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12. 夢を追う者たち

「んららぅら、んんらうらぅら~、たったたらぴっぴっぴ」


 変な鼻歌交じりに採掘をするユウリを静かに見守るラリアは彼の言葉に甘えて、用意してくれたクッキーを食べつつ、レモンティーを飲んで休憩していた。


「……。不思議な人ですね」

「誰が?」


「ユウリですよ。なんだか、思っていたよりも普通の人だな、って思いまして。もうちょっとこう……近寄り難い人なのかと思っちゃいましてね」


 いまいち理解していないセシリアに言葉を付け足して言う。


 B級冒険者ユウリ。『煩雑(はんざつ)』の異名を持つ〈付与術師(エンチャンター)〉の彼は、噂を聞くだけでどれだけの実力があるのか不明のままだった。有名なA級パーティに在籍していたことだけは知っていたが、それでも彼の活躍は今日まで明るみに出ることはなかった。


 まさかセシリアが組んだ冒険者が、ユウリだったのは驚いた。

 様々な職業(ジョブ)の技能まで習得しているという話は疑ったが、証明できるものを見せられたら信じざるおえない。ユウリはただの冒険者という枠内には入り切らない人物だ。


 それに〝鉄甲銃〟を所持していること、だろうか。


 なにかと謎と疑問の多いユウリだが、それでもすごい冒険者ということは確かだ。


「よくユウリをパーティに誘えましたね」

「偶然だったからねぇ」


 照れくさそうにセシリアは頬を指で掻きながら微笑んだ。そんな彼女を見ながらカップの中のレモンティーに映る自分を見つめた。


「……。セシリアはユウリをどう思いますか?」

「どうっ、て……一緒に冒険できたらなぁ、て」


「そうですか。実は彼をパーティに引き入れようかと思いましてね」

「ホントに! 聞かなくても私は大歓迎だったのにぃ」


 セシリアは目を輝かせてラリアに至近距離まで近づいた。


「私も色々と心の準備というものが必要なんですよ」

「気負い過ぎ。もうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃない?」


「そうですが、玉砕覚悟のお誘いですよ? ユウリは正真正銘の超優良物件です。引き込んでしまえば今後も安泰でしょう。そんな彼を欲しがる人は五万といるなかで、実力も差があり過ぎる私たちが断られることは目に見えています」


 クッキーを頬張りながらラリアは平坦な口調で言う。


「でも誘うんでしょ?」

「そうですね。確かめたいこともありますしね」


 色よい返事が貰えないのは明白だ。だが、何事も物は試しだ。これはセシリアのためでもあるし、ラリア自身の個人的な事情もある。ユウリほどの適任者はいない。


「それでこそラリアぁ」


 徐々に元気を取り戻してきたセシリアは小動物を扱うみたくラリアを抱き締めた。毎回のことなのでラリアは諦めて熱い包容を受け入れて溜息を吐いた。


「なにかとすぐハグをするのは悪い癖ですよ」

「いいじゃない。ラリア可愛いんだもん」

「はいはい、そうですか。ああ、スリスリしないでください」


 小動物を愛でるように撫で回すセシリアには、ほとほと呆れて抵抗する気も失せた。


「なにかとスキンシップが多いですが、それをユウリにするのは厳禁ですからね。ともに道を歩むのなら、男の気持ちも考えて情欲を呷るような行為は控えるべきです」


「ん? 私はそんなことした憶えないけど? それに、ユウリは特別だし」

「……。まさか、鉄甲銃絡みじゃないですよね? 銃もってれば誰彼構わず――」


「そ、そんなわけないじゃない! ユウリはなんというか、心から安心するというかなんというか、それに懐かしくて良い匂いがするし」


「火薬の匂いが、ですか? セシリアは少し鼻がおかしいのでは?」

「エルフには良い匂いなんだってば!」


 そう弁明するセシリアだが、元気になった分、その必死さが逆に怪しい。


 笑ったり怒ったりと忙しいセシリアを見ていると、自分の悩みがそれほどのものでもないと思えてしまい、ラリアは深い溜息を吐いた。



 ――



 それから、採掘を終えて無事に迷宮を脱出した後、さすがに夜ということもあって、安全地帯で野宿することになった。


 今回の成果は大籠二つ分。ユウリはそれを山分けでラリアたちに半分ほど頂いた。欲しがっていた相手から貰うのは気が引けるが、ユウリは「いいからいいから」と押し問答となり最終的に諦めてありがたく頂いた。


