57.外回りも意外と大変
汗だくさん。
本当は楽だと思ったから選んだ。
周りの目もあるが、自分の存在を認知させないようにしていた。そうすれば、流石のナタリーも生徒たちからの視線と、保護者の圧力で私にとやかく言えないだろうと、ルカは考えていたんだ。
しかし、そんな希望はあっさりと打ち砕かれた。
決して絶望するようなことではない。しかし、この忙しさは何なんだ。
ルカとライラックは、変な汗が、流れていた。
「あ、熱い」
「うわぁー。服の中、汗でびしゃびしゃ。な、なんでこんなに疲れるのー!」
「わ、わからないよ。だけど、明らかにすりとひったくりが多いと思うけど」
ルカは額から流れる汗を左腕で擦って、拭き取った。
ライラックは壁際に寄って、ぐでーんと力が抜けたみたいに、寄りかかっている。
持っていた水はもう空っぽ。
振ってみても、一滴たりとも落ちてこない。これはあれだ。脱水症状だ。
ルカとライラックは、虚ろになりながら、人通りを眺めていた。
「疲れたねー、ルカ」
「うん。ライ、せめて服は着た方がいいよ。汗で下着見えてる?」
「もういいよ、そんなのー。とにかく熱いの。今日そんなに暑い日じゃないよね?」
「うん。でも私も熱いよ。全身から、湯気が出るくらい熱い」
「なにそれー? あははー、面白くないねー」
「ライ……ああ、やっぱりいいや」
ルカもかける言葉がなくなった。
チラッとライに視線を映せば、警備生の着る黒い制服を脱ぎ捨て、白いTシャツが湿っていた。水色の下着が輪郭を覗かせる。
「ライ、飲み物買って来るけど、いる?」
「あー、うん。欲しいかなー」
「わかった。じゃあちょっと買って来るから、見張りよろしくね」
「はいよー」
ライラックは腕をたゆませて、揺ら揺ら力なく振っていた。
ルカは眉根を寄せて、ジト目になりながら、人だがりの中に消えた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
「あー、熱い。全身が焼けそうだ」
ルカは人だかりの中をのんびり歩いていた。
あまりに熱すぎて、背中が曲がって猫背になる。
「せめて何か。何か買わないと……」
ルカは近くの露店で、飲み物を買うことにした。
冷凍魔術のかけられた箱。クーラーボックスの中から、水の入った瓶を取り出すと、ルカは財布からお金を取り出し、お店のおじさんに渡した。
「すみません。これください」
「おお、お嬢ちゃん毎度って、どうしたんだい、その今にも死にかけのセミみたいな顔は!」
「あはは、なんかそれっぽいですね」
ルカは薄ら笑いだった。
瓶の蓋を開け、中に入っている冷たい水を飲もうとした。
ドカァ!
「うわぁ!」
ルカは買ったばかりの瓶を落とした。
手汗で滑ってしまったんだ。しかし、瓶は割れないように回収した。だけど、中身は全部地面に零れた。
「ああっ!」
「お、お嬢ちゃん大丈夫かい?」
おじさんは心配してくれた。
だけどルカは落とした原因の方に視線を移すと、そこには男がいた。
何故かはわからない。しかし怪しさが増す。
「あれは……」
「警備生。ヤバいな……」
男は急に逃げ出した。
ルカはその姿を見てしまうと、走り出していた。如何してか? そんなの決まっている。
「あの男、払わせないと……待て!」
「お嬢ちゃん、そこなのかい?」
おじさんは、ルカの理由に呆れた。
だけどルカにとっては、死活問題で、苛立ちがピークだった。
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