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異変

 「……南澤、泉も聴いて良いのか?」


 「大丈夫です。俺がお願いしたいのは、小野先輩を助けて欲しいんです」


 「……は?」


 今の黒柿の言葉に疑問を持ってしまったのは俺だけなのかもしれない。小野に裏切られたと言っていた黒柿が今小野を助けて欲しいと述べているのだ。

 意味が分からないとしか言いようがない。


 「何で広先輩は驚いているんですか?」


 「い、いや何でもない。それよりもどうして小野を助けて欲しいんだ?あの動画が偽物だとでも言いたいのか?」


 「多分本物かもしれません。だけど、小野先輩は何かきちんとした理由があってあんな振り方をしたんだと思うんです。むやみやたらに誰かが傷つく方法を取るようには思えないんです」


 ……黒柿に何があった?


 「どうするの吉条。もしも、小野ちゃんのあの振り方が何かしら理由があったとしても、それを解決するのは私達『お悩み相談部』に依頼が来たからやらないといけないのかもしれない。だけど、私はまずは真っ先に真由美を助けたい」


 南澤が真剣な瞳でこちらを見据えるが、俺に決めろというのか?


 「……ハア。黒柿、悪いんだが俺達は今被害に遭った寺垣を真っ先に助ける方向で話が進んでるんだ。お前も寺垣の紙が学校中にばら撒かれているのは知っているだろ?」


 「は、はい。一応」


 「それをどうにかしようとしてるんだ。だから、小野を助けることは直ぐには出来ない」


 「……そうですか」


 黒柿は一瞬目を下に向け、少しばかり落ち込んだ様子を見せる。その表情を見れば罪悪感が沸かないと言えば嘘になるのだが、こればっかりはどうすることも出来ない。


 「――――だが、今回の寺垣、そして小野の動画を流した人間は同一人物だという事だけは分かってる。だから、寺垣のついでに小野へその相手を謝らせる、それぐらいなら出来るかもしれない。それでも構わないか?」


 「は、はい!全然構いません!それでお願いします!流石兄貴!」


 「兄貴は止めろ」


 黒柿は直ぐに笑顔になり、元気よく部室を退室する。


 「ハア。何とかなった……お前ら何でそんなニヤニヤしてんだよ」


 何とか一段落ついたと思ったら、泉と南澤がこちらをニヤニヤとしながら見つめていた。


 「……いや、なんていうか凄い広先輩らしいなって思って」


 「私も凄い思ったわ」


 「……気持ち悪いからその笑顔を止めろ」


 「うわ!この人女子に対して気持ち悪いとか言いましたよ!信じられません!」


 「最低!最低よ!」


 ぎゃあぎゃあとうるさい二人の声を左から右へ流しながら、これからについて考える。

 まずは、漢城に昨日の春義についての情報を教えてもらう。だが、朝一番に何も言わない事からあんまり期待は出来ない気がする。

 だが、次に考えなければならないのがどうして黒柿は急に小野を助けて欲しいなんて言ったのか、それを聞きに行きたい。

 色々と気になることはあるが、何よりも今気を付けなければならないのが、今一番危機感を持っていない泉と南澤。こいつらが自覚しているかどうかは別としてもカースト上位者であることは間違いない。


 この二人が狙われるかもしれないという事実。だけど、これ以上怪盗Xの思い通りには絶対にいかせない。

 三人の前で土下座させてやる。


 「……さっきから五月蠅いがお前らが一番狙われる可能性が高いから用心してろよ」


 「どうして私達が用心するんですか?」


 「私達何もしてないわよ?」


 そう言えば、漢城には伝えたが、この二人にはカースト上位者が狙われていることを話していなかった。


 「……実はな」


 ある程度仮説程度かもしれないが、間違っていない様な気がするので一応話しておく。


 「……あの、広先輩。私そんなにカースト上位者じゃない気がするんですけど。多分、普通に中ぐらいだと思いますよ?」


 「え?そうなのか?」


 「はい。別にそこまで凄い人気と言う訳でもないですし、流石に寺垣先輩や小野先輩と比べられたら負けますよ」


 意外だな。俺の中では泉も寺垣や小野に勝るとも劣らないと思っていたのだが、泉の自己評価はそこまで高くなかった。

 だが、それは自己評価であり、周りからはどう見られているのかは疑問が残る部分だ。


 「まあ用心しておくに越したことはないだろ」


 「一回引っかかった広先輩が言える言葉じゃないですけどね」


 「それを言うんじゃない」


 「ねえ、私って上位なの?」


 まるで、自分は違いますと言っている様に見える南澤。こいつは何を言っているのだろうか。


 「お前が上位じゃないなら誰が上位だって話になるんだがな」


 「へえ。知らなかったわ。だけど、私は何もないわよ?」


 「それを言ったら寺垣も何も無かったけど、やられただろ?違うかもしれないが、至らない噂が流れるようなことをしない様に気を付けようって話だ」


 「成る程ね。分かったわ」


 南澤はうんうんと頷ているがこいつが一番分かっているのかが不安になるのだが、多分本人は気付いていない。


 「……とにかく少し自分の行動に気を付けながら動くことだ。俺は今から少しでも情報を手に入れてくるために動いてくる。お前たちも気付かれない程度に気を付けながら周りを見て居て欲しい。些細なことでも何か気になることがあったら教えてくれ」


