判明
――――何だ?
何が分かろうとしてるんだ?
俺が小野のクラスで見かけた女の子は夏休み前、『お悩み相談部』が一番人数が来ていた時、あの時泉が解決案を出した人だ。
それは間違いない。
だが、それが何だと言うんだ?
俺は今何を考え付いた?
「……なあ、寺垣。今お前なんて言った?」
「ん?何の事?」
「あの、あれだ。何か相談者の後とか」
「あー。相談者の案件で相談に乗ったけどその後どうなったか?って話?」
「広先輩どうしたんですか?」
「……いや、何か思い付きそうな気がしてな」
「思い付くって小野ちゃんの件?」
「ああ。何か思い浮かぶ気がするんだが」
……何だ?自分自身で何が思い付きそうなのか分からない。だけど、何かが引っかかる。
「どうしたの?さっきから何か考えている顔してるけど」
「……何だろうな。自分でも分からなくなってきた」
「広先輩が壊れましたよ」
「本当だね。どうしたんだろ」
泉と寺垣が大変失礼なことを言っているのだが、それは後で言い返すとして、だが俺自身どうしてしまったのだろうか?
何に引っかかっている?
こんな感じの事がずっと最近続いている気がする。怪盗Xの件を除いたとしても何時から引っかかっていた?
――――体育祭の時から何か引っかかる。
あの時は小野が突然俺達に何かしてくるのを辞めると発言した。それは間違いない。
しかし、今考えればどうしてあいつは急に俺達に何かをするのを辞めると考えた?
俺は小野の体育祭実行委員でのペンキの事件で逆に仕返しをしてやった。
それで、もう諦めがついたのか?
そんな訳が無い。そんな軟な奴てはない。
なら、どうしてあんなにも簡単に引き下がったんだ?
「そう言えばさ、小野ちゃんっていつからあんな本性隠してたのかな?私は全然気付かなかった。あの動画の中の美佐子ちゃんが本物ならどうして今まで全く噂にならなかったのかな?」
「あ!私もそれ思いました。小野先輩の話なんてクラスで絶対に一回は聞く筈なのに、一切そんな噂なかったですよね」
「――――確かにその通りだ。小野の噂は流れていなかったんだ?」
「広先輩ったら話に入りたいなら入って良いですよ?可愛い女子会に入りづらいかもしれないですけど、私達は気にしませんよ?」
「可愛い女の子って誰の事だ?」
「アハハ。冗談でもぶん殴りますよ?」
「良い笑顔で言う言葉じゃない。それよりも、俺もその話は今気になった。確かに、どうして小野の噂が流れていなかったのか、その原因が凄い気になる」
「そうは言っても私達も知らないし分からないよね。もしかして男子は怖がって言わなかったとか?」
「ええ。そこまで男子も怖がりばかりには思えませんけどね。それこそ広先輩とか怖いもの知らずみたいな人ですし」
泉の言う通り男子が全員怖がりばかりではない。
男子の中でも告白した、振られたなどの話ぐらいはするだろう。
その時、誰かひとりでも小野に怖い感じで振られたなどの話をしないのか?そんなことはあり得ないだろう。
「まあ、怖いもの知らずって訳じゃないが、流石に男子が一人も小野に振られた話をしないって事は無いだろうな」
「ですよね」
だが、その点だけは気になる。
「それって小野ちゃんに振られた人に話を聞きに行ったら良いんじゃないの?」
「「「あ!!!」」」
南澤の何気ない一言に俺達三者は互いに声を重ねてしまう。
「そうだな。それが一番手っ取り早かった。振られた人間で知ってるとなれば、思いつくの……は」
……あれ?
今俺は何か重要なことに気が付いた様な……。
『……ごめんね。私今は付き合うとか考えられなくて』
『裏切ったのは小野先輩じゃない。俺なんじゃないかって』
『良く気にかけて話しかけてくれた良い人なんです』
……何だ?
俺は今何を思い付いたって言うんだ?
