11.『ミノタウロス戦・②』 ‐終了
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ユウリは二人との距離を確認し、構築した術式を元手に欲する力を口に出す。
「〈マナブースト〉〈エーテルドライブ〉〈マインドリフレーション〉――ついでに〈フィジカルブースト〉〈パワーブースト〉〈プロテクション〉〈シャープエッジ〉ッ」
魔力の最大値を上昇させる強化補助魔法〈マナブースト〉。魔力消費量を軽減する補助魔法〈エーテルドライブ〉。魔力の自然回復力を上昇させる補助魔法〈マインドリフレーション〉。身体能力を上昇させる強化魔法〈フィジカルブースト〉。攻撃力を上昇させる強化魔法〈パワーブースト〉。魔法防壁を作り出す防御魔法〈プロテクション〉。武器自体の殺傷能力を上昇させる強化魔法〈シュープエッジ〉。この戦闘に、必要な魔法を次々と行使した。
「なに、これ!」
ミノタウロスと応戦するセシリアはそんな言葉を漏らす。
「すごい……魔力が回復していく」
ラリアもまた、魔法の効果を実感しているようだった。
戦闘中はかなり頼り甲斐のある職業の〈付与術師〉。
一番の弱みは、一つの魔法につき、一つの単純な効果しか付与できないということ。
複雑な効果を付与する魔法は少なく、条件つきの魔法が多い。
それに魔法を行使するのに詠唱も加えると時間がかかる。
だが、ユウリは無詠唱による時間の短縮が可能だ。
驚く二人の様子を準備運動をしながら見るユウリは笑い、体中に魔力を巡らせた。
「さて、俺もいっちょ暴れますか」
指を鳴らしながらミノタウロスの群れに向かって地面を蹴る。
肉薄するユウリは片刃の短剣を引き抜き、ミノタウロスの懐に入り込む。そして、片足に切れ込みを入れ、膝を着いたところを心臓部分に数回ほど刺突する。
撃破したミノタウロスの膝を踏み台にし、さらに肩を踏み台に奥へ跳躍し、背後のミノタウロスの頭部に剣を突き立て一発で撃破する。
ユウリは短剣を納刀し、ミノタウロスの手から落ちたボロボロの大剣を片手に持ち、襲いかかる魔物たちを到底〈付与術師〉とは到底思えない速度で切り捨てていく。
「すごい……」
「これが、ユウリの実力ですか」
セシリアとラリアは目を見開いてユウリの戦いぶりを見ていた。
騒ぎを聞きつけた新手のミノタウロスの群れがこの場に集結していた。ユウリはその中にどの魔物より一回り大きい個体を発見した。
「おっ、長っぽいヤツもいるじゃぁん。ここで仕留められそうだな」
ユウリは笑みを浮かべ、ボロボロの大剣をボスに向けて投擲する。偶然射線に入ったミノタウロスの顔面を直撃し、減速した大剣が群れのボスに届くが簡単に弾かれてしまう。
「まあ、簡単にはいかないよな――〈パラライズ〉ッ!」
ユウリはミノタウロスの視線がセシリアとラリアに向いたのを視認し、状態異常の魔法を行使する。だが、何体かは群れの仲間を壁に魔法の効果を通り抜けて二人に向かった。
「そっちにいったぞ!」
後方で待ち構えるセシリアとラリアの二人は、
「いくよ、ラリア!」
「ええ!」
接近するミノタウロスに向けて散開する。
最初に接敵するは魔法職のラリア。屈強なミノタウロスに向かって果敢に挑むには頼りない魔法職の彼女だが、瞳は真っ直ぐ魔物を見据えていた。
ラリアがミノタウロスの間合いに入った瞬間、魔物は雄叫びを上げて大剣を振るう。
「ここ――〈バリア〉ッ!」
タイミングを見計らい、防御魔法の〈バリア〉を展開し、ミノタウロスの大剣を見事に弾き飛ばす。剛腕から繰り出されたミノタウロスの一撃は、傘を広げるかのように展開される防御魔法によって跳ね上がり、巨大な体躯を大きく仰け反らせた。
「〈アースブレイド〉ッ!」
魔法を行使するとともに、地面から刃を模した岩石が生え、ミノタウロスを貫いた。
だが、それだけでは終わらない。緻密な魔力操作によって繰り出される剣山は、次々と襲いかかるミノタウロスの急所を的確に串刺しにしていく。
「うへぇ、やるねぇ」
ラリアの戦いぶりに感心しながらユウリは近くのミノタウロスを蹴り飛ばす。