 「分かったわ!文化祭までにどうにかするわよ!」


 「私もそうしますが、小野先輩の件は結局どうするんですか?」


 「あの動画が本物かどうかは時間があれば俺が少し動いてみるから、お前たちは寺垣の事を優先して動いてくれ」


 「分かりました」


 「それじゃあ行くわよ泉ちゃん」


 「はーい」


 南澤の号令に泉が続き、部室を後にするので俺もまた待ち合わせをしていた漢城の元に向かう。


 「――――待たせた。少し予想外の事が起きてな。悪いとは思ってる」


 新聞部の部室に行けば、待ちぼうけを食らってしまったせいか漢城が明らかに不貞腐れた様子で頬を膨らませて立っていた。


 「全く悪いと思っているようには見えないんですけどね!」


 「まあ、仕方ないしそこまで悪いとは思ってない」


 「素直過ぎる!私今ビックリしました!そこは嘘でもレディを待たせてるんですから悪いと思う所です!」


 「レディ?」


 「ここで更に煽っていくスタイル!私驚愕以上にムカついたんですが!」


 「悪い悪い。それよりも、取り敢えずまあそこそこ分かってはいるが文実での春義先輩で何かおかしい所は?」


 「実はですね!」


 俺が切り出すと漢城が少し前のめりになってこちらに話しかけてくる。

 ……お?初めは無いと思ったがもしかして?


 「もしかして何かあったか?」


 「何もありませんでした!今少しでも騙された吉条君でした!」


 「……今俺はお前にムカついた所だ」


 ……この野郎。女子じゃなかったら一発叩いている所だ。


 「仕返しです。まあ、春義先輩に関しては本当に驚くほど何もないです。普通に文実の仕事をこなすだけで何一つ気にしている様子もないです」


 「……まあ、そうだよな」


 もしも春義は犯人だとしてもあからさまに何かしら行動を起こす訳が無いか。


 「私としては予想外の事と言うのが気になります」


 「そんな予想外と言う訳でもないが、依頼人が来たんだよ。まさか、こんな時に来るとは思ってなかったが、それが小野を助けて欲しいという案件でな」


 「え!それなら小野さんは助かるんです!?」


 「……お前良く小野を助けようと本気で思えるよな」


 以前は小野に苛ついていた筈の漢城なのに、今では助ける方にシフト変更している。


 「私だって吉木先輩の時はムカつきました。だけど、それと今回の件は別です。今回ばかりは小野さんが悪いわけではないかもしれません。それなら助けてあげたいんです」


 南澤と言い、漢城と言いこういった真剣で曲がっていない目を見るのはやはり苦手だ。だが、嫌いではない。


 「……分かった。それじゃあ寺垣と小野をやった犯人は同一人物なんだ。どちらも助けるか」


 「流石吉条君!」


 ぱちぱちと俺に大袈裟に拍手をしてくる漢城は本当に喜んでいるように見える。俺もたいがい甘いらしい。


 「まずはあの動画だな。あれが偽物か本物かそれだけでも一応調べておく必要がある気がする」


 「それは同感です。だけど、どうやって調べるんです?」


 「パソコン部とか?」


 「パソコン部って動画が偽物か本物か分かるんです?」


 「知らんが、そんな感じはしないか?」


 「うーん。もしかしたら出来るかもしれませんが、やってくれますかね?パソコン部だって文化祭に向けて何かしら企画を立てているのは知っているので、大忙しだったのを去年覚えています。だから、引き受けてくれるとは思わないです」


 「マジか。俺の予想的にパソコン部に行けば何とかなるだろうぐらいにしか考えて無かったからな。時間が掛かるならもう別にやらなくても」


 「吉条君。男に二言は?」


 「ある」


 「無いです!やると言ったんならやります!ほら!何時もみたいに悪知恵を働かせてください!」


 こいつ人を頼る割に悪知恵とか言いやがったぞ。信じられない。


 「……だがな、パソコン部でもなくて動画が偽物か本物かどうかも分からない様な人間を探し出すって言われたらどんな感じの人だ?」


 「うーん、例えばほら吉条君みたいにアニメとか漫画とかそう言ったのが好きな人とかは出来そうなイメージあるくないです?」


 「俺がパソコンが出来るように見えるか?」


 「吉条君は見えないですけど、心当たりとか無いんです?」


 こいつは俺に友達がいないことを気付いていないのか、それとも素で言っているのか判断しにくいから困る。

 ……だが、俺の知り合いでパソコンが出来そうなやつと言えば清水?だが、清水も本は読むがパソコンが出来るイメージは無いし、持っている所を見たことも無い。

 他にアニメなど好きな奴と言えば……。


 「……あ」


 「その反応は心当たりがあるんです!?」


 「心当たりと言うか、一応何となくだがパソコンを持っていそうなイメージで出来そうな奴には一人だが心当たりはある。だけど、仲良くも無いし今学校にいるかどうかも分からない。それでも探してみるか?」


 「愚問です!」


 漢城が即答したので探すとするか。

 ……絶対に《《あいつ》》が出来るという保証はないけども。

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