 ユウリの手料理をご馳走してもらい、食後は焚火を囲ってゆっくりしていた。


「わはぁ~。魔鉄鉱石がいっぱい……」


 鉱石が大籠に抱き着くユウリは幸せそうだった。

 少しはお礼になったかな、とラリアは思いながら微笑んだ。


 彼との冒険はかなり実りあるものだった。消去法で組んだパーティとは大違いだ。なにより楽しかった。この冒険者とならきっと今後も楽しいだろう、とラリアは思った。


 だから聞いてみたかった。ユウリの根底にあるものを。べつにそうでなくてもいい。彼のことを少しでも知ることができれば十分だ。


「ユウリはいつから冒険者になろうと思ったのですか?」

「え? えぇっと、なぜかな?」


 自分の世界から戻ってきたユウリは驚き、半笑いを浮かべながら訊き返した。


「私も聞きたい。すごく気になる」


 疲れて寄りかかっていたセシリアが、見事に興味につられて前のめりになる。


「気になりましてね。多様な知識と技術を研鑽する理由と、その根底にあるものに。普通そこまでする冒険者なんていませんから」


 本心から尋ねた。

 首に手を当てながらユウリは少し唸って口を開く。


「小さい頃に、すごい冒険者になりたい、と言ってからかな?」

「すごい、冒険者にですか?」


 ラリアは聞き返すと、ユウリは頷いた。


「うん。俺にはたった一人の家族がいてな。祖父、爺さんが冒険者として名声を立てたすごい人なんだ。どこでどんなことをしたのかは知らないけど、冒険譚は良く聞かせてもらって、それから冒険に憧れて目指そうと思ったんだ」


