4. 特地 / フィールド
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ユウリは都市から丁度目的地を横切る馬車に乗って土地へと赴いていた。
緑覆う廃墟の町〈パルフの町〉。
そこは山の麓に位置する廃墟の町。過疎っていたのか不明だが、一軒家と次の一軒家までの大きな開きがあり、町の中心は石材と木材の建物が密集している。荒れ果てているとはいえ、石材や木で整備された道は健在で、町全体も藪になっていないことも幸いだ。
ここは特異地域に指定されている。通称〈特地〉。
〈特地〉とは、魔力の異常によって発生する土地などを指して使われる言葉だ。
魔力の影響を受けて環境は急激な変化を遂げ、魔力濃度が高く、危険な魔物が徘徊する場所だ。人が住むには適さず、採取や魔物討伐以外では訪れない場所だ。
有体に言えば迷宮の親戚。人工物が多いところだとそれが顕著に表れる。
「やらかした。採取でだいぶ時間を食っちっまった」
ユウリは町に立ち寄ってからずっと採取をしていた。魔法薬などの材料になる〈特地〉ならではの植物を種別に別け、その辺をいったり来たりを繰り返していた。
「わざわざ来たのになにもしないのは勿体ないと思うとなぁ。まあ、そのおかげで思わぬ収穫もあったことだし、これはこれで万々歳か」
ユウリはカゴ一杯のラズベリーとブラックベリーを摘まみ食いしながら、椅子にしている物をぽんぽんと優しく叩く。
それは軽く三メートルは超える巨大な黒い岩塊だ。三対の脚。一対の巨大な鋏。岩で原形がわからない巨大な体躯。鉱物類が剥き出しになった黒い岩塊を身に纏う大蟹の魔物だ。
「〈モリイワガザミ〉は普段なら洞窟や迷宮にしかいない引きこもりなんだけど、こうやってたまに脱皮するため外に出て来るんだよな。抜け殻が高く売れるんだよ」
甲殻が鉄のように硬く、特定の属性に強い。加工が少し難しいが、武具職人などには愛されている。そして高く売れる。
「さてと。そろそろ魔法之鞄に突っ込んでいきますかね」
背伸びをしたユウリは鞄を大きく開けて、脱皮殻にずぼっとあてがうが、うんともすんともしない。というより魔道具が反応しない。
「うん、まあ、入んねぇよな」
魔道具の一つ、魔法之鞄は冒険者の必需品とも呼べる便利な魔法道具だ。上限はあるものの大量の荷物を鞄一つで運搬ができ、重量を気にしなくていい。
少し裏技を使って魔法之鞄に収納したユウリは迷宮に向けて出発する。
「それにしても平和だなぁ。普通なら魔物と遭遇してもおかしくはないんだけど」
ユウリが呑気に呟くと、常時発動状態の探知魔法が反応した。探知した方角に目を向けた瞬間、目の前の建物が爆発が起こったかのように倒壊した。
そして、土煙の中から一人の女性と魔物が姿を現した。
「あれは……」
ユウリの目は、女性が対峙する魔物のほうに向く。
体高が三メートルほど、のコノハムシとカマキリを合わせたかのような魔物。円形状の紋様、おそらくは瞳孔らしきものがぎょろぎょろと複眼の中で動いている。胴体には脈動のように光が走る模様。そして、ノコギリのような鋭い返しがついた鎌だ。
その特徴、その異質な姿、そして雰囲気でわかるこの正体は。
「キメラさんか」
迷宮獣。別称〝深淵の魔物〟。迷宮に発生する化物。通常の生物とは違い、人を殺すために生まれてきたのではと言わんばかりに人を積極的に狙い、殺し、取り込む。他の生物には見向きもしない。そんな特殊な習性を持つナニカだ。
幾度となく調査が進められてきたが、解明には至ってはおらず、今だに謎多き存在だ。名ばかりだが、最初に発見された迷宮で名付けられたのが由来らしい。
「でもなんでキメラがここに?」
この付近で目撃報告はなかったはず、とユウリが小首を傾げている間にも、緑髪のエルフはロングソードでキメラの攻撃を弾き、さらに懐に潜り込んで胴体を斬る。
ガリリッ、と削る音を響かせ、キメラは後退する。
「浅いか!」
女性はそう言ってキメラの大振りの大鎌二連続の攻撃を見事に弾き飛ばし、よろめいた瞬間を見逃さず、脚一本、装甲とも呼べる葉のような部分を切断した。
キメラは赤い鮮血を撒き散らしながら悲鳴を上げた。
「キメラ相手によくやるなぁ。大したもんだけど、そろそろかな」
ユウリは呑気に観察しながら呟く。
瞬間、キメラの鎌が腕の中へと折り畳まれ、人の手のようなものが生えてきた。
女性が全力で後方へ逃げようとした瞬間、さらにキメラの疑似的な手が、まるで糸が解けるように変形し、無数の糸となって襲いかかった。
「しま――」
不意を突かれた女性は簡単に捕まり、宙吊りにされてしまった。
抵抗する素振りはなく、だらんと吊るされた人形のように動かなくなる。その様子から危機的な状況に陥ったとユウリは理解する。
「力が、全然入らない……っ!」
だらん、と吊るされる女性冒険者。辛うじて剣を握る程度の力はあるようだが、それも気張ってなんとか耐えている状況だ。なにより、自重が逆転したことで彼女の大きな胸が装備ごしに張ってより強調され――いや、今はどうでもいいこと。
「まあ、こうなるよな」
これはキメラの能力だ。キメラは魔法の類が使えない代わりに異能の力を持つ。ついでに言ってしまえばキメラには同じ姿の個体が存在しない。遭遇する個体で形が違い、それと同時に能力も違う。そのため異能がどんなものなのか判断がつかない。
毎回違う対処が必要になる冒険の厄介者だ。
「――〈メンタルオブアウト〉ッ! ――〈フィジカルオブアウト〉ッ!」
ユウリは手をかざして二つの魔法を行使する。
精神干渉と肉体干渉で起こる汚染や干渉を防ぐ魔法だ。キメラが接触していることでセシリアになにかしら作用させているのは明白だ。なら、対処できる魔法を使うまでだ。
だが、女性には変化はない。術者からも効き目があった感触はなかった。
「やっぱダメか。さしずめ、触れたものを無力化するなにかしらの能力かな」
ユウリは淡々と言いながら、
「――〈ファイヤーボール〉ッ!」
火系統の魔法を行使し、キメラに被弾させるがよろめくどころか無傷だった。
「魔法への耐性あり、か。めんどうだな」
ユウリはそう言いながら後頭部を掻く。
個体の中には魔法が効かない個体も存在する。運が悪いことに今回の個体は魔法が効かない、もしくは効き目が薄い個体なのだと、ユウリは推測する。
キメラの口へと運ばれる逆さ吊りの女性。先程からユウリが横やりを入れても本人は無反応だ。このままいけば無抵抗のまま頭から捕食される。
魔法の効果がなければ魔術師は打つ手がない。ただ食べられていく様子を傍観するのみ。ユウリもまたその一人なるのだろう。だが、それは職業だけで見ればの話だ。
「なら、こちらはどうかな?」
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