馬鹿
よく考えればすぐに分かることであった。俺もまた寺垣の件で怒りで頭が働いていなかったのかもしれない。
花飾りが無くなったのは一週間前。足跡何て残っているわけもなく、無数の足跡だけが残されていた。
「吉条ってこの中で分かるの?凄いわね」
南澤がキラキラとした目でこちらを見てくるが止めてくれ。分かるわけない。すっかり忘れてただけだ。
「……俺は馬鹿なのかもしれない」
思わず自分でも素直に認めてしまう程に馬鹿かもしれない。これじゃあ、単独犯か複数犯かは分からない。まあ、分かれば良いな程度に考えていたのでまだ大丈夫だ。
「何をやっとるか!お前ら!」
突然の怒鳴り声に俺は肩を飛び跳ねてびっくりしてしまい、声がした方を向けば、そこには体育教師であり、一度南澤たちが部活の宣伝をしようと思い、紙を昇降口に置き、ばら撒いてしまった件で叱った――――体育教師で生徒指導である剛先生がいた。
「よ、吉条!逃げるわよ!」
南澤が慌てた様子で全力で逃げようとするので、手を掴み引き留める。
「やめとけ。どうせ顔がバレてるんだから逃げた所でアウトだ」
「その通りだ。お前らこっちに来い!」
剛先生に連行され、俺達は体育教師が扱うのか、体育館の入り口にある一部屋に連れていかれ、説教をされる。
「こんな所でサボって何をしているんだ!お前らは二年生で将来を決める大事な時期だろうが!」
正座させられる中、説教を受けるので俺は無心モードに入ろうかと思ったのだが、
「俺は、一日の殆どをここにいるからこんな所でサボろうなんて輩を何人も見てきた!だが、見つからないと思ったら大間違いなんだぞ!」
「……すみませんでした」
南澤が素直に謝罪しているのだが、
「……剛先生って一日の殆どここに居るんですよね。それって朝からですか?」
「そうだが」
「丁度、一週間前のこの日、剛先生はここに居ましたか?」
「居たと思うが……って今お前たちがサボってる件を!」
分かっている。サボったのは悪いし、説教を受けるのは分かってはいるのだが、
「説教は聞くんで、それよりも俺達にとっては大事な事なんです。一週間前のこの日、焼却炉を見たときとか違和感とかありませんでしたか?どんな些細なことでも構いません」
「今はそんな事よりもだ!」
剛先生がこちらの話を聞いてくれそうにないので、チラリと隣にいる南澤へと目を向ける。南澤もまた、俺の一週間と言う言葉にピンときたのか、こちらを向いていた。
「お願いします先生!真由美に関わってるかもしれない情報なんです!だから教えてください!」
おい!別にそこまで言えとは思ってないんだが!?喋り過ぎだ!
「……どういうことだ?詳しく話せ」
当然と言うべきか、今朝の紙の件は生徒指導である剛先生にも必ず知れ渡っているに決まっている。そして、寺垣の件となれば剛先生は聞くに決まっているのだ。話は長くなるし、別に言わなくても良かったのに!
だが、俺の願いは南澤に通じる訳もなく、南澤は『お悩み相談部』に怪盗Xからの挑戦状。そして、花飾りが盗まれた件、ペナルティと書かれた紙で寺垣の今朝の件、全てを喋った。
「……確かに今朝寺垣についての変な紙が学校中に散りばめられ、騒ぎになっているのは知っている。それについては、今日の放課後に職員会議で話し合われる予定だ。そして、お前たちの話を聞いた限り生徒の仕業だと言う事だな?」
「多分ですけどね。だからこそ、先週のこの日に焼却炉に少し変わった様子があれば教えてください。何でも良いんです」
南澤が全ての事情を話したのが功を成したのか、初めて剛先生が顎に手を当て考える仕草を行っている。
お礼ついでに南澤の方を向き、口パクで助かったとだけ伝えれば、親指を立てて当然よ!と言わんばかりの表情をしている。
「……先週と言えば……」
「何か思い当たることがあるんですか!?」
剛先生の呟きに直ぐに南澤が反応するが、俺も非常に気になる。
「……俺は何時も朝学校に来て、授業の確認をした後自分が使わせてもらう体育館、その周辺を掃除をするんだ。今日は今朝から寺垣の紙の件もあって出来なかったが、どうもあの日は何時もより焼却炉の周りが汚かったような」
「それは本当ですか?」
「多分だがな。なんせいつもの事だ。もしかしたら私の見間違いと言う事もある」
俺は馬鹿だと思っていたが、もしかして結果オーライじゃないのか?今の剛先生の話を聞けば、少なからず一つの可能性に導かれる。
あまり汚くない焼却炉の周りが何時もより汚かった。そこから導き出されるのは―――――複数犯という答えに辿り着く。
今までの案件は全て単独での犯行。だけど、今回に限りそうではない。これは、俺の予想の中で最悪の範疇に入る。
「……最悪の展開だな」
「何か分かったわけ?」
「まあ、最悪の答えがちょっとだけな。直接怪盗Xに繋がるものじゃないかもしれないが、少しずつだがヒントは増えていってる」
「それなら全然オッケーね!」
「そうだな。後は放課後に部活だな」
正座したおかげで少し足が痺れてしまい、少しよろけながらも起き上がることが出来た。
「よし。戻るか」
「そうね!」
「おい、何で勝手に帰ろうとしているんだお前ら!」
流れるままに帰ろうと思ったのだが、やはり無理があった。
ですよねー。ちょっといけるかなとは思ったけど、そんな人生甘くありませんでした!
結果、一時間目が終わるまで永遠と説教をさせられてしまった。
「……二時間目はきちんと出るようにしろ。帰っていいぞ」
何とか終わったので、もう一度重い腰を上げ南澤と二人で帰ろうと思ったのだが、
「……一応怪盗Xなどというふざけた輩が居るのだとすれば、こちら側でも何とかしてみるが、あまり期待はしないように。寺垣に関してはほとぼりが冷めるまでは保健室登校になるかもしれん」
剛先生はいかつい表情ながらもこちらにある位程度の事を教えてくれる。萩先生の時も思ったが、ここの学校の先生は中々に良い人たちが揃っているのではないだろうか。
「分かりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「お礼なんぞ要らん。だが、最後に一言だけだ。お前ら高校生は今遊んで楽しいかもしれん。だが、これから先はそうはならん。今からでもきちんとした生活を心がけるように」
「分かりました!」
南澤が分かっているのか、分かっていないのか判断がつきにくい返事をして教室の方に戻っていくので、俺も一応お辞儀だけに済ませて、南澤についていく。
――――犯人の目星はない。
だけど、お悩み相談部に恨みを持っているのだとすれば、俺は一人だけ思い浮かんだ。
――――春義蓮。
俺の中で今重要人物となっている。