――――まさか。
いや、信じられない。
そんな訳が無い。
『相談者の案件で相談に乗ったけどその後ってどうなったんだろう』
あり得ない。
今俺は何でそんな考えが思い付いた?
そんなはずはない。
だって、もしも俺が一瞬脳裏にちらついた考えが正しいのだとすれば?
あの時と同じだ。
南澤のテストが一位差で不謹慎な事を言った時と同じ形で足元から頭まで悪寒が走り抜ける。
……だが、もしも俺の考えが正しいのだとすれば?
小野の悪い噂が今まで無かった理由も明らかになる。
黒柿や伊瀬が何故助けて欲しいと訴えたのか当てはまってしまう。
しかし、それだけだ。今までの全ての小野の行動に納得している訳ではない。だが、今この瞬間に僅かながら考えたくも無い考えだけが頭の中で繰り返し、俺の中で纏まってこようとしている。
「……広先輩?何か顔色悪くないですか?」
「ほんとだ。吉条大丈夫?」
「……あ、ああ。大丈夫だ。だけど、悪い。ちょっと行くところが出来た」
「え?広先輩!?」
「吉条!?」
背後から何か聞こえてくるが、俺は振り返る事も返す言葉を見つける事さえ今はする場合ではないと思った。
「――――漢城いますか?」
「あ、あの一応文実の会議中なんだけど……」
全速力で走り抜け、文実の会議室に向かえば今は誰もが集まって会議中だったのだが、そんな事を気にしている場合ではなかった。
「すみません。直ぐに何処かに行くので。漢城、悪いがちょっと付き合ってくれ」
「は、はい。すみません。少しだけ抜けます」
「う、うん。分かったよ」
漢城が何も聞かずにこちらに来てくれたのは大変ありがたい。内田さんも少し困惑していたが、了承してくれたので漢城と二人で会議室を抜け出す。
「少し歩くぞ」
「それは別に構わないんですけど、急にどうしたんです?吉条君が会議室にわざわざ来て呼び出すって事は相当重要な事なんです?」
「……察しが良くて助かる。今回の事は俺と漢城。俺達にとって一番重要なことかもしれない」
「おお!二人ってもう吉条君ったら……ってもしかして相当深刻な話です?」
「その通りだ。正直、俺も半信半疑な部分しかない。だけど、一つだけ思いついてしまったんだ。今までの小野の全ての行動に辻褄が合うかもしれない出来事を」
漢城もまたこれが冗談を言っている場合ではなく、真剣な話だと察したのか笑顔が消え、真剣な表情へと変わる。
「小野さんの行動ですか?」
「ああ。本当にあり得ないと思ってる。だけど俺はお前なら馬鹿だと一蹴する話を今からする」
「は、はい」
「―――――と言う事だ」
俺が一つの導き出された解答を口に出せば、漢城の真剣な表情が一変し大きく目を見開かせる。
「……う、嘘です。そんなの……だ、だってそれじゃあ私達が」
「漢城落ち着け。まだ決まった訳じゃない。ただ、それだと少しだけ辻褄が合うだけでまだ合っているという確証はない。だから、それ以上言う必要はない」
「だ、だけど」
「俺だって馬鹿だって思ってる。正直、こんなの考え付くなんて馬鹿なんじゃないかとさえ思ってる。だけど、もしもこれが本当なら俺は絶対に小野と向き合わなければならない気がする。だから、俺は今から俺の予想が正しいのか、間違っているのかを確認する為に《《四人》》の人物に話を聞かなければならない。今こうやって漢城に話したのはお前も関係しているからだ。だけど、これ以上は別にお前は知る必要は無いと思う。だけど――――俺は偶然なのかもしれない。だけど、俺はあいつと、あいつの本性と向き合わなければならない気がする。漢城、お前はどうする?」
俺の覚悟は思い付き、今までの道で覚悟は決まった。後は、漢城がどうするのか、自分自身で決めるべきだ。
