22. とらぶる
装備を新調してから三日経った。
一ヵ月間、一日何十件と依頼をこなし、今日もそれをこなしてきた帰り道。なんてことない道の最中に、ラリアはぐったりと石の上に座ってしまった。
「すみませんが、少しだけ休ませていただけませんか?」
「大丈夫? ラリア」
いつもと様子の違うラリアに、セシリアは心配して背中を摩った。
「この一ヵ月間、毎日のように依頼三昧だったしな。無理もない」
ユウリはラリアの様子を見ながらユウリ特製飲料水を取り出し、ラリアに手渡した。彼女は「ありがとうございます」と言ってそれを飲み干して息をついた。
「美味しい……なんですかこれ?」
「爺さん直伝スポドリ。動かして不足した栄養が入った飲み物さ。体調を崩したときはこれを飲むと少し楽になるからな」
「すみません。ユウリが掲げてくれた目標に達していないというのにこんな体たらくで」
自分の不甲斐なさに申し訳なさそうに顔を伏せるラリア。そんな姿を見てユウリは、
「よし。それじゃ、今日を持って爆速昇級デスマーチを終了とします」
ぱん、と手を叩いて締めくくった。
「いいの? まだ目標たっしてないんだよね?」
「うーん。昇級自体はもう時間の問題だし、良いと思うんだよね。それに体が資本の冒険者が倒れちゃ本末転倒だし。むしろ限界が来るまで無理させてしまって申し訳ない」
ユウリは苦笑しながら謝った。
「そんなこと言わないでください。望んだのは私たちなんですから」
「そうだよ。ユウリがいなきゃここまで昇級することなんてなかったんだから。ティナさんも言ってた。一ヵ月でこれだけ上がるのは異例中の異例だって」
二人の言葉にユウリは微笑み、ラリアに背中を向けて屈んだ。
「そっか。そんじゃ、帰りましょ」
ユウリはラリアを背負って〝ラヴィエル〟に向けて歩き出す。途中、
「よーし、このまま競争だぁ!」
「おぅ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。もう少しゆっくりあう、う、う、う、う」
ユウリはラリアを背負った状態でセシリアとともに帰路に着くのだった。
――――
話はまだ終わらず。
ラヴィエルに戻り、依頼達成の報告を終えたユウリは、セシリアの案内のもと、ラリアを自宅に送り届ける緊急依頼を遂行していた。
「べつによかったのに、ラリアくらい私一人で背負っていけるよ?」
「いいよいいよ。帰る方向は一緒みたいだし」
ユウリはそう言ってラリアを背負い直す。ラリアはセシリアと賃貸で同居しているらしい。一緒に冒険を始めてからずっとだそうだ。ユウリも賃貸を借りている。わりと広めの部屋を。帰る方向が一緒だからもしかしたら近いのかもしれない。
「こっちだよ」
セシリアを先頭にユウリはそれについていく。本当に帰り道が一緒だ。もう少しでユウリが住んでいる賃貸につきそうだ。
「ここだよ」
セシリアが足を止めた場所に、ユウリは口をあんぐりと開けて見上げた。なにを隠そうそこは、ユウリが部屋を借りている建物そのものだったからだ。
六階建ての集合住宅。2LDKである。家賃一〇万。モダンな部屋が売りだ。防音対策もしてあるが、隣部屋の大きな物音は気にならない程度には聞こえる。
「どうしたのですか?」
固まっているユウリに、疲労困憊のラリアが話しかけた。
「いや、俺もここの部屋を借りているんだよね」
隠すことでもないのでユウリは正直に話した。
「そうなの? 何階?」
「四階」
「あ、一緒だ」
そんなミラクルあります? とユウリの脳内で呟いた。
気を取り直してユウリは、セシリアたちとともに四階へ上がった。この集合住宅の良いところは、エレベーターがついていること。魔導技術が発展した街ならではである。
四階に到着したところで、ラリアをセシリアに渡して別れることに。
「ここまでありがと。ユウリ。また明日ね」
「ああ。また明日」
軽く挨拶を交わし、ぐったりしたラリアを担いでいくセシリアの背中を見送り、ユウリは自分の部屋のドアノブに手をかけた。そのとき、隣からもドアノブを開ける音がした。
「へ?」
隣の部屋に入っていったのは別れたばかりのセシリアとラリアだった。
衝撃。隣人はなんとセシリアとラリアだった。
「……。そんなこともあるもんなんだなぁ」
ユウリはそう呟きながら、ドアを開けて自分の家に帰宅した。「ただいまぁ」と気の抜けた声で自分以外だれもいない空間に呼びかけ、魔導具の明かりをつけた。
なんてことないソファとテーブル、それとテレビという魔導具があるリビングを通り抜け、ユウリの企業秘密が詰まっている作業部屋の隣、寝室用の部屋に入った。
ユウリの部屋は、複数の本棚と、入りきらなかった本などがL字型机の三分一を埋め尽くしている。ベットは上質なものを使用している。
ユウリは肩にかけていた布に包んだ銃を立てかけ、ベットに寝転んだ。
一息つきながら天井を何気なく見つめた。数分ほどぼーっとして、深く溜息をつき、晩御飯を作るか、と上半身を起こそうとした瞬間だ。
ガシャン、ドンガラガッシャァァン。と隣から大きな物音が聞こえた。
隣はセシリアとラリアが住んでいる部屋からだ。普段なら聞こえてこない音に、ユウリは驚いて思わず、ぴっ、と上半身を起こして壁を見る。
そしたらまた、ドン、ドンドコドン、ドン。と聞こえた。
「なんだなんだ」
ただことではないと思ったユウリは飛び起きて自宅を出た。即座にセシリアたちの部屋の前まで走り、とりあえず術式を解析して作ったマスターキーをしれっと使用して家に侵入する。そして、音のした方向へと急いだ。
「おい! なんか物凄い音がし、た………………」
おそらく、二人どちらかの部屋であろう部屋。そこに広がる光景にユウリは固まった。
「うっ……、いやぁ、ラリアぁ……。正気に戻ってよぅ……、ひゃ!」
そこでは上半身を裸にされたセシリアの肌を貪るように舐めとるラリアの姿があった。
ラリアは一心不乱に舐めていた。虚ろな目のまま、セシリアの柔肌に舌を這わせ、舐め上げ、ときには吸いついて楕円形の赤い痕を残す。
ラリアは喉を鳴らし、セシリアは艶のある声を漏らす。
あられもない姿にされたセシリアがラリアに辱められている。床には引き千切られた下着やボタンがユウリの足元に散乱していた。
あのセシリアが組み伏せられている。押しに負けたか、あるいは純粋な力で負けたかは定かでない。だが、見たことない二人の姿が、ユウリの中でなにかが咲いたのは確かだ。
いや、そんなことはいい。
今はどう声をかけたらいいかユウリにはわからずに唖然とした。
「あっ」
周知に満ち、涙目のセシリアと目が合った。
瞬間、セシリアはラリアを抱え込んで、ばっ、と上半身を起こした。
「ち、違うの! これは、その、ああれ! 体だけの関係だから!」
「さらに誤解を深めてどうする!?」
ユウリは思わずツッコんだ。




