56.開幕、魔術運動会
地の文が多めです。
晴天の中、いよいよ幕を開けた魔術運動会。
ナタリーの思い付きと暇つぶしが、この町にとってかなり重宝しており、賑わいを見せている。ただのレクリエーションでも、磨き抜かれた技術と、魔術の腕も見せるにはかなり絶好の機会と言える。そもそもこのレクリエーションは、運動会に参加しない生徒が活躍するための場所だ。だからこそ、ここまでの賑わいを見せている。
そんな中、いよいよ開会式だ。生徒会長のニイジマ・ナナミはマイクを手にする。拡声器と呼ばれる魔道具で、《エコー》の魔術がかけられており、声を掛けると反響する。要は響くんだ。
それを利用することで遠くの方まで声を届ける。
それがこの魔道具の使い道。まさか面白いものがこんなにあるなんてと、ルカは感心した。でも昔にも似たようなものはあり、今じゃ骨董品、つまるところのアンティークとして根強い人気がある。
「今日、晴天の中、私は無事魔術の祭典が開けたことを心より思います。今日からの三日間、魔術の腕と青春の轍に励みましょう。上級生の中にはこの三年間の魔術に掛けた青春と、今後に生かせるような素敵な体験ができれば嬉しく思います。下級生の皆さんも、上級生の皆さんを見てしかと学んでくださいね。では皆さん、精一杯楽しんでいきましょう」
開会の挨拶をもって幕を開けた。
この感覚は何なのだろうか。あまりに緩い。ルカは、ニイジマ・ナナミと言う人間をそこまで詳しくは知らない。だからこそ、肩を崩したような挨拶が少しはにかんだようで、きっとニイジマ・ナナミと言う人間性をもっと詳しく知ることができれば、なにか分かるのではないだろうか。
あの凶悪に近い不穏な魔力の鼓動。その理由も、いつかはわかるのかもしれないが、挨拶を聞き終えると、ルカは早速役目を果たすため、その場を後にした。
「それで、ライは私と同じでよかったの?」
「うん。だって楽そうじゃない?」
ルカはライラックと行動していた。
あの後、ライラックの行動はかなり消極的な感じで、ルカと同じ役目を拝借した。その理由はかなりシンプルなもので、ルカをどうこうでも弁護でもなく、単に楽そうに一言で尽きる。それ以外にライラックがこの役目を選んだ理由は他にはなく、その結果、
「でもシルヴィも災難だよねー。流石、未来の生徒会長」
「生徒会長? ふーん、シルヴィ目指してるんだ」
「そうそう。あれでも、かなり信頼高いんだよ。生徒からも先生方からも、かなり厚くて、努力家ってことで知れてるんだよ?」
「そっかー。凄いね」
ルカの反応はかなり薄い。それもそのはず、興味の欠片もない内容だったからだ。何せ、生徒会の仕事に関心はなく、そんな面倒なことに巻き込まれたくないと心の奥底から願っていた。ナタリーだったら推薦してきそうだが、残念ながら遠慮する気でいる。
そんな時、シルヴィアがつい災難な気がした。何せ、選んだものが最悪だからだ。
「まさか生徒会補佐なんてね。災難でしかないよ」
「だよねー。今頃、ひーひー言ってるんじゃない?」
「どうかな? 意外と楽しくやってるかもよ?」
「でもあの性格だよ? しかもあの会長さん。如何思う?」
「最悪の反応はしそうかもね」
それこそ、天才と秀才の差だ。
努力家なシルヴィアはかなり真面目。だけど、ニイジマ・ナナミは天才だ。
その差がある。そして価値観も違う。だからこそ、それがいいスパイスになっていいのかもしれない。もしかしたら最適解だったのでは? と脳裏をよぎる。
「まあいっか。とりあえず、こっちはこっちでやることをしようか」
「そうだねー。だけど、一体何をしたらいいのかなー?」
「そうだね。例えば」
ルカは周りを見回す。すると、ひったくりをしようとする男の姿を目撃した。
ライラックは糸を出して捉えようとするが、それを制止してルカは縮地で一気に間合いを詰めると、
「ほいっ」
「はぁ!」
ドサァ!
男は倒れた。投飛ばされた? いやその場で軽く崩されて腕を抑え込まれていた。
手に持っていたのは、盗んでいた財布。ルカはそれを取り上げると、近くで茫然としていたライラックに「これ、返してきて」と伝える。しかし、
「ルカ、今何したの?」
「普通に落としただけかな。別に大したことはしていないよ」
体の軸を使って、体重移動で倒しただけだ。
ルカにとっては何もしていない。しかしそばで見ていた人たちからしてみれば、一体何が起こったのか、何もわからない。流石のライラックも、目を丸くして惚ける暇もなかった。
何故なら、ルカがやったことは驚異的なことで、古武術に似ていた。これが呼吸の使い方ってやつだ。
「普通に、ほら腕も掴んで落とす。こうした後に、後ろから抑え込む。こうした時にちょうど肺の真後ろを押さえつける。たったこれだけだよ?」
「いやいやルカ。それは普通じゃないよー。やり慣れた動きだってー」
ライラックの言うことは本当だった。客観視した時に目に飛び込んできたものは絶対であり、効果は絶大。それを理解している身からすれば、ルカは称賛に値する。そう、ルカはいつの間にか目立っていた、警備生の制服を纏い、その姿はまるで執行官だった。
ルカは目立ってしまった自分を恥じる。それから少し目を伏せてから、その場を離れるのは決まっていたことだった、役割を全うするのはとても大変なことで、ルカは身に染みていた。きっとこれもナタリーの策略なんだろうと知りながら、そっと目を閉じた。
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