寺垣真由美と南澤真澄
「どうせ、教室に居ても苛つくだけだし、一時間目は休むわよ!」
「二時間目も同じだと思うんだが」
「一時間目で一旦心を落ち着かせるのよ」
心を落ち着かせるなど、南澤の辞書には多分載っていなかった文字だと思うんだけど、俺の勘違いですかね?
「……まあ、もう既に皆勤賞は終わってる訳だし、一時間目だけなら別に休んでも問題はないんだけどな」
「皆勤賞狙ってたの?まあ、それなら良いわね。それじゃあ、体育館裏辺りに行きましょう。そこなら、誰もいない筈よ」
皆勤賞狙ってたの?って誰のお弁当で休む羽目になったのか分かっていないらしい。
「なら、とっとと行くぞ。HRも休むのか?」
「もう面倒だし、別に良いわ!」
「了解」
まあ、俺としてもあの教室に居るのは確かにストレスが溜まるし、考え事ばかりしてしまいそうになるので丁度良かった。
南澤と一緒に行動するのは体育祭と文化祭の実行委員以外では初めての事だったとふと思いながら、二人で体育館裏に行く。
「なんか、授業サボるってわくわくしない?」
「しない」
「素っ気ないわね。まあいいわ。私だって滅入ってるし」
「寺垣の心配は大丈夫だ。何とかする。それに、怪盗Xも本気で探して何とかする。それだけで十分だ」
「……本当にこれが怪盗Xの仕業なら私は絶対に許さないわ。真由美は本当に、本当に良い子なのに傷付けるなんて」
南澤は唇を噛みしめ、怒りを抑えているようだった。これなら、確かに一時間は心を落ち着かせる必要があったかもしれないな。今回の南澤は相当怒ってる。まあ、友達が傷つけば怒るのは当たり前か。
「まあ、寺垣は良い奴だよな」
正直あそこまでコミュ力が高くて善人な奴なんて例年稀に見る人物だと言えるかもしれない。
「多分吉条が思ってる何倍も真由美は優しいわよ」
「どんだけだよ」
「……私って昔ぼっちだったの」
南澤が立っているのが疲れたのかしゃがみながら衝撃的な言葉を発した。
「……前世の記憶でもあるのか?」
「今の話よ!私が小学四年生の話ね」
「……お前が生きている頃の話なのか」
「だからそう言ってるじゃない!」
「いや、正直信じられなかった」
考えても見て欲しい。今の南澤が昔は俺と同じボッチだった。そんな話が信用出来る訳が無い。よって、自分には私の生まれ変わりだった人の記憶が見えるわと、言われた方がまだ信用出来る話だ。
「あんたが私をどういう風に見ているのかは知らないけど、私はこの金髪のおかげで凄い目立ってしまったわ」
確かに、今の南澤は慣れてしまっているせいか、それとも高校生という事も合わさることによるものなのかは分からないが、そんなに違和感は抱かない。だけど、小学生ともなれば話は変わってくるだろう。
「……私は皆が避けているせいか、もしかしたら元々私は人見知りだったのかもしれないけど、小学四年生の頃まで全く友達はいないで、一人で過ごしてたわ。だけど、四年生の頃に転校生でクラスに真由美が入って来たの。転校生ってのもあってか、それとも真由美が凄かったのかは分からないけど、直ぐにクラスに馴染んでたのを今でも覚えてる」
寺垣のコミュ力は小学生の頃から備わっていたのか。流石だな。
「私はそんな真由美が少し羨ましくて、妬ましかった。私は、地毛でこの髪なのに勝手に避けられて、一人ぼっちなのに転校生で日が浅い真由美に抜かれたような気持ちもあって少し悔しくもあったわ。だけど、そんな私にある日真由美が話しかけてきたの。『南澤ちゃんも一緒に話そう?』って。その時の私は少し真由美の事が妬ましかったから、『私はこの髪で嫌われてるから関わらないで良いから。貴方も嫌われるわよ』って素っ気なく対応しちゃったわ」
南澤のニュアンスには当時の事を後悔している様に聞こえるが、果たして後悔する必要があったのだろうか?
