14. ドルドレッド銃具店
交易都市〈ラヴィエル〉の工房街。
数多の職人が腕によりをかける冒険者御用達の場所。冒険の準備は万全に、旅の武装を整えて、傷つき衰えた武具を修繕し、ついでに魔導具を買っていく。
そんな冒険者たちで溢れ賑わう場所である。武器や防具以外にも魔力を通すだけで生活を豊かにしてくれる道具、移動手段など幅広く取り扱っている。それに交易都市ということもあって、各地からあらゆる商品が集まり、欲しい物はたいてい取り揃っている。
それに時代の流れとともに技術的にも発展していく光景は目を見張るものがあった。
車に、列車に、飛行船、と規模は小さくても便利な物がどんどん開発されていく。百年未満の寿命では世界の活躍を追い続けられない現実に悔しい気持ちであろう。
だが、世界のある事実を知っているユウリにはあまり気分の良い物ではなかった。
「……虫食い技術」
大画面のスクリーンに流れる映像を見ながらユウリは呟いて歩いていく。
そんな工房街。栄えているところから少し離れた人通りの少ない場所に、先日パーティリーダーとなったユウリが訪れていた。
目的地は簡素な造りの小さな店。銃専門の職人のいる店だ。
「やってっかぁ?」
いつものように気兼ねなく入店する。まず最初に目につくのは殺風景な店内だ。そして、三十路そこいらの店主が暇そうに新聞を眺めている姿が目に入る。
痩せ型の高身長。もやしを言われたらそれまでだ。ほっそりとした、いやゲッソリとした顔つきと鋭い目つき。丸眼鏡をかけて白髪を後ろに一本に縛った男性だ。
そんな男が入店してきたユウリに目を向けず、
「やってなければドアは開かんよ。ユウリ・ランディア。それより、合言葉は?」
静かにそう返答する。
「常連客に必要か?」
「防犯さ。常連客を装う輩もいるからな。言わないならうちではなにも売らんよ」
仕方ない、とユウリは口を開き、
「銃を持つ者、英雄の名を語ることなかれ。過去の栄光を語る価値はなく、背負う資格はそこにあらず。放浪の果てに継承された意味を成す」
言い終えて息を吐く。
「なあ、これなんの意味があるんだ?」
「さあな、合言葉だって複数ある。知りたいなら教えてもらったクソジジイに聞けばいい」
「とっくの前に仏様になったよ」
「まったくおかしな話だ。あいつが死ぬなんてな」
店主は深々と溜息をつき、吊り下がっているヒモを引いた。
瞬間、仕掛けが動き、壁や棚、台が動き、多種多様な銃が現れる。
殺風景だった店内は一瞬にして銃だらけの店になった。
「ようこそ、〈ドルドレット銃具店〉へ」
そう言って店主、もといセイジ・ドルドレットは微笑した。
セイジの店、〈ドルドレット銃具店〉は、都市では片手で数えるほどしかない銃器を取り扱う武器屋だ。銃器のほかに弾薬も、その前の段階の素材、部品といった銃関連の品物を取り扱っている。銃制作、弾薬制作、カスタマイズ、売買、と多岐に渡る。
少し特殊な店ということもあり、繁盛しているかは不明だ。
「さて、今日はどんなご用向きかな」
カウンターに肘をつくセイジの前に、ユウリは〝魔鉄鉱石〟が入った大籠を出す。
「これの加工を頼む」
「久々に顔を出したと思ったら、これはまた大量に持ってきたな。わがままを聞いてくれる気の良い仲間でも見つけたか?」
「まあな。言ってしまえば、そこのパーティと当分組むことにしたんだ」
「これはまた、随分と出世したもんだな」
「茶化すなよ。金はこんぐらいで足りるか?」
事前に用意していた硬貨袋を渡す。セイジは中身を出して手際よく金貨、銀貨、銅貨、と分けて枚数を数え始める。
