3.『一時加入』
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女性冒険者の定位置であろうテーブルに連れ去られ、椅子に座らせられていた。そして、ユウリはエルフに羨望の眼差しを向けられている。
気まずい。そしてなんだか怖い。そんな感情が湧き上がるが、彼女からのパーティの申し出に対してなにかと聞かなければいけない。
「あの、これはパーティ勧誘でおk?」
「うん。勧誘で間違いないよ。と言っても一時的な話なんだけど」
一時的な勧誘でした、とユウリは言質を取ったところで聞きたいことがあった。
「あのぅ、お名前は?」
「え? ああ、自己紹介がまだだったね」
女性はそう言って、コホンと咳払いをする。
「私はセシリア・エルフィルロス。職業は〈精霊剣士〉のⅮ級冒険者。風精霊の加護を受けるエルフの一人です。よろしく」
胸に手を当てそう紹介するセシリア・エルフィルロス。長髪のワンサイドアップの緑髪と琥珀の瞳。スタイル抜群、鎧の上からでもわかる大きな胸に引き締まった腰回りと、しっかりした体格だ。一六五センチほどの身長。年上ならではの雰囲気を漂わせながらも幼さを残す容姿。垢抜けたエルフだ。革素材の装備に長剣を腰に下げている。
あとエルフだからすごく美人だ。
「髪が緑色なのは精霊の力を宿しているからなのか、噂では聞いてたけど初めて見た」
「精霊核を有してるエルフは、なかなか国を出ないからね」
元々エルフは金髪碧眼が一般的な外見だ。だが、精霊の力、精霊核を宿すエルフは外見の色が異なる。今回の場合は風精霊なので緑系統だ。瞳は差異あり。
生きているとこんな出会いがあるんだな、と小僧なりに思い、自己紹介をしてくれたなら今度はこちら側がするのが礼儀、とユウリは口を開く。
「俺はユウリ・ランディア。職業は〈付与術師〉のB級冒険者だ。よろしく」
B級冒険者も相まってか、声が漏れる程度には驚きの声がセシリアから漏れた。
「よろしくね、ユウリ。ところで聞きたいんだけど、その膝に置いてるのって、もしかしなくても《鉄甲銃》だよね?」
「え? ああ、そうだな。よくわかったな。これが《鉄甲銃》だって」
訊かれたユウリは思わず歯切れの悪い返答をしてしまった。
「自慢じゃないけど私は鼻が利くの。だからわかる。そして、ユウリのは他の冒険者と違ってちょっと毛色の違う火薬の匂いがする」
「そ、そんな臭うかな?」
ユウリは思わず服の匂いを嗅ぐが、自分はまったくわからなかった。
「あと、複数の匂いが混じってるけど、懐にもう一丁あるよね?」
そう言われてユウリは反射的に懐を押さえてしまい、自分の行動に思わず笑った。
「すげぇな。結構工夫してたんだけどなぁ」
嗅覚に優れた者や、エルフに知られることを考慮して〈鉄甲銃〉に巻いてある布には匂い消しを施している。嗅覚の鋭い獣人ですら嗅ぎ取れない代物を使用しているのだが、目の前にいるエルフは簡単に見破った。やはり、フローラルの香りで対抗すべきだったか、とユウリは後悔の念を抱いた。
「大きな《鉄甲銃》だよね? どんなのか見せてくれないかな?」
テーブルから乗り出してユウリとの距離を詰めるセシリア。
「使う機会があったらな。ここではちょっと、な」
さすがに公の場で見せるのは勘弁願うユウリは《鉄甲銃》を少し後ろへ引き、見せたくないという強い意思表示をする。
「あ、無理なこと言ってごめんね。自分の気持ちを優先させちゃった」
「べつにいいさ」
強行されないだけマシだし、とユウリは思いながら本題に入ることにする。
「話を戻すけど、俺をパーティに誘う理由を聞きたいんだけど」
パーティに誘うからには理由がある。勧誘だけなら嬉しい話だが、魔法職の中でワースト一位の〈付与術師〉で《鉄甲銃》を所持している変人を誘う理由を知りたかった。
「実はね。うちのパーティメンバーが、ここ数日ほど顔を出していなくて。ティナさんに聞いたら三日前にほかの冒険者と迷宮に出たっきり帰っていないみたいなの。それで誰か一緒に探しにいってくれる人を探してたの」
「……、にしては呑気に勧誘し過ぎじゃない? もっと慌てるはずだけど?」
「彼女は強いから危険度低めの迷宮じゃ心配にもならないよ」
「あっ、さいですか」
曇りなき笑みを見て、ぐん、とユウリの中の緊張感が一気に下がった。
「でも、地図がないと迷子になっちゃう子だから、どちらかというと餓死が心配で。だから食料が尽きる前に見つけて上げないといけなくて」
「しっかりヤベーじゃねぇか」
一人にしてはいけない危ない子を抱えてるのか、とセシリアに少し同情した。だが、それならべつにユウリである必要はないはずだ。
「俺、結構マイナーな魔術師だけど? それは良いのかな?」
「〈付与術師〉は魔術師の派生職業。付与以外の攻撃魔法を使えるくらい知ってるよ」
「おっ、そっか」
これは関心、とユウリは思った。職業のことを良く知らない冒険者は〈付与術師〉と聞くだけで眉を顰める。確かに支援魔法に特化した職業だが、立派な攻撃職だ。普通に攻撃魔法を扱える。字面だけで決めつけないでほしいものだ。
ユウリが思っていると、セシリアは口を開いた。
「それに、ユウリなら信用できると思って」
邪気のない笑顔を真っ直ぐユウリに向けて浮かべた。なにを根拠にそう言っているのかわからない。下手をすれば頭のおかしいヤバい女性である。
だが、彼女にそう言われて少しだけ悪い気はしなかった。
「あっ、お礼とか考えないとね。私たち駆け出し同然だからあんまりお金出せないかも」
「それならこっちに考えがあるから大丈夫。ところで場所はどこなんだい?」
「え? うん。ティナさんが言うには依頼で〈アグラナ鉱山〉へ向かったって」
「〈アグラナ鉱山〉だって!?」
ユウリが何度もお世話になったことのある《魔鉄鉱石》の採掘できる場所。そこに向かうのであればお互いの目的が達成できてウィンウィンじゃないか、とユウリは思った。
「銃弾がなくなりそうで、丁度《魔鉄鉱石》が欲しくて困ってたところなんだ! そこで採掘させてくれるなら喜んで引き受けるよ! 俺で良ければだけど」
「え、ホントに! ありがとう! 助かるよ!」
セシリアはユウリの手を握ってぶんぶんと振って喜びを表現する。
「早速いこうと思うんだけど、ユウリのほうは大丈夫だったりするかな?」
「俺は備えがあるからいつでもいけるぞ」
「わかった。あっ、その前に手続してこないとね。急ぐからちょっと待ってて」
「あいよ。そんな急がなくても良い近道知って――」
ユウリが席を立とうとしたとき、すっとテーブルに一枚の依頼の紙が置かれる。差し出してきた手を辿って視線を送ると見知った受付嬢がいた。
「……ティナか」
「仲間が見つかって良かったですねぇ、ユウリさん」
「まあ、一時的なものだけどな」
どこかで聞き耳を立てていたのか、頃合いを見計らって近づいたのは予想がつく。
「まあ、いいじゃないですか。そんなユウリさんには受けてほしい依頼があるのですが」
退路を断たれたユウリ。ティナに圧をかけられながら、仕方なしに「あれ? ティナさーん」と手続きを終えて戻ってきたセシリアと相談して依頼を受諾した。
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