事件
「……小野に何かちょっかいをかけられたのか?」
「それをされるなら吉条君……ってそうじゃないです!これを見てください!」
漢城がこちらに近づきながらスマホを取り出し、何かと弄ったと思ったと思えば、こちらに画面を見せてくる。
「……何だこの画面は?」
良く分からない様な掲示板なのか分からないが、大量のコメントが映し出されている画面が出されているのだが、これが何を意味しているのかは全く分からない。
「吉条君なら絶対にそう言うと思ったんですが、これは学校の掲示板で今日何が起こったとか、誰が誰に告白していたとかそんな話題が色々と呟かれる生徒専用の掲示板みたいなものです。私は、少しでも面白そうなネタが無いか、これを毎日見てるんですけど、そしたら、名前に怪盗Xって書かれた人が一つの動画を夜中に出してたそうで、今凄い事になってるんです!」
「動画?」
「取り敢えず、見てみてください!」
漢城に言われたので、画面を覗き込むと綺麗な画質の中でカメラが一人の女性、明らかに見覚えのある小野美佐子の姿、そしてもう一人は顔は見えないが服装的に男子だと分かる格好の人が二人で体育館裏辺りにいる。
『僕と付き合ってください』
『お前なんかと誰が付き合うか』
そこには驚くべき光景が映し出されていた。
小野が告白され、素の状態で振った光景が映像で鮮明に撮られていたのだ。
更に、告白した男性はその場に蹲り、泣いている声が聞こえているが、小野は一瞥した後、何一つ言葉を発さずその場を去っていた。
「……おい。これは相当やばいんじゃないのか?」
漢城が騒いだ原因を理解してしまい、これが何を意味するのか流石に俺でも理解出来た。
だが、それは俺だけではなく漢城もいつもの笑顔は潜め、真剣な表情で頷く。
「これが送られてから夜中からずっと小野さんの悪口で掲示板が埋め尽くされています。朝から小野さんの教室どころか学校全体で相当な噂になっていて相当この動画が全員に知れ渡っていると思います」
「……小野もまさか撮られるとは思ってなかったのかもな」
自分で言っておいてなんだが、何故か今見せてもらった動画に違和感を感じてしまった。何があるのか分からない。だけど、何か違和感を感じて仕方ない。
小野がこんなカメラに気付かない程馬鹿だったのか?という疑問が俺を違和感にさせているのかもしれないが、それだけではない様な気がするのはおかしいのだろうか?
「それよりも!小野さんが大変です!今までは学校一美少女で誰からも恨まれない存在です。だけど、それは紙一重だった筈です!ここから小野さんが絶対に大変な目に遭うのは目に見えています!」
漢城が俺に真剣に訴えてくるが、まさかこいつ……。
「……お前、まさかとは思うが小野を助けろとでも言うんじゃないんだろうな?」
「……やっぱり駄目です?」
俺がまさかとは思っていたが、本当に思っていたとは本当にこいつには驚かされる。
「あのな、撮られたのはドンマイとしか言いようがないが、こいつのやっていることは最低な事だろ?助けるなんてもってのほかだ。それよりもまずは怪盗Xの件だ。小野は助けない」
「確かに小野さんも悪いかもしれないですが、これを公表の場に出せば小野さんが酷い目に遭うのは分かっていた筈です。なのに、これは流石にやり過ぎな気がしてなりません」
「まあ、流石にやり過ぎな気もするが、俺には関係ない。それに、今回の件で一つ怪盗Xの狙いが分かった気がする」
「本当です!?」
漢城が詰め寄って来て近いのだが、もう指摘するのも面倒なので放っておこう。それに、今はそれよりも今回の怪盗Xの引き起こした小野の動画によって一つ分かった事は確かにある。
「ああ。怪盗Xの狙いになっているのはカーストの中でも頂点に居る人間だ」
