第百十三話 放課後の寄り道
俺は神代レン。
普通の高校生だったが、スキル《神核生成》というスキルでソレイナという炎の擬神が現れてから俺の普通は終わった。
自然の擬神ユシル。
操りの擬神アヤネ。
海洋の擬神フリート。
そして知識の擬神アイナ。
今では五人の擬神たちと共に生活している。
昼休みが終わり、午後の授業も終わった。
放課後。
教室には帰り支度をする生徒たちの姿があった。
レンは鞄へ教科書を入れながら大きく伸びをする。
「終わったぁ……」
その言葉と同時にユシルが机へ倒れ込んだ。
「おわったぁ~」
「お前は何もしてないだろ」
「してたよぉ~」
「何を」
「応援」
「誰を」
「主様」
「授業中だろ」
ユシルは胸を張る。
「心の中で~」
「駄目だこいつ」
フリートが吹き出した。
ソレイナも肩を震わせている。
アヤネは呆れ顔だった。
アイナだけは真面目に手帳へ何かを書いている。
レンが覗き込む。
「また記録か」
「はい」
「今度は?」
「ユシルさんの発言集です」
「なんでそんなもの作ってるんだ」
「将来的に役立つ可能性があります」
「絶対ないだろ」
アイナは少し考える。
そして首を傾げた。
「確率一・二パーセントです」
「ほぼ無いじゃねぇか」
放課後の教室に笑い声が響いた。
そこへ朝比奈咲夜が勢いよくやってくる。
「レンー!」
「なんだよ」
「帰ろう!」
「帰るけど」
「じゃあ決まり!」
相変わらずだった。
月影詩乃も後ろからやってくる。
「今日は平和」
「それ毎回言ってないか?」
「うん」
否定しない。
四人はそのまま校舎を出る。
五人の擬神も後ろからついてくる。
校庭には運動部の掛け声が響いていた。
野球部。
サッカー部。
陸上部。
どこも活気に満ちている。
フリートは興味深そうに眺めていた。
「みなさん頑張ってますね」
「青春だな」
「ですね!」
ユシルは木陰を見つけて寝転がろうとした。
アヤネが即座に襟を掴む。
「帰りますよ」
「ふにゃぁ~」
「抵抗しても無駄です」
「鬼ぃ~」
「ありがとうございます」
「褒めてないよぉ~」
レンたちは校門を出る。
いつもの帰り道。
夕方の街並み。
少し赤く染まり始めた空。
風は穏やかだった。
咲夜は歩きながら空を見上げる。
「平和だねぇ」
「そうだな」
「事件ないねぇ」
「ないな」
「良いことだよね」
「良いことだ」
詩乃も静かに頷く。
「平和が一番」
「だな」
レンも同意する。
戦いの無い日常。
それは何より価値がある。
アイナは周囲を見渡していた。
見るもの全てが新鮮らしい。
商店。
信号機。
公園。
自動販売機。
どれも興味深そうに観察している。
フリートが尋ねた。
「楽しいですか?」
「はい」
「そんなに?」
「はい」
アイナは微笑む。
「知らないことを知るのは楽しいです」
その言葉にソレイナが優しく笑った。
「アイナらしいですね」
「そうでしょうか」
「えぇ」
アイナは少し嬉しそうだった。
やがて一行は小さな公園へ辿り着く。
咲夜が突然立ち止まる。
「休憩!」
「なんでだよ」
「なんとなく!」
理由になっていない。
だが誰も反対しなかった。
ベンチへ座る。
夕暮れの公園。
子供たちの声。
風に揺れる木々。
穏やかな時間だった。
ユシルはブランコへ向かう。
「おぉ~」
そして座る。
ゆらゆら揺れる。
それだけで楽しそうだった。
フリートも興味を持ったらしい。
「私も乗ってみたいです!」
「どうぞ~」
二人でブランコに乗り始めた。
レンは思わず笑う。
まるで子供だ。
アヤネはベンチに座る。
「平和ですね」
「あぁ」
「こういう日も悪くありません」
珍しく素直だった。
ソレイナも空を見上げる。
赤く染まる夕空。
どこまでも広がる雲。
静かな時間。
「綺麗ですね」
「そうだな」
レンも見上げる。
確かに綺麗だった。
しばらくすると咲夜が立ち上がる。
「よし!」
「今度はなんだ」
「帰ろう!」
「最初から帰る予定だったろ」
「細かいことは気にしない!」
元気だった。
本当に元気だった。
全員が笑う。
そして再び歩き出す。
住宅街へ入る。
詩乃と咲夜は途中で別れることになった。
咲夜が大きく手を振る。
「また明日ー!」
「あぁ」
「また」
「ばいば~い」
ユシルも手を振る。
詩乃も小さく頭を下げた。
「また明日」
そうして二人は去っていく。
レンたちはさらに歩く。
夕日が街を染める。
長く伸びる影。
どこか穏やかな時間だった。
アイナは隣を歩きながら呟く。
「不思議です」
「何がだ?」
「私は知識の擬神です」
「そうだな」
「でも」
アイナは少し考えた。
そして微笑む。
「知識だけでは分からないことがたくさんあります」
「例えば?」
「皆さんと過ごす時間です」
レンは少し驚いた。
アイナは空を見上げていた。
「本で読んでも分かりません」
「経験しないと分からないこともある」
ソレイナがそう言う。
アイナは頷いた。
「はい」
フリートも笑う。
「これからたくさん知れますよ!」
「はい!」
アイナの返事は明るかった。
レンはそんな仲間たちを見渡す。
ソレイナ。
ユシル。
アヤネ。
フリート。
アイナ。
五人とも個性的だ。
騒がしい。
手がかかる。
だが。
嫌ではなかった。
むしろ。
楽しかった。
夕日に照らされながら。
神代レンと五人の擬神たちは笑い合いながら家路を歩いていく。
それは戦いとは無縁の。
どこまでも平和な放課後の時間だった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




