29. 本来の銃は
さて、〝塔〟は地表に突き出た縦長の建造物。登る迷宮と呼ばれ、出現頻度が高い迷宮だ。最大十階層までの塔が確認されており、例外を含めて様々な系統の塔が存在する。
階層ごとに核となる魔石が存在し、一度侵入すると大量の魔物が出現する。最上階には決まっており、巨大なゴーレムがボスとして君臨している。
ユウリたちは突如として出現した〝塔〟が存在する平原へと足を運んでいた。
「着いたぁ。平原だからすんなりと来れたね」
荷物を置いてセシリアは一息ついた。
「うひゃぁ……こりゃまたでけぇ〝塔〟だなぁ」
「これが例の……思ったより大きな建造物ですね」
迷宮の出口前。ユウリとラリアは〝塔〟を見上げる。
「見た感じ、〝塔〟の材質は大理石っぽいな」
「そうなると、ゴーレムは相当硬いでしょうね。骨が折れそうです」
塔によってゴーレムの材質に違いがあり、それは塔の材質を見ればどんなゴーレムが最上階で待っているのかが簡単に判明する。
「それじゃ、〝大理石の塔〟って呼んだほうがいいかな?」
「セシリアは呑気ですね。自分が一番大変かもしれないというのに」
「大袈裟。岩ぐらいスパって斬れるって。ユウリもいるしね」
セシリアは、ラリアの言葉に明るい笑顔でそう返す。
「えらい頼りにされてるな。俺も対応できないこともあるから気をつけては欲しいなぁ」
「その時は、肩にかけてる布巻の〝鉄甲銃〟で助けてよ。もしかしたらここで見れるかもしれないし、少し楽しみにしてるんだから」
セシリアの視線はユウリの肩にかけている〝鉄甲銃〟に向いていた。
ユウリは〝鉄甲銃〟に触れ、
「機会があったらな」
苦笑いを浮かべて言った。その傍らで傍観していたラリアが溜息を吐いた。
「セシリア。あんまりしつこいと嫌われますよ」
「ごめんごめん」
咎められたセシリアは笑顔で謝罪するが、その軽薄さと、いまだに布巻の〝鉄甲銃〟に熱い視線を送る彼女にラリアは呆れた様子で溜息を吐く。
「前から思っていましたが、なぜそんなに〝鉄甲銃〟に拘るのですか?」
ラリアは不思議そうに尋ねる。
「言ってなかったっけ? 私がある種族の末裔を探してるっていうのは話したと思うけど、銃は私が探してる種族が使ってた武器なんだ」
「にわかには信じ難い話ですね。千年前から〝鉄甲銃〟が存在していたことに驚きです」
「昔は〝鉄甲銃〟なんて呼び方はされてなかったらしいけどね」
「そうなんですね」
意外な真実に興味が湧いてきたらしいラリアは食い入るように聞いている。そんな彼女を見て察したのか、セシリアも嬉しそうな表情を浮かべている。
「私の国ではその種族は英雄でね。銃は英雄の武器として今も語り継がれてるの。私が銃に興味を持つのはその影響かな。使う人は稀だから、もしかしたらって希望を持っちゃうの。とくに、ユウリの持ってる布巻の大きな銃とかね」
「セシリアの言うとおりなら少数派のユウリも該当しますね」
ユウリは生温かな視線を感じ、迷宮へ挑む準備の手を止める。
「ラリアさん。まじまじと見ないでください」
半笑いでその場をやり過ごそうとしていると、セシリアは首を横に振った。
「それはないかな。私の知ってる銃はもっと複雑な形したものだから」
セシリアは自分の荷物から硝子板で厳重に保護された紙を数枚ほど取り出す。
「これは銃に関して記された本の一部。焚書されてなんとか残ったものなんだ」
それは五割ほど焼き焦げており、読むのは困難なほどだった。だが、銃らしき絵と名前がぎりぎり確認できる程度には残っていた。
「厳重に保管してますね。貴重な歴史物に見えますが、誰からか譲り受けたのですか?」
その問いにセシリアは首を横に振った。
「家から勝手に持ってきたの」
「……良い性格をしてますね」
気を取り直して二人は仲良く焚書の一部を見始めた。
「ユー、ジ……ん? ルミ、ス? よくわかりませんが、変わった〝鉄甲銃〟ですね。こっちは、えっと、グロフ……? MG42軽機関、……銃?」
「それ、私の一押しの銃!」
眉を顰めるラリアに抱き着くセシリアはそう言った。
「材質はなんでしょうか……私の持ってる〝魔導銃〟とは違うのですか?」
「全然違うよ。あれは魔法と術式の塊だし。こっちは実弾で連射ができたらしいよ」
「ですが、それだと〝魔導銃〟も一緒です」
「うーん。そうなんだけど、なんて言えばいいんだろう。中身が違うというか……いま見てるMG42軽機関銃は毎分一五○○発撃てるらしいよ」
