第十四話 混沌④
「え……!」
ミサトから該当人物の絞り込みをお願いされてはいたものの、こんな短時間で特定にまで至ったのかと、全員がそれぞれの驚きの反応を見せ、室内はざわめいた。
「デビュー間もなくアオさんを指名した方で、週刊誌掲載のタイミングから情報を売った時期を逆算し、その頃にアオさんと会っている方を絞り込んだところ、十人ほどが該当しました」
ラブホはなんということもないように話しているが、かなりの数の指名客の中からそこまで絞り込んだこと自体がもはや凄すぎる。
しかも、さらにその中から特定人物を割り出すなど、いったいどんな手法を使ったというのだろう。
「該当者十人といっても、すでにアカウントを消されていたらお手上げですし、さすがにそれ以上の特定は無理かなと半分以上は諦めていたのですが、その方々とのDMを確認していたら気になる点を発見しまして」
「気になる点?」
「はい。文章に癖がある人っていると思うのですが、会話文にいくつか特徴があることに気づいたんです」
なにが引っかかったのかと瞳を瞬かせるミサトに頷いて、ラブホは特定するまでに至ったきっかけを説明する。
「癖……、特徴……?」
たしかに迅も、今まで数多くのDMをしてきた経験上、「にょ」や「ンゴ」といったおかしな語尾を使う女性や、絵文字を必ず三個並べて使う女性などの特徴を見てきたが、ラブホの発見もそういった類のものだろうか。
「まずは、『なるほどです』といった独特な相槌の仕方からはじまって、『有難う』に漢字を使う。「ハート」マークに半角を使う。「笑」を使わずに「w」を使う」
なんだかラブホが推理小説の探偵役に見えてきて、迅は心の中で「いやいやいや……?」という声を上げる。
想像した特徴よりも遥かに細かすぎて、自分であれば絶対に気がつかない自信しかない。
「そして、極めつけが誤字です」
「誤字」
思わずラブホの指摘を反芻してしまった迅の口元は引き攣った。
誤字に至っては特徴的だと思うどころか、下手をすれば間違っていることに気がつかない可能性すらある。
「『ずつ』と書くべきところを『づつ』と間違って使っている」
なるほど、と感心したのも束の間のこと。
「わたし、これらの特徴を持つ書き方をする人に心当たりがあって」
「え」
眉を顰めたラブホの発言に、迅は驚きの目を向ける。
それはつまり、単純に十人の候補者の中から該当人物を特定しただけに留まらず、その先の〝中の人〟まで辿り着いたという意味だろうか。
「さらに、その人がアオさんとDMを始めた頃のやり取りまで遡ってみたところ、『会った時には本名で呼んでほしい』とお願いしている会話があったのですが……」
つまりは、そのやり取りを見れば、本名がわかるということになる。
「予約名『マナミ』さん。お願いしていた呼び名は『マナちゃん』」
どんどん確信に迫っていくラブホの姿は、まさに密室トリックを解き明かして犯人に迫る探偵のようだが、どこかでその名前を聞いたことがあるような気がして、迅はどこでだっただろうかと己の記憶を手繰り寄せる。
「それだけなら偶然かな、とも思えますが、先ほども説明した通り、会話文の特徴がその人にそっくりなので」
「……〝その人〟って……」
ラブホが辿り着いた人物はいったい誰なのかとミサトが促し、他の面々は緊張の息を呑む。
「細井さん」
その名を呼び、ラブホは内勤スタッフの女性へと顔を向ける。
「細井さんの下の名前って、『愛菜』さんですよね?」
「――!?」
おそらくラブホを除く全員が驚愕に目を見張る中、内勤スタッフの女性――細井は固まり、瞳だけがじわじわと見開いていく。
「〝マナミ〟さんの予約状況を確認したところ、細井さんの休みの日と完全一致していました」
極めつけにアリバイの逆検証をして、ラブホは確信を持った声色で問いかける。
「〝A子さん〟って……。細井さんのことですよね?」




