第十話 水面に映る主
レンたちが生徒会の訓練に向かっている、その頃――。
現実とは異なる、静かな空間。
そこには“水面”だけが広がっていた。
空も地面もない。
ただ、揺らめく水鏡のような世界。
その水面には、ひとりの少年の姿が映っている。
――神代レン。
そしてその周囲で動く、いくつもの影。
「……主殿、結構頑張ってる……」
茶色いフードを被った少女が、小さく呟いた。
その視線は、水面の中のレンから離れない。
「そうですね」
紫のフードを被った少女が、静かに頷く。
落ち着いた声。感情の波は少ない。
「私たちはいつ召喚されるんでしょう」
猫耳のついた青いフードの少女が、退屈そうに言った。
尾を揺らしながら、水面を覗き込む。
「ランダムだし、主が使わないと出れないから仕方ないよ〜……」
その横で、ふわふわと宙に浮いている少女が欠伸をした。
「ふあぁ〜……眠ぃ……」
あまりにも緊張感のない声。
「そういえば、他のものは?」
紫のフードの少女が視線だけ動かす。
「休憩しているのでしょう」
茶色いフードの少女が淡々と答えた。
水面の中では、レンが訓練らしき動きをしている。
その隣には、赤髪の擬神――ソレイナの姿。
炎と氷、剣と力、異なる世界が交わっていく様子が映っていた。
「……主殿」
茶色いフードの少女が、ほんの少しだけ声を柔らかくする。
「本当に、あの人でいいのですね」
その問いに、紫のフードの少女はしばらく沈黙した後。
「ええ」
静かに答えた。
「選ばれた以上、私たちは従うだけです」
「でもさぁ」
青いフードの猫耳少女が頬杖をつく。
「アタシたち、結構強いよ? 出たら絶対びっくりされるって」
「それが“ランダム”の面白さでしょう」
ふわふわ浮かぶ少女が、ようやく目を開ける。
「強い子もいれば、変な子もいるし……ふふ」
どこか楽しそうに笑う。
水面の中のレンは、まだ自分の運命を知らない。
どれほどの存在が、自分の中に眠っているのかも。
「……まぁ、急ぐ必要はないですね」
紫のフードの少女が静かに言う。
「主が呼ぶその時まで、私たちはここに」
水面が、ゆらりと揺れる。
その奥で――確かに“何か”が目を覚まそうとしていた。
そして少女たちは、ただ静かに見つめ続ける。
主と呼ばれる少年の、これからを。
――遠いようで、すぐ隣にある運命を。
水面の奥で、確かに世界は動き始めていた。
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