寺垣真由美・吉条宗広
寺垣真由美
「ただいま」
久しぶりに部活に行って皆で話して凄い楽しかった。こんなにも誰かと話すのが嬉しくなるなんて今となっては全く思わなかった。
だけど、本当に楽しく思えたのは吉条に全部話しちゃったからかな?
何でか分からないけど、吉条に全部話してしまった。後悔はしていない。寧ろ良かったと思ってる。だけど、何で吉条に話そうと思ったのか全く分からない。だけど、何故か吉条って何でも話してもしっかり聞いてくれそうだったからかな?
少し自分で言った筈なのに、何で喋ったのか分からない気持ちになりながらリビングに行けば、お母さんが居た。
いつもは夜遅くに帰ってくるのに、珍しい。
「……真由美。私ねお父さんともう一回じっくり話してみようかなって思ってるの」
「……え!?本当!?」
一瞬お母さんの言っていることが理解出来なかった。
お母さんとお父さんが別れたのは勘違いによるものだ。お父さんが夜遅くに帰って来たのは本当に仕事が忙しく大変な時期だった。だけど、お母さんはそれを嘘だと思い、メールの返信が遅いなどの理由から浮気をしていると思っていた。
そんなお母さんの追及にお父さんの精神が耐えられず離婚した。
だけど、私は両方とも好きだった。お母さんはネガティブな方向に物事を考えてしまう人だけど、それでも優しい人間だし、お父さんも仕事を休むことなくずっと頑張っいる人間だ。だからこそ、私は最近転勤してきたお父さんと偶然出会い、良く会っていた。運悪く誰かに写真を撮られたけど、後悔はしていない。
「真由美が会っているのは知ってた。お父さんに一度電話された時に聞いたわ。それで、私の勘違いだって事にも気付いたし、私が悪かったのも知ってる。だからこそ、もう一度話してみようって形になったの」
「私もそれが絶対に良いと思う!もう一度話し合って」
「うん。ありがとね真由美。私達の間を取り持ってくれて」
「ううん。私がそれが良いと思ったからしただけだから」
何時もならテーブルに何か料理が置かれ一人で食べる筈だった食卓で二人で食べることで何故かいつもより料理がおいしく感じられた。
「私今日ちょっと疲れたから部屋に戻るね」
「分かったわ」
お母さんともっと話したい気持ちはあるけど、睡魔に襲われてそれ所じゃなかった。
部屋に戻って自分の椅子に座って外を見れば空が夜の筈なのに、何時もより明るく照らされ、満月が浮かび上がっているのを見つめる。
久しぶりに学校で色んな人と話して部活に行って沢山話して本当に楽しかった。
何時ぶりにこんなに楽しく感じたのか、本当にあの時――――私の幼馴染だった《《朝霧智也》》君。彼との出会って遊んだ時が吉条に話したせいか鮮明に思い出される。
私はずっと追い続けていた。私にとって理想で憧れで、ずっと大好きだった朝霧君にもう一度出会った時、恥ずかしくない自分で居る為に頑張ってきた。
ずっと追い求めてきた彼の残像を始めて部活に行って話したことで忘れたような気がする。
追い求め、掛け替えのない存在だった彼だけど、私はもう卒業しないといけない。今何処で何をしているのかも分からない。だけど、もう追い求めても見つけ出すことは叶わないことを知っている。だけど、それでも諦めきれない自分が居た。だけど、もう終わりにする。
――――吉条に言われて改めて分からされた。もう私には朝霧君が居なくても大切な居場所は既に存在していた。
だからもう卒業するよ君を。
私はもう一人じゃないから。
朝霧君ならきっと…いや、絶対に俺なんて追いかけないで自分の好きなようにしろって吉条みたいに言うんだろうな。
今どうしているんだろう?私の時みたいに誰からも憧れられて、楽しくて皆の中心にいるんだろうなきっと。
本当なら朝霧君を卒業した私を見せてあげたい。私は変わったんだって見せてあげたいけど、無理だろうな。流石に私には気付かないだろうし。髪も変わってるし、親が離婚して《《荒波》》だった名字も変わってるし、昔みたいに引っ込み思案じゃないから流石に気付かないかな?
――――きっといつか会った時、私はもう貴方を卒業して頑張ってるんだって一度良いから伝えたらいいな。
私の初恋の相手だしね。
今度は朝霧君の時みたいに後悔しないように出来れば良いな。
明日から覚悟しておいてよね――――《《吉条》》。
吉条宗弘
「ハックション」
「どうしたの風邪?」
食事をしていると突然鼻がムズムズしてしまい、くしゃみが出てしまった。
「いや、俺は今まで風邪なんて全くひくことは無い筈だから違うと思う。多分、誰かが俺の噂をしているのかもしれない」
「友達も居ないのに誰が噂するの?」
「お前は冗談と言う言葉を覚えろ。唯一の安らぎの場所である家でお兄ちゃん心傷ついたよ?」
「自分で言ったからツッコんだだけじゃん」
「確かにその通りなんだが」
そう言われればなんと返せば良いのか分からない。
本当この子は正論しか言わないから困っちゃうよね!
