海洋の擬神が拳を握る。
知識の擬神が静かに目を閉じる。
全員の空気が変わっていた。
戦闘態勢。
レンは玄関へ向かう。
靴を履く。
扉を開く。
夜風が吹き込む。
さっきまでの日常が遠く感じた。
アイナが静かに呟く。
「主君」
「ん?」
「今回の敵」
「どうした」
アイナは少しだけ眉をひそめる。
「嫌な予感がします」
その言葉に全員が反応した。
知識の擬神。
計算と予測を得意とする存在。
そのアイナが嫌な予感と言った。
ソレイナも真剣な顔になる。
「珍しいですね」
「はい」
アイナは小さく頷く。
「データが足りません」
「それなのに?」
「だからです」
レンは息を吐いた。
そして空を見上げる。
夜空。
雲が流れている。
だが。
その奥。
遠くの空が僅かに赤く染まっていた。
まるで何かが燃えているかのように。
フリートが顔を強張らせる。
「主さん」
「あぁ」
「急ぎましょう」
レンは頷いた。
そして走り出す。
ソレイナたちも続く。
静かな住宅街を駆け抜ける。
夜風が頬を叩く。
心臓が鼓動する。
久しぶりだった。
平和な日々が続いていた。
だが。
それは終わった。
前方には異能学園高等学校。
そしてそのさらに向こう。
赤く染まる空。
何かが待っている。
ソレイナがレンの隣を走る。
「主様」
「あぁ」
「準備は?」
レンは右手を握る。
力が宿る。
熱が宿る。
炎の紋様が淡く浮かび上がった。
「あぁ」
その瞳に迷いはない。
「いつでも行ける」
その瞬間。
遠方から。
轟音が響いた。
大地が震える。
夜空へ巨大な光柱が立ち上がる。
全員が足を止めた。
ユシルですら笑顔を消している。
アイナは静かに呟いた。
「目標確認」
フリートが息を呑む。
アヤネが目を細める。
ソレイナの炎が揺らめく。
レンは光柱を見据えた。
久しぶりの戦い。
そして。
これまでの日常を終わらせる新たな事件が、今まさに始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




