復活
時はお昼休み。高校生のお昼休みと言えば食堂でリア充が仲睦まじくお話をしながら食事をする人間。自分たちの弁当を教室で食べる物。静かに食べたい者。様々な人間が居る中、普段ここのクラスの連中は教室で食べる人間が多くいる。だが、そんな中でも普通に喋っている連中が多いのだが、そこまで気になるほど騒がしくなることは少ない。だけど、今日に限っては違った。
「真由美ちゃん大丈夫!?」
「疑ってごめん!」
「俺達は信じてるから!」
お昼休みとなり、今まで保健室登校をしていた寺垣が大丈夫だと言う事でお昼休みから普通に教室に入れば、教室で食事をしていた連中の大半が寺垣の元に集まって謝罪、心配する声を上げる。
誰もが分かっているとは思うが、俺は普通に食事をしながら目の前で繰り広げられている光景を見ているのだが、寺垣は驚き半分、嬉しさ半分と言った顔をしながら皆の受け答えをしている。
学校一人気者の順位では小野に引けを取らない寺垣だからこそこの騒ぎだろう。もしも、俺が全然学校に来ないで今日来ても多分誰も反応しない。あれ?誰だっけ?となるのがオチである。
……悲しくなるからやめよう。
それにしても、今日のお昼休みは本当に騒がしい。騒がしいのだが……。
「真由美も復帰早々大変ね」
「……何でお前が当たり前の様に俺の前で食事をしているのか凄い気になるんだが」
まるでここに居るのが当たり前と言わんばかりに南澤が俺の対面に椅子だけ用意して食事をしながら寺垣を見ながら若干苦笑いをしている。
「え?駄目なの?」
「そんな純粋な目でまるで居るのが良いって決まってるのが不思議なんだがな」
「別に良いじゃない。真由美も今大変そうだし一緒にご飯も食べれなさそうだし」
「そこで俺の所に来るのがおかしいんだが。お前ならもっと他に場所があっただろ?」
「もう!細かい事を言うんじゃないわよ!それより、怪盗Xの方はどうなってるのよ!それを聞きたいわ!」
何故か話を逸らされてしまったのだが、南澤がここから立ち退くという選択肢も、放課後に話すという選択肢もどうやら持っていないようだ。これ以上何を言った所で何も変わらないだろう。
「……ハア。怪盗Xについては考えてるが、あれっきりで終わったならこれ以上ヒントは望めないだろうな」
「じゃあ打つ手はないの?」
「打つ手が無いと言えばそうだが、俺はどうして今回の小野の動画で退いたのかそれが凄い重要なヒントがある気がしてならない」
「怪盗Xが満足したからじゃないの?」
「あれぐらいで満足するような人間ならそもそもここまで大きな問題を引き起こすのか?」
「そうかもしれないわよ?」
「まあ、そう言われればそれまでだが、怪盗Xが引き下がるのには普通に理由があるんじゃないのか?」
「理由って?」
「それはまだ分からん」
「何なのよ!知ってるのかと思ったわよ!」
南澤が声を荒げるが知らないものは知らない。それに、知っているのならとっくに怪盗Xの正体に近づいてるはずだ。
「このまま勝ち逃げされる訳にはいかないんだがどうしたものか」
正直これ以上怪盗Xが何もしないのであればこれ以上ヒントがあることはない。
「まあ、この話は放課後だな。正直このまま何か思いつくとは思わない」
「それもそうね。もうお昼休みも終わりだし」
「は?もう終わるのか?」
南澤の言葉に慌てて時計を見れば後五分しか残っていなかった。
お昼休みってこんなに短かったか?
「それじゃあ私は戻るわ」
南澤はお弁当を持って自分の席に戻っていくのを見守りながら俺もまた弁当を片付け次の授業の準備を始める。
まあ、授業中はずっと怪盗Xをどうやって見つけ出すか、それしか考える事は無いのだが。
放課後。
これで一日が終わって帰りたい気持ちと、怪盗Xを見つけ出さなければならないのと言う二つの気持ちが重なり合ってしまい、何故か自分の椅子から立ちたくなかった。
「……吉条何してるの?」
寺垣が何故か呆れたような目をしながら話しかけてくる。
「ん?寺垣か。いや、このまま部活に行かないと分かってはいるんだが疲れているから帰りたい気持ちが重なって動きたくないんだ」
「全く分からないけど」
「……分からないのはともかく何でお前まで座ってるんだ?」
何故か隣の席に寺垣が座る。
「……私も久しぶりの学校で疲れちゃったからね。少し休憩」
はあーと長い溜息を吐きながら机の上でだらけ切っている寺垣からは何も困った様子も伺えず、少し前まで怪盗Xのせいで困っていたとは全く思えなかった。
「……別にもう大丈夫だよ?」
「……心が読めるのか?」
「アハハハ。段々と吉条の表情で気持ちが分かってた気がする」
「そんなに分かりやすいつもりは無いんだがな」
「何だかんだ言って吉条と半年近く一緒に居るからかな?多分妹の愛奈ちゃんはもっと分かってるんじゃない?」
「あいつはマイペースで自分が一番だからな。多分分かってない気がする」
「流石兄弟って所だね」
「……ん?何で俺なんだ?」
「さあね」
寺垣は不敵な笑みを浮かべている。あちらは俺の事が分かるのに、俺は分からないとなるのが何となく悔しかった。
「――――吉条。ありがとね」
「……急にどうしたんだ?」
「真澄から聞いたよ。私の為に色々と頑張ってくれたんでしょ?」
「俺じゃない。頑張ったのは他の皆だ。後漢城もだな。礼ならあいつらに言ってややれ」
「他の皆にはもう言ったよ。だから最後に吉条にも言わないといけないと思って。吉条は自分は頑張ってないって言うのかもしれないけど、私は感謝してる。だからお礼は言わないとね」
「……礼なら有難く受け取っておく。これからは普通に学校に来て大丈夫なはずだ。泉も南澤もお前を待ってたんだからな。早く部活に行ってやれ」
「吉条も待ってたの?」
「はい?」
「アハハ。冗談だよ」
寺垣も冗談が言えるぐらい大丈夫ならこれからも大丈夫だろう。そろそろ良い時間なので流石に行かないと南澤がうるさい様な気がする。
「……本当はさ、今日学校に行くの怖かったんだ」
「は?」
俺はカバンを持って席を立とうとした足が、手が寺垣の言葉で思わず止まってしまう。
「皆知らない。私は明るく元気で誰とも仲良く出来る人だって思ってるのかもしれない。私もそうなりたいってずっと努力してきた……だけど、本当は私って小学校三年生までずっと引っ込み思案な女の子だったんだよ」
「……はい?」
衝撃的事実に俺はもうその場を動こうとは一切思えないのだった。