一方でセシリアも負けていない。先程とは打って変わってミノタウロスの剛腕から繰り出される猛攻をすべて避け切り、次々と斬り捨てていく。
先程とは見違えた、洗練された動きと剣裁き。魔力による不安を取り除いたおかげか、ミノタウロスに苦戦を強いられていたセシリアは自分の実力が発揮されている。
「おまたせ!」
そして、ユウリを追い抜いて狙っていたミノタウロスも含めて次々と一掃していく。
「ちょっ、ホントに駆け出しかよ。揃い揃ってA級並みの実力じゃねぇか」
魔力消費の心配がなくなったおかげでセシリアは生き生きとしていた。不安要素という名の枷から、檻が解放されたかのように、彼女の満面の笑みから伺えた。
「これが良いきっかけになるといいな」
ユウリはセシリアを見ながら、ミノタウロスの横っ面を殴った。
雑魚はすべてセシリアたちに任せてユウリは群れの中で一際大きな体躯と質の良い武装をするミノタウロスに視線を送る。
バッ、とユウリは地面を蹴ってボスの間合いに入り、短剣で胴を斬る。しかし、魔力操作で強化しただけの一撃では仕留めることができず、微かに魔石が露出しただけだった。
「やっぱボスともなれば結構硬いな――っと」
呑気なことを呟いている間に、ミノタウロスは腹部へ角が突き出される。咄嗟に角先に手をつき、跳躍して回避。そのまま伸身を翻して回転と威力を加え、
「〈旋回脚・天落〉ッ!」
ミノタウロスの頭部に〈格闘士〉の技である踵落としを叩き込んだ。硬い肉を打つ鈍い音ともにミノタウロスはよろめいて膝を着く。ユウリはそれを見逃さない。
「束ねる光糸の手。〈アストラルハンド〉――」
右腕から巻きつくように現れた光の糸を顕現させるが、それだけでは心もとないと同じ魔法を行使し、左手にも顕現させる。
「もういっちょ。〈グラップ〉ッ! 引っこ抜いたらああぁぁぁぁ!」
切傷から両手の光の糸を使って魔石を掴み、強引に引っこ抜こうとする。
「グあぁ、ガガぁ……ッ!」
「抜けないなぁ! なら、〈マインドビート〉ッ! ダメ押しで〈マナドレイン〉ッ!」
発動中の魔法に魔法を接続する。光の糸を弾いた瞬間魔法で増強された振動がミノタウロスの体内を破壊する。そして崩れる肉体から魔力を奪う。脆くなった内部から魔石が抜きかけた瞬間、最後の悪あがきと言わんばかりにミノタウロスは光の糸を掴み、上半身に巻きつけてユウリを釣り上げる。
「ちょっ!? おおっ!?」
ミノタウロスのボス。その圧倒的な怪力には身体強化魔法を施していないユウリは力負けして飛んでいく。両手は塞がって魔法も真面に使えない。術師なら絶体絶命の状況だ。
だが、ユウリは力負けすることを瞬時に理解し、足が地面から離れる瞬間、全身を捻りながら光の糸を緩めることなく、巻き取りながら跳躍していた。
「〈スクリューキャノンドライバー〉ッ!」
ユウリが繰り出したのは〈格闘士〉の技、回転をかけた飛び蹴り。若干の伸縮性のある光糸と跳躍した勢いから生み出される速度はミノタウロスを驚かせた。ミノタウロスは咄嗟に両腕で防御するが、直撃したユウリの足がさらに回転とともに突き刺さり、後方へ地面すれすれを滑空し、岩壁にめり込んだ。
「アチョーォッ! 〈ドロップキック〉ッ!」
ユウリは追撃として光の糸を巻き取りながら飛び蹴りを撃ち込んだ。さらにミノタウロスが壁にめり込んだことで、壁が崩壊して隣の空間と開通した。
ユウリはミノタウロスが落とした大剣を持って瓦礫から這い出ようとするミノタウロスの胴体を突き立て、剣の代金代わりに魔石を抜き取った。
第二の心臓ともいえる魔石を失ったミノタウロスは瓦礫の中で息を引き取った。
「いっちょ上がりぃ、と」
少しオーバーキルしすぎたミノタウロスを見ながらユウリは呟く。
ユウリの背後で戦う二人が、最後の一体を討伐したことでこの戦闘は終了。組んだばかりのパーティにより、迷宮に巣食うミノタウロスの群れを全滅させた。
「ん? おっ、目的地じゃん。ここ」
そして、空間と繋がったことでユウリたちの目指していた採掘ポイントに辿り着いた。
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