「技術はどこで?」


「うちの爺さんの英才教育だ。俺が冒険者を目指したいという前からたくさんの知識を教えてもらった。魔術や剣術、動植物の生態、製作技術、そして裏レシピも」


「今さらっととんでもないことを言いましたけど、聞かなかったことにしておきますね」


 裏レシピ。一般化されていない魔道具などのヤバ目のレシピだ。表に出ると市場が荒れたり、宗教的にアウトなものまで。違法ではないが販売は全面的に禁止になっている。


「偉大な人なんだね。優しくて家族思いの。そのお爺さん挨拶したいかも」


 冷や汗をかいているラリアに変わってセシリアが話を進めた。


「偉大? とんでもない。変わり者さ。たまに意味不明な単語を口にする偏屈ジジイさ」


 そう言うユウリだが、その反応にセシリアは微笑んだ。


「お爺さんが大好きなんだね。それに、ユウリも変なこと言うじゃん」

「美女魔女ファソラちゃん、とかですね」


 ラリアとセシリアに指摘され、ははっ、とユウリは薄ら笑いを浮かべる。


「まあ、今にしちゃ、すごく曖昧な夢なんだけどな」


 気を取り直して話の続きをするユウリはそう言った。


「ユウリは十分すごい冒険者だと私は思いますけどね」

「そう言ってくれると非常にありがたいが、まだまださ」


 ユウリは頬を掻いて言葉を続ける。


「なあ。〝箱庭〟って単語を聞いたことはあるか?」

「〝箱庭〟ですか?」

「盆栽? それとも、どこかにある地名?」


 セシリアの言葉を聞いたユウリは首を横に振った。


「俺もなんだかさっぱりだ。でも、爺さんからの遺言なんだ。『お前の夢は漠然としてるから指標をやろう。〝箱庭〟を探せ』ってな。その単語だけ残して逝っちまった」


 まるで御伽噺のような話だった。それくらい果てしない目標だと伺えた。

 ラリアは胸が高鳴った。


「まあ、そんな感じだ。今じゃ一番の目的になってるな」


 おどけて言うユウリは微笑んで、


「これで俺は合格かい?」


 そう言った。先に本題に入られてしまい、思わず出かけた言葉を飲み込んでしまった。


「気づいてたんですか?」

「いや? でも、なにか物ありげな感じだったからそう言っただけだ」

「そうですか」


 彼が話したのなら私も話すのが筋だ。そう思い、ラリアは口を開く。


「私にも夢があります。記憶を取り戻す、という夢が」

「記憶を取り戻す、とはどういうことだ?」


 ユウリは小首を傾げながら訊ねた。


「私は過去の記憶がありません。ですから、自分の軌跡を辿るために冒険者になりました」

「へぇ。なるほどねぇ。軌跡、ねぇ……君の種族のことも関係してるのかな?」

「……っ」


 気づかれてる、とラリアはそう思った。見た目は人間族とほぼ変わらない。だが、ユウリはそのわずかな違いに気づいた。詮索しないのはこちら側を気遣ってか。


 すると、セシリアが元気よく手を挙げた。


「はいはい! 私の夢は一千年前の末裔を探すこと! と言っても、手がかりとか、全然そういったものとかないんだけどね」


「うわっ、気が遠いな。それ。一千年前の末裔をか」


 ラリアとセシリアの夢は途方もない。どちらも手がかりが一切なく、いきつくためのプロセスが組めない。それを踏まえるとユウリの顔が引きつるのも当然だ。


 だが、現状ならユウリと同じ状態。彼もまた仲間が欲しいはずだ。


「では、本題なのですが、私たちと一緒に冒険しませんか?」

「俺が? 一緒に冒険?」

「はい。私たちと冒険をしてくれませんか? ほかでもないあなたに」


 これは賭けだ。ユウリが話してくれた夢は嘘ではないのだろう。だが、半ば諦めているような夢ならばこの提案は蹴られて終わりだ。


 ユウリは考える素振りを見せ、少しの間を置いて、


「その話乗った。むしろ、こんな面白い話、あっしめにも一枚噛ませてくれでやんす」


 笑ってふざけた口調でそう言った。


「良いのですか?」


「いいもなにも冒険はそうでなくちゃ。夢でも挑戦することはきっと楽しいだろ? もしかしたらみんなの追いかけてる夢が繋がってるかもしれない」


 思ったよりも色よい返事がもらえてラリアは、ほっと胸を撫でおろした。


「セシリアと同じこと言うんですね」

「世間って意外と狭いですからねぇ」

「一千年も離れてるのにですか?」


 ラリアは口を元を押さえて微笑する。


「これで一緒に冒険ができるね」

「ホントに、今日は良い機会に恵まれました」


 似た者同士と言ってしまえば終わりだが、ユウリとの出会いはきっと大きな転機だ。動かなかった歯車が動き出したかのように、すべて変化していくだろうとラリアは思う。


「なんか、ぽっと出の俺が二人の中に入ってよかったのかな?」

「こちらとしては、むしろ首根っこ掴んででも逃したくありませんよ」


「あらやだ求婚?」

「今すぐ出ていきますか?」

「ごめんなさい」


 出会ってからたった半日の出来事。ともに夢を追いかけたいと、そう思えるような冒険者を見つけた。ユウリとならこれからの冒険もきっと楽しいだろう。


「それでは、よろしくお願いします」

「よろしく。帰ったら色々手続きとかしないとな」

「そうですね」


 ラリアとユウリは握手を交わす。それを隣で見ていたセシリアも「私も私も!」とユウリの空席の手を借りて笑顔で握手した。


 上手く勧誘できてよかった、とラリアは思う。きっとこれから、なにもかもが大きく変わっていく。ラリアはそう思えて仕方がないのだ。

 願わくば、ユウリの祖父に引けを取らない、冒険譚が紡がれる冒険であることを。



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