「……、丁度だな。いつも通り、弾丸だけ制作すればいいのか?」
「ああ。――それと、火薬の素材と薬莢を頼む。ほい、追加の金」
ユウリはもう一つ硬貨袋を取り出してカウンターに置いた。
「いつも思うんだが、俺に火薬の調合レシピを教える気はないのか? 手間が省けるぞ。同胞なのだから頼っても良いんだぞ? なんなら魔法の契約書で契約しても構わない」
セイジにそう提案されるが、ユウリは少し困った。
「つっても秘伝のようなものだしな。そう簡単に教えられないんだ」
「なら仕方ないな。弾丸は出来上がり次第、ユウリの借部屋に送ろう」
「いつも助かる」
火薬の件は案外あっさりと諦めてくれた。ユウリにとって銃に関するレシピは祖父が代々受け継いできた物の一つだ。同じ〝鉄甲銃〟を所持する者同士でも安易に家宝のようなレシピを教えることはできない。だが、
「どうぞ」
今後のことを考慮すると悪くない提案だ。ユウリは火薬のレシピを事細かく詳細を書いた用紙と、記入済みの魔法の契約書を置いた。
「……、教えられないんじゃないのか?」
「そうも言ってられなくなってな。銃弾作製の手間が省けるなら、ほかの道具作製に時間をかけたい。これから消費も激しくなるだろうし、できることはしておきたい。あとこれ、弾丸と薬莢に付与する術式な」
「おいおい。財産丸ごと晒す気か? そんなに頼りないのか、今回のパーティは? まさか全員駆け出しのFとかDとかじゃないだろうな?」
「そうだが? 付け加えると一人はCだ」
ユウリは肯定するとセイジは溜息を吐いた。
「俺は冒険者じゃないが、そのパーティはやめたほうが身のためだ」
失礼なことを言うセイジだが、傍から見れば事実だ。等級差のある冒険者同士がパーティを組むことは寄生に近い。全員がユウリより下だと、セイジの反応も納得がいく。
だが、ユウリからすれば優秀な人材だ。悪く言われるのは気分が悪い。
「確かに駆け出し同然だけど、俺は〈付与術師〉だ。駆け出しぐらいで十分だろ。それに俺の仲間は優秀だぜ? C級以上の実力はあるし、磨けば化けるぞ」
「……。まあ、お前が言うならそうなんだろうな。だが、お前らしくもない。わざわざ財産でもある技術を他人に晒すなんて、なんでだ?」
その問いにどう答えたらいいか、ユウリは少し気まずくなる。
「爺さんの遺言なんだよ。『お前はなんでもできるから、一人でやっていけるだろう。だけどいつかわしのように孤独になる。手遅れになる前に仲間は作っておけ』ってな」
「………………」
「それに俺含めて全員の夢が結構デカくてな。それの手伝いをしたいし、協力してくれるって言うから俺も夢を追いかけようかな、って。こんな理由じゃダメかな?」
「なるほど。似た者同士というわけか」
「有体に言えばな」
「……。まあ、お前がそれでいいならそれでいい。だが、後悔はするなよ」
セイジは納得いっていないようだが、今のところは納得してくれた。彼は溜息交じりに〝魔鉄鉱石〟の入った大籠をもって奥へ移動しようとする。
「ああ、そうだ。もう一つ、買いたいものがあるんだ」
要件を思い出したユウリは、工房に向かうセイジを止める。
「あのユウリに買いたい物があるとは珍しい。なんだね?」
ユウリは棚に置かれている物に指を差す。
「そこの箱をいくつか買いたいんだ」
「いいが、それはただの鉄に術式を付与しただけの代用品だぞ? 性能も威力も劣る」
「それでいい。俺の銃で撃てる弾ならなんでも。弾の節約のために」
「まいど。俺は弾丸の制作に入る。今度は銃弾にして届けてやろう」
「頼んます」
ユウリは指定した箱を購入し、店を後にした。




