第百十一話 いつもの登校風景
俺は神代レン。
普通の高校生だったが、スキル《神核生成》というスキルでソレイナという炎の擬神が現れてから俺の普通は終わった。
自然の擬神ユシル。
操りの擬神アヤネ。
海洋の擬神フリート。
そして知識の擬神アイナ。
気付けば五人の擬神たちと共に過ごす毎日が当たり前になっていた。
神代家を出た俺たちは住宅街の道を歩いていた。
朝の空気は澄んでいる。
風は穏やかだ。
空には雲ひとつない青空が広がっていた。
登校する学生たち。
犬の散歩をする人。
仕事へ向かう大人たち。
いつもと変わらない朝だった。
レンは鞄を肩に掛けながら前を歩く。
その後ろを五人の擬神たちが続いていた。
ユシルは相変わらずシャボン玉の上で浮いている。
ふわふわ。
ゆらゆら。
風に乗って漂う姿は自由そのものだった。
フリートが少し呆れたように見上げる。
「ユシルさん、今日も歩かないんですね」
ユシルはにへらと笑った。
「だって楽だも~ん」
「運動不足になりますよ?」
「だいじょ~ぶ~」
「絶対大丈夫じゃないと思います」
そんな二人のやり取りにレンは苦笑する。
この会話も何度目だろうか。
だがユシルは全く変わらない。
たぶん今後も変わらない。
アヤネはそんな様子を見ながらため息を吐く。
「学習能力というものはないのでしょうか」
「あるよ~?」
「本当ですか?」
「あるけど使わないだけ~」
「駄目ですね」
即答だった。
フリートは思わず吹き出す。
ソレイナも小さく笑っていた。
その横ではアイナが何やらノートへ書き込んでいる。
レンは気になって覗き込む。
「また書いてるのか」
「はい」
「今度は何だ」
「ユシルさん観察記録です」
「観察されてたの~?」
ユシルが興味深そうに覗き込む。
アイナは真面目に読み上げた。
「本日も移動手段はシャボン玉。歩行率ゼロパーセント」
「おぉ~」
「さらに朝から三回欠伸」
「そんなしたっけ~?」
「しました」
「すご~い」
なぜか感心している。
レンは思わず額を押さえた。
アイナは本当に何でも記録するらしい。
しばらく歩いていると商店街が見えてきた。
朝の準備をしている店主たち。
シャッターを開ける音。
荷物を運ぶ音。
活気が少しずつ広がっていく。
フリートは周囲を見回して目を輝かせる。
「朝の商店街って良いですね」
「そうか?」
「はい!」
元気よく頷く。
「なんだか今日も頑張ろうって気持ちになります!」
レンは少し笑った。
フリートらしい。
前向きで明るい。
周囲まで元気にするような性格だった。
ソレイナも頷く。
「確かに良い雰囲気ですね」
アヤネも珍しく同意する。
「悪くありません」
ユシルはパン屋の匂いに反応していた。
「おなかすいた~」
「さっき朝ご飯食べただろ」
「別腹~」
「早すぎるだろ」
レンの突っ込みに全員が笑う。
そんな賑やかな会話を続けながら歩いていると、やがて見慣れた校門が見えてきた。
『異能学園高等学校』
巨大な校門。
広い敷地。
多くの生徒たちが登校している。
レンたちもその流れに混ざった。
すると。
聞き慣れた声が飛んでくる。
朝比奈咲夜だった。
元気よく手を振っている。
「おーい!」
レンも手を上げる。
「おう」
咲夜は走ってくる。
その後ろには月影詩乃もいた。
詩乃は相変わらず静かな様子で歩いている。
咲夜はアイナを見るなり目を輝かせた。
「おはよー!アイナちゃん!」
アイナは丁寧に頭を下げる。
「おはようございます」
「今日もかわいい!」
「ありがとうございます」
「反応が真面目!」
咲夜が笑う。
詩乃も小さく口元を緩めていた。
レンたちはそのまま校舎へ向かう。
朝の校舎。
生徒たちの声。
教室へ向かう足音。
賑やかな日常。
戦いもない。
事件もない。
平和な時間。
レンはふと窓の外を見る。
青空が広がっていた。
こういう日も悪くない。
そう思う。
隣ではソレイナが微笑んでいる。
ユシルは相変わらず眠そうだ。
アヤネは周囲を警戒している。
フリートは楽しそうに校内を見回している。
アイナは何かを記録している。
本当に騒がしい。
だが。
気付けばこの騒がしさが心地良くなっていた。
レンは少しだけ笑った。
そして教室の扉へ手を掛ける。
いつもと変わらない学校生活。
いつもと変わらない仲間たち。
そんな平和な一日が、今日もまた始まろうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