「――――私も一緒に行きます。だって、私も関係してますから。だから、ちゃんと結果がどんなことになろうと私も向き合わないといけない気がします」
「……分かった。行くぞ」
「はい」
漢城も覚悟は決まったらしい。だったら、もう後は真実を知るだけだ。
――――世の中は不条理、理不尽で満ち溢れている。
残酷だと現実から目を背ける人間もいるだろう。だが、そんな世の中でも生きていくには、理不尽でも、不条理で残酷であろうと目を背けることは出来ない。
残酷と言う言葉を社会に出れば知るのだと思っていた。
だけど、それは大きな間違いであった。
高校生であろうとそれは実感出来る時はある。
三年間の殆どを勉強に費やし、良い大学に入ろうと懸命に勉強を勤しんだ人間であろうと、その中で勝者と敗者と大きな隔てりがある。
一年から積み上げてきた自分の力を、三年から慌てて勉強した人に負けることだって世の中ではある。
勝者と敗者が存在し、勝者は喜び、敗者は悲しみ、残酷な結末であろうと向き合わなければならない。
夢を見るのは高校生までだと、自分の趣味の道に突き進みたい、自分のやりたいことをしたいと必死に努力し、寝る間も惜しんで頑張ったとしても、その結果が報われることは無い時も世の中にはある。
三年間、自分たちのチームメイトと一回でも多く勝ちたいと勉強も、一人の時間も惜しんで部活に励んだ人間が、運動神経に選りすぐれたメンバーに一回戦で当たり、敗北してしまい、部活を引退する人間だっている。
だが、敗者はその不条理で理不尽に満ち溢れ、残酷な結末であろうと突き進まない限り生きてはいけない。
――――だが、勝者も敗者もいない残酷な結末にどう向き合えば良いのか俺には分からなかった。
三人まで話を聞き、四人目で最終確認とも呼べる言葉でも結果は変わらない。
漢城は一人目の話を聞いた時から、何時もの明るい表情は消え、顔色を悪くしながら二人目で――――泣き崩れた。
結果は分かっているのかもしれない。
だが、まだ終わりではないと三人目、四人目へと話を聞き、俺はもう自分の予想が崩れることは無いのだと確信してしまった。
四人目の後の帰り道。
ふと空を見上げれば雲行きが怪しくなり、ポツポツと雨が降り始めてしまうが、俺は走る気にはなれなかった。
漢城もまた、ただ黙り込み静かに雨に打たれていた。
――――まるであの時の繰り返しの様に思える。
伊瀬茜の噂で小野美佐子に話を聞いた時、あの時の続きの様にも思える。
今でも鮮明に思い出すことが出来る。
だが、これは続きではない。
もう、終わった後の話なのだ。
今から再スタートして今までの出来事が無くなるわけではないのだ。
漫画や小説の様に過去に戻ることも出来やしない。
それがどうしようもない程変えたいものだとしても変えれないのだと知っている。
だからこそ、現実で残酷な結末であろうと受け止めて突き進むしかないのだと心では分かっている。
気付かなければ良かった。どうして、無駄に頭が働いたんだと自分を罵倒する薄汚い自分の現実から目を背ける心が訴えかける。
――――だが、もう遅いんだ。
「……い、今から話に行きましょう」
「……ああ」
雨と相まって分かりづらい筈なのに、彼女が泣いているのだと気付けてしまった。
俺も目を背けたい気持ちはある。
だが、俺と同じく後悔している筈なのに、涙が溢れ出るほど後悔しながらも、それでも向き合おうとする人間が他にもいるのであれば、少しばかり勇気が貰えるのも確かだ。
校外に出ていたので、戻れば直ぐに体操服でも着替えたい気持ちは互いにあったかもしれない。だけど、それ以上に俺達は話さなければならない理由があるのだから、向かう先は一つだ。
「――――小野さん」
「――――小野」
「「話がある(あります)」」
――――今、小野美佐子と残酷な真実の答え合わせだ。




