思い出し
「……話って何なんだ?」
「吉条先輩と……漢城先輩で合ってますよね?」
「そうです」
「私は小野さんがあんなことをするような人間には見えなくて。だから、昨日の新聞を見て安心したんですけど、今日何故か小野さんが自分でやったって噂がクラス内で広がっていてビックリしました。だから今ここにきて確認しようと思ったんですけど」
「上級生のクラスに入るのは勇気がいりますよね」
「……はい。それに今朝も話しかけようか迷ったんですけど、何だか近寄りがたくて」
漢城は先程の自分の経験もあるのか、伊瀬の気持ちを汲み取っていた。
だが、俺が気になるのはどうして伊瀬がそこまで小野がする筈が無いと思っているのかそれが気になった。
今朝も話しかけようと、そしてお昼休みにわざわざ来てまで確認しようとするのであれば、それ相応の理由があるとしか思えない。
「どうして小野がやってないと思ったんだ?」
「小野さんは中学校時代の時私同じ学校であんまりコミュニケーション能力が無い私でしたけど、良く気にかけて話しかけてくれた良い人なんです。だから、どうしても今回の件は違うと思って」
「……あの伊瀬さん。貴方は」
漢城が何を言おうとしているのか直ぐに察することが出来て慌てて口を塞いで一歩前に出る。
「分かった。元々この漢城が依頼をしてきたからな。小野をどうにかして助けようって話にはなってるんだ。だから、今回の件で小野が自分はやってないと確証が持てるように何とかしてみる」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「だから安心してクラスに戻っておけ」
「はい!」
伊瀬は一度頭を下げて見えなくなるまで見送って漢城の口もとから手を離す。
「……今のは本当に助かりました。危うく言わなくていい事を言う所でした」
「だろうな。まあ、お前の気持ちも分からんではない」
互いに何も言わずとも来た道を引き返しながら話を進める。
「お前は伊瀬にあの時噂を流したのが小野だって伝えようとしたんだろ?」
「…はい。何故か何も知らない伊瀬さんに伝えた方が良いんじゃないかと思ってしまったんです」
「確かに伝えたら小野に対する伊瀬の対応は変わってくるのかもしれん。だけど、漢城が小野を助けたいと思っているのなら味方は多い方が良い。それに、無暗に知らなくていい情報を伝えなくても良いだろ」
「……そうです。その通りです。本当に危なかったです」
漢城も伝えなくて良いと分かっていたのだろう。だが、あの時の伊瀬の表情を見れば言おうと思える気持ちも少しだけ分かってしまった。
小野の話をしていた時の伊瀬の表情は小野がそんな悪い事をしていないと純粋な表情で自信満々に呟いていた。
だが、実際はあれほど苦しんでいた噂を広めたのが小野など伊瀬本人は知らないのだろう。
「取り敢えず、怪盗Xより先に小野をどうにかするか」
「……え?」
「えじゃねえよ。お前は助けて欲しいんだろ?」
「そ、そうですけど。急にどうして?」
俺も最初は小野の事など後回しで良いと考えていた。その考えは間違っていないと思う。だが、
「元々怪盗Xを捕まえたいというのは俺の気持ちだ。だけど、今『お悩み相談部』に来ている悩みと言うよりは依頼は黒柿、漢城、伊瀬、全員小野を救ってほしいと言う依頼だ。流石に三つも同じ依頼が来れば俺の自分勝手な行動で怪盗Xを優先させるわけにもいかないだろ」
「流石吉条君です!」
背中を強く叩かれて思わず文句を言ってやりたかったが、漢城の喜びはしゃぎながら戻る姿を見れば少しだけ文句を言うつもりが言えなかった。
……漢城に言った言葉は半分真実であり、半分隠していることがある。
俺の中で今回の小野の件。それがずっと胸の中でぐるぐると何かしら得体のしれない違和感を抱き、何か分かりそうで分からない、そんな気持ちに取り付かれて何とかこの正体を確かめたいと思う気持ちもあった。
「まずは、小野がどうして言うようになったのか、俺はあれが本心とは流石に思えない」
「それは私もです。今まで隠し通してきたんですから、必ず理由がある筈です」
「放課後に漢城は最近の小野についての情報を手に入れて欲しい。俺はあいつらに怪盗Xより小野の方を優先するように聞いてみる」
「それ聞く必要ないと思いますけど、分かりました。小野さんの性格からして文実を休むと言う事は無いと思うので、私も一応色々と注意して見ておきます」
「頼む」
放課後。
「――――と言う事で、怪盗Xは今から何かをすることは無いと思うからまずは小野の案件を解決しよう思うんだがどうだ?」
「……茜も頼むと言う事は余程小野先輩の今の状況がおかしいと言う事でしょうし、私はそれで良いと思いますよ」