初めは寺垣は恨みを持たれ、漢城もまた恨みを持たれているのかと思ったが、小野も被害になり、この三人に共通する点と言えばカースト上位者であることが自ずと分かる。
「どうしてカーストの中の頂点の人間が狙われるんです?」
「さあな。そこまでは分からん。だけど、少しずつだけど怪盗Xの情報は入ってきている」
間違いなく怪盗Xはカーストの中でも頂点に君臨している人たちを狙っている。だが、それが告白され振られたからなのか、それとも別の理由なのかは定かではない。
「因みに小野さんは?」
「助けない。そこまでする義理は一切ない」
「でも!怪盗Xを捕まえることが出来て、小野さんの事もどうにかすることが出来るんじゃないんです!?」
「今回ばかりはどうすることも出来ないんじゃないのか?」
「どうしてです?」
純粋に漢城は聞いているのだろうが、今回のこの動画は寺垣の件とはまた違うのだ。
「寺垣の紙は嘘だった。それは間違いない。だけど、今回のこの動画はそもそも嘘なのか?俺達が小野の本性を知っているからこそああやって振るのは分かってるだろ?」
「……確かにその通りです」
「だろ?だから、俺達はどうする事も出来ない。もしも、怪盗Xの正体が分かったとしても今回のこの動画が本物なら俺達が嘘を吐くことになる。寺垣のは嘘だからどうにか出来るが、どうすることも出来ない。今回は小野がカメラに気付かなかった凡ミスで明らかになってしまった。ただ、それだけのことだ」
漢城はもしかしたら俺を勘違いしているのかもしれない。俺は、誰でも助けるような善良な人間でもなければ、お人好し主人公でもない。誰であろうと助けるような人間でもない。
「……だけど、もしかしたら凄いしつこい人だったのかもしれないです。そんな人だったら少しきつめでも諦めさせる為に振ったのかもしれないです。その気持ちは私は分かるんです」
……俺もまた漢城を勘違いしていたのかもしれない。漢城もまたただ助けたいからと言うだけではなく、同じカースト上位者であり色んな人から告白される漢城だからこそ、小野の気持ちが少なからず分かってしまうのかもしれない。
「……何を言われようと、流石にこの動画が本物なら俺達にはどうする事も出来ない。出来ることと言えば、この怪盗Xを盗撮として小野に土下座させることぐらいだろ」
「それで構わないです!やってやりましょう!」
「まあ、ついでだしな」
助けてやるつもりは毛頭ない。それに、小野だって何があろうと俺と漢城に助けてもらうなどプライドが許さないだろう。
それにこれはついでだ。結局の所、怪盗Xを見つけ出さなければ意味のない話だ。
「取り敢えず、俺は教室に戻る。お前も戻れ。放課後にまた話すから少しでもいいから部室に居てくれ」
「了解です!」
漢城はモヤモヤが消えたのか、笑顔で走っていく。
俺もまた、教室に入れば当然というべきか小野の話題でクラスは大盛り上がり。
他の奴らからすれば、毎日色んな特ダネが入って来て飽きない毎日をお過ごしだろうな。これが、怪盗Xの狙いなら笑える話だ。
授業が始まっても一切集中することは出来ず、ただ怪盗Xのことについて集中して考えてしまう。
……一つ疑問なのが、どうして怪盗Xはカースト上位者を狙うのか。一つ思い浮かぶのが自分がカーストの中でも真ん中だと言う事を自覚し、上位者にいる三人が気に食わなかったから。あり得る話かもしれないが、自分が見つかった時のことを考えて無さすぎな気がするが、そこまで頭が回っていなかったのか?
だが、もしも小野が振った現場、寺垣が親父との遭遇現場、漢城と俺の繁華街での写真、それをたった一日で何度も出そうと考えたとすれば、一日での行動。流石に少しはボロが出る筈。だけど、それが一度も無いと言う事はこれは相当念入りに考えられている筈だ。
何が怪盗Xをそこまでさせる?そんなにしてまでどうして、あの三人を陥れようとしたんだ?