「なんですかその変態銃は。人類でも最大連射速度は五○○なのに」
セシリアは腕を組んで眉間を寄せて唸った。
彼女たちが話している〝魔導銃〟というのは、魔法と術式で作られた連射を可能した魔道具の銃。中の構造は本物とは程遠く、複雑な部分はすべて魔法と術式が担っている。
ちなみに、魔導銃にはラリアが持っているスナイパーライフルというカテゴリはない。
「しかし、聞けば聞くほどお興味深いですね。実弾用の銃は基本的に単発式です。ダブルアクションやセミオートマチックとかは存在しますが、実弾の連射式は初めて聞きます」
考えるラリアは、ユウリに視線を送る。
「ユウリは連射式の銃でなにか知りませんか?」
「いや? 君らからそれを聞いたのが初めてだ」
「そうですか」
ラリアは淡泊にそう言ってまたほんの一部に目を通す。
「不思議ですね。考えてみれば連射式の実弾銃があってもおかしくはないと思うのですが、代用品があるから? だから開発もされないのでしょうか」
「故郷の国でも開発に失敗したからねぇ」
そんなセシリアに、ラリアは微笑した。
「ですが、少しでも可能性があれば諦めないセシリアが『ユウリは違う』と断言したのは初めてです。「そうかもね」ってユウリに熱い視線を送るのかと」
ラリアの言葉にセシリアは苦笑する。
「もう千年も見つからない種族の末裔だからね。あんまりしつこいと嫌われちゃう」
笑顔でセシリアはそう言った。だが、その言葉はユウリへの配慮というよりかは諦めに近い言葉だった。彼女の笑顔は微かにだが、陰りのようなものをユウリは感じた。
そんな二人に、一人準備を終えたユウリは口を開く。
「……、盛り上がってるとこ悪いんだが、迷宮に入る準備は?」
「えっ、あっ! すみません! 今すぐ準備しますね! ほら、セシリアも!」
「私は終わったよ?」
「えっ」
ラリアの準備を終えるのを待って〝大理石の塔〟へと侵入した。
足を踏み入れた瞬間、三人に反応するかのように薄暗い空間が一気に明るくなった。
「これが内部ですか……」
「見て、中心に魔石があるよ」
初めて見る〝塔〟の内部にセシリアとラリアの二人は驚いていた。
ユウリはティナから支給された〝浮遊型自動撮影魔導具〟を起動した。これで映像が記録されると同時に配信が開始された。と言っても見ているのはギルド関係者だけだが。
「あんまり撮られたくはないんだがな」
「仕方ないよ。これも仕事の一貫だし」
「だよなぁ」
正面からわき出し始めた魔物を眺めながらユウリは溜息を吐いた。
「スケルトンですか。思ったより少ないですね」
「だな。補助魔法はいるか?」
「いえ、セシリアが必要になった時にお願いします。この程度なら私一人で終わります」
ラリアはそう宣言し、杖がかざしながら前へ出る。
「――〈浮かす魔法〉」
そう言葉を発した瞬間、スケルトンたちが浮き上がった。
「――〈跳ね除ける魔法〉」
スケルトンは勢いよく後方へと飛翔していき、壁に衝突して粉々に砕け散った。攻撃性のない魔法で、赤子の手を捻るかのように戦闘が終了した。
「〈魔法師〉の魔法か」
「はい。普段なら唱える必要はないのですが、久々に使ってみたくなったので」
魔法職の〈魔法師〉は術式を使わずに魔力を用いて世界に現象を起こすことが可能だ。それは目に見えない精霊などが起こす現象と同じである。大切なのはイメージ。ただ弱点を上げるとすれば複雑なことはできないということ。
「もう湧き出ては来ないですね。一層目はこれで終わりでしょう」
ラリアは平然とした表情でそう言った。
「さすがラリア。これで二階層もちゃちゃっと終わらそう!」
「簡単に言わないでください……って抱き着かないでください」
抱き着くセシリアをラリアは怪訝な顔をして引き剥がそうとする。
「まあ、まだ一階層だからな。気を引き締めていこうか」
ユウリは肩から布巻の〝鉄甲銃〟を下ろし、隙間から手を突っ込んで引き金を引いた。
「――えっ」
その一連の様子を見た二人は意外そうに目を見開いた。
「てっきり使わないのかと思ってました」
「ん? ああ、念のためだ。使わないことに越したことはないがな」
「まあ、そうですね。二階層目にいきましょうか――――ん? セシリア?」
呆然と佇むセシリアに、ラリアは声をかける。
「えっ、ああ、えっと、なんでもない」
半笑いでそう言うセシリアに小首を傾げるラリア。
「……、そうですか。ならいきますよ」
「うん!」
ユウリは二人が追いつくのを待って二層目へと登った。




