28. 舞いこんだ依頼
セシリアが前にいたパーティをボコボコにした翌日のことだ。
いつものように冒険者ギルドで一つのテーブルを囲って今後の活動内容の確認をしていた。デスマーチを終えて、全員がB級冒険者となり、目標であるA級までもう少しというところまで来ている。話し合った結果、資金は潤沢、武装も十分だ、あとは量より質、高難易度の依頼をこなしていく方針で話はまとまった。
話がまとまった後は、急ぐ必要もないため、のんびりとスクリーンの映像を眺めながら、適当に頼んだ料理を摘まんでいた。
「最近、『パイルバング』の話、聞かなくなったね」
「そういえばそうですね。ここ一ヵ月は配信もなくなりましたし」
「やっぱデキ婚が原因かな」
「でしたら、あの〈神官〉だけが活動を休止すればいいだけの話だと思いますよ。魔力が安定しない妊婦を連れて、わざわざ危険な場所にいくこともないでしょうし」
セシリアとラリアの何気ない会話に、ユウリは『あいつらならやりかねないけどな』と思いながらフライドポテトを頬張った。
ユウリがもぐもぐしていると、ラリアはセシリアからユウリに視線を向ける。
「それにしても不思議ですよね」
「ん? なにが?」
ユウリはとくに考えずに訊いた。
「あれだけの依頼量をこなしていて、ユウリがA級に上がらないのは不思議と思いまして」
「確かに。ずっと前からB級冒険者だもんね。最初にA級なるのはユウリだと思ってた」
ヤバい、とユウリは内心で思ってもそれは表情には出さずに笑って誤魔化す。
「そんなもんよ。それに俺は支援特化の魔術師。そう簡単に上がったら反発がねぇ」
「〝煩雑〟の異名を持つあなたがそれを言いますか」
「久々にその異名きいたなぁ。それよりも次の依頼の話でもしようぜ」
ユウリはそう言って話を逸らした。ラリアは訝しげな表情を浮かべたが、詮索するのはやめて、「そうですね」と話を変える方向に舵を取った。
「でも最近平和なんだよなぁ。手頃な依頼があるかどうか――」
ユウリが立ち上がろうとした瞬間、すっ、と一枚の依頼が置かれた。
「でしたら良い依頼があるのですが」
声の主は言わずもがな神出鬼没の乱入受付嬢だ。
「ティナか。なんのようだ?」
ユウリは顔を顰めてティナに問いかける。
「冷たいですね。パーティを組んだユウリさんに良いお話を持ってきたんですが」
「冷たくもなるわ! よくも俺の収入をギャーギャーギャー」
ユウリが怒っている間、セシリアとラリアの二人は呑気にティナに「おはようございます」と挨拶をし、ティナもそれに「おはようございます」と返した。
「それで? 良いお話とはなんだね?」
茶番を終わりにしてユウリは良いお話というものを訊いた。
「最近、平原で迷宮が誕生したんです。その迷宮の攻略を、ぜひユウリさんたちご一行にお願いしたいと思いまして。見立てでは、危険度Cランクかと」
ユウリはテーブルに置かれた依頼内容を確認し、
「ほーん、〈塔〉系の迷宮か」
呟きながら二人に渡す。
「達成条件は迷宮の踏破。迷宮内で手に入れた物はすべてこちらの所有物、と」
「けっこう羽振りの良い依頼ね」
ラリアに言葉に続けて、セシリアはそう呟く。
「確かに成果を上げるには十分な依頼だな」
ちらっ、とティナに視線を移すると彼女は微笑んだ。
「どうでしょうか? 悪い話ではないと思うのですが」
「そうだなぁ。二人はどうだ?」
ユウリは少し考えた後、二人にも意見を求めた。
「私はいいかと。良いお話だと思います」
「私も賛成! 早速いこっ、ユウリ」
二人は考えるそぶりも見せずに賛成した。いく気満々である。
「んじゃ、その依頼を受けるよ」
「そう言ってくれると思っていました」
こうして、ユウリたちは〈塔〉の踏破依頼を受けることになった。
パーティ結成して初めての〈塔〉系の迷宮攻略。いつもなら下に向かうが、今回は上へ向かっての攻略だ。迷宮と言えど毛色の違った迷宮だ。世界からしたら魔力による暴走と凝縮してできたニキビのようなもの。それの除去しにいくと思えば苦ではない依頼だ。
「あっ、ユウリさん。あとこれを持っていってください」
ティナがなにか思い出したようで、受付のほうからある魔道具を持ってきた。
それは冒険者ギルドが調査依頼で支給される〝浮遊型自動撮影魔導具〟だった。
「ええ、これ使わないといけねぇのか?」
「今回の依頼は調査も含まれていまして。映像記録を残したいようです」
ユウリは魔導具を受け取り、溜息を吐いた。
「映像記録かぁ……」
「嫌かもしれませんが、どうか協力してくれませんか? 悪いようにはしませんから」
「……、わかったよ。世話になってるティナから頼まれちゃしょうがね」
ユウリは溜息交じりに魔導具を『虚空倉庫』に収納する。
「そんじゃまぁ、準備しますかねぇ」