……分からない。まだだ。少し情報が入ったがまだ足りない。
これ以上考えてもどうしようもない。家で勉強しないで済むように今は授業に集中しよう。
放課後。
「吉条!早速部室で作戦を練るわよ!今日は何か良い案は無いの!?」
「無い」
「どうするのよ!このままじゃ真由美が留年する前に保健室登校を止めて、普通に通わなくちゃならない。だけど、このままじゃ真由美が陰口を言われるに決まってるわ」
「分かってるよ。一応少なからず情報が入ってはいるんだが、まだ怪盗Xが誰なのか、そのヒントが無い」
「情報ってあの小野ちゃんのやつ?」
「……やっぱ知ってるのか?」
「そりゃあね。あれだけクラスでも騒いでれば流石に分かるわよ。動画も見せてもらったし、私もビビったわ。小野ちゃんがあんな振り方をしているなんて」
「俺もビビった」
ある意味、小野がカメラが回っていることに気付いていなかったことに対してだが。
南澤と一緒に部室に入れば、泉が真っ先にこちらに近づいて来る。
「広先輩!これ見てください!とんでもないですよ!」
泉がスマホを取り出した時点で何なのか少なからず分かってしまった。
「動画の件なら知ってるぞ」
「広先輩まで知っているなんて意外ですね」
「……お前は一言余計なことを言わないと喋れないのか。清水とそっくりだ」
「失礼なことを言わないで欲しいのだけど」
半目でこちらを睨みながら指摘する清水に少し怖いと思いながら、気付かないふりをして定位置の椅子に座る。
南澤も泉もまた座るのだが、何か話し合いが出来る訳でもない。案が無いのだから。
「……何だかそろそろ寂しくなってきました。寺垣先輩何時になったら戻れるんですかね」
ぼそりと呟く泉は今となっては少しだけ不自然にぼっかりと空いている椅子を見て呟いていた。
俺もまた泉の声に合わせ、空いている椅子を見てしまった。
「……あ!すみません!それよりも今日も情報収集ですかね?」
泉が慌てた様子で話を変えようとしていたが、俺は今の言葉に少なからず怪盗Xへの怒りが更に募ってしまった。
――――俺は泉の想いを聞いていた筈だ。
誰よりもこの部活を好きで、誰よりも俺達との間にある年齢と言う名の差があると言う事を。一度の人生から見れば本当に短いかもしれない一年の間。それもまた後半へと向かおうとしていることに気付かされる。
泉は少しでも多くこの中にいるメンバーで楽しみたいという気持ちがあることだけは俺でも理解出来る。
俺は泉から聞いていた筈なのに、どうすることも出来ない。その歯がゆさが自分の不甲斐なさも全て怪盗Xへの怒りへと変わっていく。
「――――文化祭を楽しみたいか?」
「え?」
「どうしたの?」
唐突の疑問に泉も南澤もまた疑問の声を上げる。
「楽しみたくないのか?」
「……そ、それは楽しみたいですけど」
「私もよ。一番楽しみにしている行事だもの」
「そうか。そうだよな」
俺にとってはただ何事も無い日常が過ぎていく中でも過程でしかない文化祭でも、人が違えば意見も変わる。
彼女たちにとっては学校生活において待ちきれない程のイベントなのだろう。
「――――文化祭まで残り三十日。絶対に怪盗Xを見つけ出してやるぞ」
「……広先輩が燃えてます」
「信じられないわ」
「うるせえよ。俺が見つけると言ったら絶対に見つける。どうにかするぞ」
「当たり前ですよ!」
「私も吉条にばっかり頼ってないで自分でも考えてみるわ!」
二人もやる気を漲らせ、残り三十日間と言う長いようで短い期間の中を探してやろうと決意を秘めていると、部室の扉がノックされる。
「……もしかして相談者か?」
「そうかもしれないですよ。別に部活を取りやめたわけじゃないですし」
「流石に長引く案件なら真由美が優先だし、引き取ってもらうけどまずは話を聞くのが良いと思うけど二人は?」
「お前がここの部活の部長みたいなもんだ。お前が決めろ」
「私も大丈夫ですよ!」
「それじゃあ入ってください!」
南澤が俺と泉の意見を聞いて頷くと扉の向こう側に居る人に聞こえるように声を出すと、扉が開かれる。
――――だが、そこには身に覚えがある人物が立っていた。
「……黒柿?」
「吉条の兄貴。依頼があってきました」
……黒柿は以前、伊瀬が来て俺が居るというこの部室は神聖な場所とか言い、行かないと言っていた。確かに聞いたのだが、そんな黒柿が真剣な表情でこちらを見据えている。
――――何が起きているんだ?




