第十六話 解散④
「まずは、ナンバーワン・フウガ」
「はい」
さすがのフウガも姿勢を正し、ミサトのほうへ向き直る。
「売上合計額は約七百万というところかしら。フウガはやっぱり性感技術に定評があるから、ロングを入れるよりはその分ショートで数回に分けたほうがいい、と考えるお客様が多いのが特徴ね。顧客数自体はそこまで多くないけれど、顧客数にたいしての売上はかなり高いわ。数人のお客様が定期的に泊まり予約を入れてくれるのと、太いお客様もついて、間違いなくforestのエースだったわ。ありがとう」
ミサトがにこりと微笑めば、フウガは数秒間、ゆっくり頭を下げた。
それがフウガなりの最大限の感謝の気持ちの示し方だと感じたのは、きっとミサトも同じだろう。
「次に、ジン」
「はい」
わかってはいても、こうして改めて呼ばれると背中がシャキッとした。
ミサトを真っ直ぐ見つめれば、満足そうな笑顔が返ってくる。
「約六百万の売上ね。フウガとは逆で、顧客数がとても多いわ。そしてリピート率が圧倒的に高いのが特徴ね。ロングまではいかなくても、性感だけの時間で終わらないのは、お客様自身があなたと過ごす時間を大切にして、いろいろと話したいと思っているからよね。アオの件で色々あった十一月と十二月も売り上げを落とさなかったことは素晴らしいわ。ちなみに、十二月単月での売り上げはあなたが一番よ。〝女性の心と身体に寄り添う〟その気持ちをいつまでも忘れないでちょうだい」
「はい」
そういえば、十二月ははじめてフウガの売上を抜き、forestトップになっていた。ランキングを見て知ってはいたものの、改めてミサトから発表されるとじわじわと実感が湧いてきて感動する。
シンヤから切って捨てられたシークレット・ラバーズ時代の自分の成績を思うと、今日まで自分がしてきたことは間違ってなかったのだと、強い自信と確信が持てた。
「次はカナタね」
「はい。お願いします」
軽く拳を握り、身体全体に力が入ったカナタからは、緊張している様子が見て取れた。
自身の売上自体は把握していても、なにを言われるのかと思うと身構えてしまう気持ちはたしかにわかる。
「カナタは約四百万円。最初は苦労したと思うけど、この結果はあなたの努力をお客様が認めてくれた証拠ね。新規で獲得した顧客数は誰よりも多かったわ。あなたの性格上だと思うけど、一人一人のお客様との予約時間をもう少し長く取れていたら、もっと売上は上がって迅を超えていたかもしれないわね。自ら積極的に研修に行って磨いた技術は、間違いなく今後のあなたの武器になるわ。これからも多くの女性を幸せへ導いてちょうだい」
「……今までお世話になりました」
俯きがちになって感謝の気持ちを口にしたカナタの肩が少しだけ震えて見えるのは、気のせいなどではきっとない。
情緒豊かなカナタは、forestが閉じてしまうことを誰よりも悲しんでいるに違いない。
「それから、トウマ」
「はい」
「金額的にはカナタとそう大きく変わらないわ。最初の無料会い問題を考えると、人としても大きく成長したように感じるわ。あなたの熱意がお店にもたらす影響力は大きかったと思うし、細かな気遣いは本当に助かったわ。お客様は少なめだけれど、予約時間は長いのよね。私たちが感じているように、お客様もあなたが傍にいることで安心感と居心地の良さを感じてくださっていたのでしょう。本当にお疲れ様でした」
「泣けてきます……。ありがとうございました」
少しだけ浮かんだ涙を拭う仕草をするトウマの姿には、思わずしんみりしてしまう。
だが、そんな空気を振り切って、ミサトは笑顔で一人一人の顔を見回した。
「そして最後に……、forestの最終売上についてだけれど」
なんとなく全員が緊張し、息を詰めてミサトの発表を待ってしまう。
「九月末に目標だった五百万を超えてお祝いのパーティーをしたこと、懐かしいわね。十月はアオの分の売り上げも入っているけど、過去最高の六百万。十一月以降は落ち込みもあったけど、よく耐えてくれました。九カ月の合計では三千万円に迫る売り上げを出すことができたわ。一人一人の頑張りがあってこそのforest。アオのことはあったけど、最高のメンバーだったわ」
すべてを締めるミサトの言葉に、本当にこれが最後のミーティングになるのだということを実感し、迅の胸の奥にはやるせない気持ちが広がっていった。
「以上よ」
自分が泣くことは許されないと思っているのだろう。
ミサトの明るい笑顔が物寂しい空気を照らし出す。
「ここまで、私についてきてくれて本当にありがとう」
この出会いに感謝を。
「みんなの、明るい未来を願っているわ」




