第十五話 感謝③
アオの件も本店オーナーのシンヤが裏で手を回しているのかと勘繰ってしまっていたが、結局はなんの関与もなかったことがわかり、それはそれで複雑な気持ちになった。
つまりは、自らが手を下すほどとは思われておらず、相手にされていなかったということか。
アオの一件でforestの評判も売上も劇的に落ち込んでしまったものの、唯一の救いとしては、迅から離れていく女性はいなかったということだろう。
そうして一日一件は入っている予約に、自分を選んでくれた女性へ全力に向き合って過ごしているとあっという間に一週間が流れていき、気づけばミサトの誕生日である十二月二十二日を迎えていた。
――『祝ってくれるかしら?』
ミサトはきっと、バーで一杯、くらいの気持ちで口にした言葉なのだろうが、迅は直接ミサトを祝うという選択肢は取らなかった。
代わりに、迅が用意した贈り物は。
――「十七時に、こちらのカフェ・レストラン『Café Sylvan』に来てもらっていいですか? 新藤、の名前で予約してあります」
――「十七時? ずいぶんと早いのね」
――「はい。すみません。その時間帯しか都合がつかなくて」
――「わかったわ」
三日前にミサトと交わしたラインを眺めつつ、迅はうまく段取りをつけられたことにホッと胸を撫で下ろす。
高校生の栞が夜の時間帯に出かけられるはずがなく、二時間くらいを想定すると、そこがギリギリの開始時間だったのだ。
――「予定通りに着きそうよ」
――「すみません。ちょっとトラブルがあって、五分くらい遅れそうです。先に入っていてください」
それは、今から数時間前のラインだ。
トラブルも遅刻も真っ赤な嘘で、迅は最初から行くつもりはなく、その会話を打った時にはしっかり自宅にいて部屋着で寛いでいた。
――「了解」
ミサトからのラインは、それが最後で終わっている。
二人が会っているであろう二時間をどことなく落ち着かない気持ちで過ごし、さすがにこちらから連絡することもできずに、ミサトからはなんの音沙汰もないまま朝を迎えてしまった。
――「今日は本当にありがとうございました! 迅さんのおかげで母と会う勇気を持てました。今日のことは少し頭の整理をしてから、後日またお話ししますね」
――「わかった。楽しみにしてるね」
――「はい。すごく大切な時間を過ごせました。あとで聞いてくれると嬉しいです」
――「喜んで」
栞からはそんな明るいお礼ラインが送られてきたが、二人は穏やかな時間を過ごすことができただろうか。
気にはなるが、今は見守ることが最善の姿勢だろう。




