第三話 出発④
利用駅の関係で、たまたま迅とミサト、フウガとラブホの組み合わせで別れて帰ることになった。
あまり相性が良さそうに見えないフウガとラブホを二人にしてしまってもいいものかと思ったが、そこは迅がお節介を働かせるところではなく、一歩分の距離を空けて歩く二人の背中を見送って、迅も駅に向かっていた。
「迅。ちょっといいかしら?」
「はい」
少し歩いたところで声をかけられ、前を向いていた迅はミサトのほうへ振り返る。
今はもう予約時間内でも、セラピストと客の関係でもないため、手を繋ぐなどという接触は不要だ。
それでもここは男として車道側を歩いてそれとなくエスコートの姿勢を取っていた迅へ、ミサトの神妙な目が向けられる・
「百万円の罰金についてだけど……」
言い難そうに切り出すミサトに苦笑が洩れる。
そういえば、今日の話し合いの中でも、違反行為を行った際に納める金額設定についての意見が出ていた。
「あー……、もう本番はしません」
「そうじゃなくて。って、それはもちろん大前提だけど!」
苦い経験を思い出し、反省の色を見せた迅に、ミサトはその話ではないと否定しつつ、そちらはそちらで当然だと突っ込みを入れてくる。
それから気持ちを切り替えて、真面目な顔と声色で尋ねてくる。
「その女性とは長い付き合いで、懇意にしていたのよね?」
「そうですね」
あの時の女性――、マリとは、違反行為が発覚した時点で接触することが許されず、彼女の本当の気持ちをたしかめるすべもないままに、気づけば消息不明になっていた。
あの時までなんの問題もなく、それなりに信頼関係を築けていると思っていたというのに。
静かに頷いてみせた迅へ、なぜかミサトの声色と音量は潜めいた。
「新規店を開業するにあたって、いろいろと調べたのよ」
大手グループのフランチャイズ店としてやっていくか、それとも完全に独立した店舗を作るか、ミサトが悩んでいたことは知っている。
最終的に、自分の理想を叶えるためには独立店でなければダメだという結論になり、大手グループの傘下に入るという選択肢はなくなったわけなのだが、そこに到るまでの過程で既存店とのいろいろなやりとりがあったのだろう。
「その中でちょっと気になる噂を小耳に挟んで……。噂よ? あくまで噂。言うかどうか、黙っていようかと悩んだくらいの風の噂だから、すぐに忘れてほしいんだけど」
「なん、ですか?」
あまりにも長い前置きにはさすがに不安になる。
おそるおそる先を促せば、ミサトの真面目な瞳が迅の姿を映した。
「俗に言う、〝美人局〟的な行為が何件かあったみたいなのよ。だから、その話を聞いた時にあなたのことが引っかかって。まぁ、あなたの場合は不運だったのだと思うけど」
「そうですね。さすがにそれはないですよ。タイミング悪いですね」
一応、ね。と心配そうに情報提供をしてくれたミサトに、迅はおかしそうに笑ってその可能性を否定する。
マリは美人局などではない。さすがにそれは考えすぎだ。
本気で、そう思う。
「私もそう思うわ」
変なことをごめんなさい。と苦笑するミサトを前にして、迅の心臓の鼓動は変な音を刻んだ。
「忘れてちょうだい」
「はい」
大丈夫だ。そんなことがあるはずがない。
だが、ミサトの言葉は、小骨が喉に刺さった時にように胸のどこかにつっかかったままだった。