彼女はただ、自分の髪の毛が金髪だと言う事だけで避けられていた。それは、親から授かった髪で、簡単に変えていい代物ではなかった筈だ。だけど、向江の時と同じように小学四年生で一番楽しく、明るい時期に友達がい無い中、転校生の子がクラスの中心に入ったのを見れば、誰だって少しは悔しい気持ちが、妬ましい
気持ちが芽生えてもおかしくない。
「真由美はただ、一人でいる私に気遣って話しかけてきてくれたのに、素っ気なく対応したからもう関わってこないんだと思ってた」
「まあ、普通初対面で素っ気なく反応したら仲良くしたくないんだって思うわな」
「でしょ?私もそう思ってたら真由美は次の日に突然髪の毛を――――金髪にしてきたのよ」
「え?小学四年生でか?」
「そうなのよ。私はあの時が過去最高に驚いたかもしれない。だけど、他の皆も驚いていたわ。当たり前よね。だけど、皆から見られている中、真由美は私の方に来て『もう一人じゃないよ。私と同じ』って言ったのよ。本当に衝撃的だった。こんな子がいるのかと思ったわ。だけど、それがきっかけで私と真由美は話すようになって、私の事を気遣っているのか、それとも金髪が気に入ってるのかは知らないけど、それからずっと真由美は先生に怒られても、何があっても金髪でいるのよ」
寺垣が金髪であること、南澤が金髪であることは俺にとっては日常的であり、当たり前の事だった。だけど、当事者である二人には感慨深く、二人の友情が芽生えたきっかけだったのだと初めて知った。
「……良い奴なんだな」
「うん。本当に良い子。そして、私の親友だから。……吉条一緒に怪盗Xを絶対に捕まえるわよ」
南澤は立ち上がり、こちらに手を差し伸ばす。
「……何時もなら頑張れよって任せる所だが、俺だって怪盗Xは気に食わないし、寺垣には借りもある。見つけるぞ、南澤」
「当たり前よ!」
南澤の手を握りここで、俺達の協力関係が結ばれた。
「よく考えたら、お前とお前とこうやって一緒に探したり、考えるのは初めてかもな」
「確かにそうね。何時もは吉条が直ぐに解決策を見つけて、私達がそれに協力する形だものね」
「そうだったな。まあ、俺から振っといてなんだが、その話は一旦置こう。まずは、今の内にでも今回の事で分かった事を纏める」
「何か分かるの?」
南澤は多分分かっていないと言うよりは寺垣の事で怒って考えていないだけだと思う。
「本当に当たり前のことだが、怪盗Xが盗みを働いて、それを誰にもバレないことを快感に思ってるおかしい奴じゃなかったわけだ」
「確かにそうね。盗むのが目的ならこんな事しないものね」
「ああ。それと同時にこれは憶測なんだが、俺達『お悩み相談部』に恨み、もしくは寺垣に恨みを持っている人間かもしれない。今回の事で怪盗Xは必ず職員会議でも問題になる。それほどのリスクを冒してでもここまでするって事はそれなりに覚悟がいる筈だ」
「ああ!確かに!全然思いつかなかったわ!流石ね吉条!」
「まあ、これは憶測の範囲内だ。絶対じゃない。取り敢えず、今回の出来事で少しずつ範囲は狭めてある。せめて、何年生の仕業なのかぐらいは知りたい」
「そうね。だけど、それはまだ絞れてないのよね?」
「まあな。しかし、これから出来るかもしれない」
「え!?どうやって!?」
南澤が凄い勢いでこちらに近寄ってくる。本当に近い。
一歩半南澤との距離を空けて、説明する。
「寺垣はコミュニケーション能力も高いし、学校でも有名。それでいて、あんまり人に嫌われない人間だ」
「そうね。真由美は凄い良い子だもの」
自分の親友が褒められることは満更でもないのか少しご機嫌なご様子。
「だからこそ、嫌っている人間を絞ることは結構簡単な事なのかもしれない」
「確かにそうね!真由美を嫌っている人間は少ないんだから、それを見つけ出すことが出来たら簡単ね!」
「まあな。それに関しては放課後に部室で話し合えばいい。俺は、それと同時に丁度ここで確認したいこともある」
「何を確認するの?」
「体育館裏には焼却炉があるだろ?」
「ええ。そうね」
「犯人の足跡あるかもしれないだろ?」
「凄いわ吉条!流石すぎるわ!どうしてそこまで思い付くのか私には信じられないわ!」
褒められるのは満更でもないのだが、これに関しては前から考えていたこと。正直、犯人の足跡何て見ても分かるとは思っていないのだが、俺には一つ仮説がある。
――――犯人は単独なのか?という事だ。
花の飾りを盗むという行為は一人では中々に重労働。だが、それだけのことをするだけの行動力、もしくは人数が居るのではないか?と考えられる。
……複数犯の場合は一人を見つけても意味が無い為、正直面倒極まりないのだが、なるべく単独犯でありますようにと願いながら、焼却炉が見える位置へと進むのだった。