「……お兄ちゃんさ、ちょっと今日良い事でもあったの?」
「なんでだ?」
「何となく思っただけ。お兄ちゃん表情が変わんないから分かりずらいけど、流石に今までの経験からか分かってきた」
「何で分かるのか全く分からんが良い事はまああったな。それと少しだけ昔の事を思い出しただけだ」
「ふーん。まあ良い事があるのは悪い事じゃないよね」
「まあな。お前の方はどうなんだ?何か良い事でもあったか?」
「別に普通だよ」
俺達兄弟の間ではそんなに話と言う会話はしない。ただ、どちらかが気になることがあれば話しかけ、話しかけられるぐらいでしか会話をしない。兄弟としてこれが合っているのかは分からないが、俺はこの感じが嫌いではない。
寧ろ何も話さない反抗期の妹であれば、少し怖いものでもあるし、ずけずけと部屋に入られたり、一人の時間を邪魔されないこの距離感が俺にとっては十分だ。
「……それじゃあ部屋戻るわ」
「はーい」
食べ終わった食器を片付けて自分の部屋に戻れば何故か明るく感じ、自然と外を見ると満月の月がはっきりと見えていた。
つい珍しく感じてしまい椅子に座って空を見上げていた。
「……久しぶりに思い出したな」
寺垣の話を聞いてふと思い出した。
俺も昔《《小学三年生》》の頃に幼馴染が居たことを。(※二話参照)
何時も大人しくて俺の背後で疲れたような声を上げながらも何処か楽しくして一緒に遊んだ――――《《荒波真由美》》の存在を。
あの時はまだ俺が外で遊ぶのが好きなやんちゃな子供だったからな。よく近所で同学年の荒波を連れて一緒に遊んでいたことを覚えている。
懐かしいな。今となっては俺はアウトドアの遊びより本に目覚め、インドア派になってしまったからな。多分、今の荒波に出会ったら誰?って思われそうだな。
いや、もしかしたら今なら荒波と同じで以前より共感が持てることが多くなっているのかもしれない。
……もしも寺垣みたいに金髪で明るくなってたら俺は心底驚いてしまいそうな気もするな。本当に荒波は大人しい子で自分から遊びに誘ったりなんてしない奴だったからな。その割に遊びに誘えば嬉しそうな表情をするから俺もいつも誘っていた。
今更ながらにあいつがどんな風に過ごしているのかふと気になってしまった。まあ、だけど会う事も無いだろうし、会っても気付かないだろうな。
俺は親が離婚して名字だけでなく名前も変わったからな。
昔は――――《《朝霧智也》》だったし、今は大人しい奴だし気付くことも無いだろう。
――――荒波も元気にやっていればいいが。
少し虐められそうな奴だったのが不安だが、あいつなら何とかやっている様なそんな気がした。
翌日。
……今日は何もないよな?
下駄箱に靴を入れるのだが、最近は何やら朝に俺に大声を上げながら接近してくる出来事が多いし、その時は良い事の報告など一切ないから困るもんだ。
だが、今日は何もないと言う事は後は怪盗Xに集中すれば……。
「あ!吉条君大変です!!」
「……お前は朝から俺のテンションを下げるのが好きだな」
「何で急にそんなに落ち込んでるんです!?」
「お前に出会ったから」
「最低!最低です吉条君!話しかけただけなのに!」
「その大声で話しかける時は碌なことがあった試しがない。怪盗Xに関係してるのか?」
「……多分今回は関係していないかもしれないです」
「じゃあ聞かない」
「待ってください!」
怪盗Xに関係ないと言うのなら俺にとって今の所興味が無いのでそのまま歩いて行こうと思ったのだが、漢城に回り込まれる。
「俺は聞かないぞ」
「聞くんです」
なんと我儘な子だ。本当に強引な所は漢城の親と二人揃って似ている。
「怪盗Xは関係ないんだろ?」
「多分無いです」
目を伏せ申し訳なさそうに、尚且つ妹と同類のおねだりをする目になっているので無言で立ち去ろうとしたが、漢城が許すはずもなく回り込まれてジト目で睨まれるので睨み返してやる。
「何で俺が聞かないと駄目なんだよ」
「吉条君は強情です」
「お前がな」
言い返すことも出来ない正論を放てば漢城が顎に手を当てて悩むそぶりを見せているが、もう教室に行っても良いだろうか?
「えーと、あ!それなら私からの依頼と言う事で話を聞いてくれないです?」
「……お前、悪知恵だけは働くな」
そう言われてしまえば、結局漢城は放課後にでも『お悩み相談部』に尋ねて来て話をするだろう。
昨日から寺垣が来たことによってご機嫌な南澤と泉が張り切って解決しようと考えるだろうし、寺垣も了承するだろう。
そこまで考えていないかもしれないが、本当にどうして悪知恵だけが冴えているのか、教えた奴には文句を言わないと駄目だな!
「では、私からの依頼と言う事で話を聞いてください!実は小野さんが大変なんです」
「じゃあな」
聞く価値に値しないのでカッコよく立ち去ろうとしたが、俺の考えが読める漢城には全く通用しない。
「まだ話は終わってないです!」
小野と言う単語を聞いただけでも何か嫌な予感がするので早急に教室に戻って本を読みたい気分になってくる。
「小野さんが――――あの動画が本物だって言ったんです!」
「……何だと?」