「私も同じ被害者だし、美佐子ちゃんがもしも脅されているなら許せない。私もそっちの方をまずは優先した方が良いと思う。真澄もそれでいい?」
「……私もそれで良いと思うわ。だけど、どうするの?小野ちゃんが何も言わないなら私達がどうやって解決するの?」
「その通りだが、解決策は今の所何もない」
「吉条ならあると思ってた」
寺垣は一体俺の事を名探偵と勘違いしている。
俺は一切分からない。
「そもそも本当に小野先輩は脅されているんですかね?」
「どういう意味だ?」
泉がふと考えが思い浮かんだのか発言したのだが、少しだけ俺も泉の意見に興味が持てた。
「なんか以前春義先輩がこの部室に来た時にプレッシャーや重圧がどうとか言ってましたよね。だったら、それは小野先輩自身にもあったんじゃないのかなってふと思いました。だから、もう小野先輩も好きにやっていこうって思ったんじゃないんですか?」
「……あり得ない話じゃないかもしれないが、それなら今まで大丈夫だったんじゃないのか?」
「それは、今まではあんまり感じていなかったんですけど、今回の一件でどれだけプレッシャーがあったのか再確認したとか?」
「泉ちゃん凄いわね。何か当たっている気が私もするわ」
「え?そうですかね?」
泉自身も率直な意見を言っただけで何も確信は無いのだろう。だが、俺も南澤同様に泉の意見が少なからず合っている様な気がしてならない。
そもそも小野が脅されていたとする。だが、小野はプライドが高い人間だ。そんな小野が脅されて素直に従うのだろうか?何らかの抵抗を見せるんじゃないのか?
脅されていないとすれば、泉のプレッシャー云々の話は結構当たっている気がする。
だが……。
「その場合、小野さんはわざわざ自分の本性を曝け出す必要があったのかしら?一人になりたいのであれば、動画が正しいと言えば良いだけで、わざわざ自分の本性を曝け出す必要があるのかしら?」
俺が言おうと思ったのだが、本を読んでいる清水に先を越されてしまった。
「あー。確かにどうして小野さんはわざわざ本性を曝け出したんですかね?私なその告白してきた男性がしつこいから強く言ってしまったみたいな事を言って学校一美少女と言う肩書だけでも無くそうとするかもしれないです」
「……お前今日どうしたんだ?凄い的確な事を言ってるぞ」
「まるで、何時もは全く的確な事を言ってないって言われている気がするんですけど」
「まあ、そう言ってるんだがな」
「殴って良いですか?」
「良いわよ」
「何で南澤が了承するんだ!?」
「まあまあ。愛華ちゃんも落ち着いて」
手をポキポキと鳴らしてこちらに歩み寄ってくる泉だったが、寺垣が宥めてな案とか落ち着かせる。
「…たださ、もしも美佐子ちゃんが脅されていないで自分の意志でそうしているならこの案件どうするの?解決出来るの?」
「あ!確かに!黒柿や、伊瀬ちゃん、伊里ちゃんも小野ちゃんを助けたいって言ってるけど、本人が自分の意志であのままでいるのなら解決出来ないんじゃないの?」
南澤が何故か俺の方を向いて言うのだが、俺にどうしろと?
「俺に聞かれても困る。だが、今の泉の話も絶対に合っているという確証はないだろ?だから、まずは脅されているかどうかの確証を手に入れてから話を進めるしかないんじゃないのか?」
「確かにその通りね」
南澤も納得したのか頷いているが、俺はそれとは別にお昼休みに視界に入った一人の女の子。あの子が思い出せそうで思い出せないのが何とも気がかりだ。
……何処で見たんだろうか?
「そう言えばさ、茜ちゃんと黒柿君で思い出したんだけど、あの時の噂は黒柿君が教室で自分でやったって言ったから安心してたけど、あれから噂とか大丈夫なのかな?」
「大丈夫って茜が言ってましたよ。茜とは長い付き合いなので嘘を言えば直ぐに分かると思うので多分嘘じゃないと思います」
「私達ってあんまり気にしてなかったけど、相談に乗った後の結末ってどうなってるのか知らないのよね」
「それは本人たちでどうにかするしかないんじゃないんですか?」
「まあその通りだけど、少し気にならない?」
――――待てよ。
今女子三人が仲睦まじく話している光景より、俺は今の会話にとんでもないヒントがあった気がする。
何だ?何があるんだ?
「あー、確かに私も気になるかも。夏休み前とか凄い相談者来てたけど、特に最初に来た子とかどうなってるのか凄い気になる」
「泉ちゃんが凄い良い事を言って解決したやつよね」
「私もあれは覚えてますよ。結構な数の相談者が居ましたけど、あれは忘れられません」
「――――それだ!!!!」
今ようやく思い出すことが出来た。




