5. 戦闘開始
ユウリはつかさず魔道具を二つを取り出し、一つ目のスリングショットに二つ目の特殊な火薬玉を引っかけ、魔力を込めて飛ばした。
ヒュゥゥ、っと口笛のような音を鳴らしながら火薬玉が着弾。被弾した直後、爆発した。
「ギィィィィィ!」
ダイナマイトを上回る威力の爆発が襲い、キメラは堪らず苦痛の声を上げる。
「魔法が効かなければ物理を使えばいいのよ。ハハッ」
ユウリは裏声でわざとらしく笑った。そして、一発、二発とスリングショットで火薬玉を飛ばして何度も爆撃する。少女をなるべく避けながら、相手が弱まるまで何度も。
その甲斐あってか異能の力が弱まったようで、動けるようになった女性はキメラの関節を斬り捨てて脱出する。だが、キメラは諦めずもう片方の手で少女を掴もうとした。
「束ねる光糸の手よ。〈アストラルハンド〉――〈グラップ〉ッ!」
ユウリのかざした手に巻きつくようにして現れる無数の光の糸。その光糸は束となって手の形をとって女性へと飛ぶ。弾丸の如く伸びた光糸の手は一瞬で彼女に届き、糸は解けて撒きついた。ユウリは光糸を握り、一気に引き寄せた。
飛んでくる女性をユウリは体を張って優しく受け止める。
「ふぇ?」
「やあ。災難だったね。まさかキメラに出くわすなんて」
「えっと、あなたは?」
腕の中で戸惑う女性。ユウリは内心『げっ、エルフ』と思いながらおろす。
「話はあとだ。今は休んでな」
「危険よ。あなたは魔術師で――」
「おーい葉っぱぁぁぁぁ! こっちだ!」
女性の忠告を無視してユウリはキメラを挑発しながら移動する。さすがの害悪行為にヘイトが溜まったらしくキメラもエルフを無視して追ってきた。
「来た来た」
ユウリは狭い道を選びながらスリングショットで火薬玉を飛ばす。だが、さすがのキメラも学習したようで飛翔する火薬玉を避ける。
あわよくばとユウリは思っていたが、キメラにそんな甘い考えが通用することはなかった。今度は入り組んだ道へと入り込み、キメラの死角へと身を置く。そして、準備する。
「――〈グラップ〉ッ!」
ユウリの視界にキメラが入った瞬間、脚に光糸を巻きつけて転倒させる。すぐさまスリングショットと火薬玉で爆撃する。
「ギィ、ギィ、ィィィ」
「あら? さっきより効いてなくね?」
黒煙から姿を現したキメラはあまり効果がないように見えた。
(もしかして同じ攻撃は徐々に効かなくなっていくのか?)
ユウリは思いながら役目を果たした魔道具のスリングショットを懐に収納した。
「なら、〝鉄甲銃〟は耐えられるのかな?」
ユウリはそう呟きながら懐から〝鉄甲銃〟を取り出す。
M&WR8。357マグナムリボルバーを近代化した銃。それをベースにして作られた銃。装弾数八発の357マグナム弾を使用。ダブルアクション採用。黒色のモデルでアンダーレールとマウントレールを備えている。ユウリ専用にカスタムしてある。
ユウリは不敵に笑って地を蹴り、キメラの顔面を踏み台に跳び越えて開けた場所に出る。
キメラも建物を破壊しながらそれに続く。
「――〈パラライズ〉ッ!」
振り向き様にユウリは相手を麻痺させる状態異常魔法を行使する。ピリッと空気をひりつかせて指定した対象に魔法がかかったのを確認する。
「多少は効くのか」
完全に動きを止めることはできなかったが、魔法耐性のある相手に効いただけも十分だ。
ユウリは銃を構え、体中を痙攣させながら近づくキメラに発砲する。
バン、バン、バン、バンと四発撃ち込み、距離を取りつつまた四発と撃ち込む。
キメラの装甲は思ったより硬く、銃痕が残る程度。まるで射撃用の鉄板を打つような音とともに弾丸の反動でよろめくだけで執念深く近づいてくる。
「………………」
ユウリは弾切れになった銃の銃身を上げ、シリンダーを開き、自重落下でカラ薬莢を排出し、銃身を下に下げ、三、三、二と弾を装填し、シリンダーを戻す。
「ギャァァァァァァァァ!」
麻痺効果が切れたキメラは折り畳んでいた鎌を出し、天高く振り上げて飛び込んでくる。
ユウリは臆することなく、真っ向から空中のキメラに向かって発砲し、鎌の攻撃を避ける。そして、地面に突き刺さった鎌を踏み台にキメラを飛び越え、がら空きになった背中に一点集中で全弾を撃ち込んだ。
ピキッと、装甲が割れる音がした。
「ギャァァァァァァァァァァッ!?」
悲痛の叫びを上げて、舞い上がった砂煙の中へと消えるキメラ。その姿をガン見しながらユウリはシリンダーを開放し、カラ薬莢を排出する。
「ギィ、ギィィィィィィィィィィッ!」
弾丸の装填中、羽音が土煙とともに強風が吹き荒れ、反射的に顔を腕で隠す。
それがいけなかった。視界が遮られた瞬間、タイミングを見計らったかのように土煙から出てきたキメラは鎌を振る。ユウリは身を引くが、装填中の銃を叩き落とされてしまう。
「お――」
銃に意識が向いた。その油断が仇となった。
キメラは鎌を折り畳み、関節部分から出した無数の糸でユウリの足を絡めとられる。
宙吊りにされたユウリは身動きが取れなくなった。そして、目の前のキメラの固有能力で全身の力が吸い取られ、手も足も出なくなるという絶体絶命の状況だ。
だが、ユウリは腕を組んで、勝ち誇ったかのような表情のキメラを見据える。そして、「勝ったな」と言いながら笑う。
「触れられたらおしまい、と思ったけど、事前に付与された魔法に関しては異能の対象外のようだな。事前に準備しといてよかった」
防御補助魔法〈バリアコーティング〉。魔力の薄い膜で全身の表面を覆い、対象に与える影響を弾く魔法だ。似たような魔法だが、少女に使った魔法と違うのは内か外、処方か予防という一点だけだ。
ユウリは空から一丁の銃を取り出す。なにもないところから手品のように。
S&WM500という大型リボルバーをベースにした銃。五〇経口マグナム弾使用。シングルアクション採用。装弾数五発。ショートバレル。ユウリ専用に改良した銃だ。
ざっくりと、銀色に輝く大型のゴツイリボルバーと覚えとくといい。
「チェックメイトだ」
撃鉄を引き起こし、引き金を引く。
ズガァン、と轟音とともにキメラの頭部は吹っ飛び、赤い鮮血が飛び散った。
死んだ、とユウリは思ったが、キメラが虫型ということもあってわずかに動く。
「ええ、しぶと」
ユウリは悪態をついて、撃鉄を引き起こそうとした瞬間、
「やああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
助けた女性がキメラの背後を取り、胴体を斬り捨て、トドメを刺した。
瞬く間にキメラは塵と化し、その場には血痕と、大きな魔石だけが残った。
「やるじゃん。ナイスアシスト」
ユウリは決め顔をして、地面へ真っ逆さまに落ちた。
頭をぶつけたのは言うまでもない。




