憤り
寺垣の写真が添えられた紙を見て固まってしまった。どういうことだ?今日で丁度怪盗Xがペナルティを出すと言って一週間。これがそのペナルティだとでもいうのか?
「……南澤。寺垣はどうしてるんだ?」
「それが、私と一緒に学校に来たんだけど、ずっと見られててこの紙を見て、私達一瞬唖然としてしまったけど、直ぐに保健室に行ってもらったわよ。その後は職員室に行って萩先生にこの紙を伝えて、吉条を探してたのよ」
「……分かった。教えてくれて助かった」
南澤から渡された紙を落としてしまったので、拾ってもう一度見る。
「……これは事実じゃないんだろ?」
一応、分かってはいるが確認だけしておく。
「当たり前よ!これは、真由美のお父さんとの写真。それを、誰かも知らない人とか書かれて勝手に出されてるのよ」
「……やっぱりそうだよな」
寺垣は夜の繁華街で変な男と何かをするような人間ではないことぐらい知っている。この写真を撮った人間はそれを知っていて撮ったのか?それとも、知らないで何でも良いからネタになるような物が欲しくて撮ったのか、まあそこは別に問題ではない。
問題は、この紙が多分学校中に広まっていると言うことだ。
当然、何も知らない奴がこれを見れば、誰だって勘違いするし、実際一学期間の間だが、一緒に居た俺でさえ一応確認するほどだ。
「取り敢えず、教室に戻るぞ。ここで俺達が話したところで何か解決出来る訳じゃない」
「……分かったわ」
南澤の表情は明らかに納得している様には見えない。寺垣とは親友であろう南澤なら朝からずっとこの紙を広めている人間を見つけ出したい所なのかもしれない。だけど、今の段階で何かが分かるわけでもない。それは、南澤も理解しているのか不満そうな顔を露わにしながら二人で教室に入り、俺は自分の席へと座る。
「……ねえ、さっき廊下に貼ってあった紙見た?」
「やばいよね」
「真由美ちゃんってあんなことしてたんだ」
「俺寺垣の事良い奴だと思ってたのにな」
「まさか、あんなことしてる人間とは思わなかったわ」
いつも通り、イヤホンを付けて本に没頭しようとしていたのだが、周りの声に耳を傾けてしまう。
当然と言うべきなのか、廊下に張り出されてある紙を見て誰もがその話題に触れる。
寺垣は人気者だ。話しやすく、明るく、そして部活にいる南澤、泉と同様に、誰かに手を差し伸ばすことが出来る優しさを持っている。そんな彼女が変なことをする筈がない。当たり前の事なのに、誰もが不信感を拭えないことに少し苛立ちが湧いて来る。
だけど、自分が皆の立場なら俺もまたそう考えてしまうのかもしれないと思うと、何も言い返すことが出来ない。
ここで、俺達が寺垣はそんなことしてない。あり得ないと言うのは誰にだって出来る。だけど、証拠がない。これは、寺垣の父親だと言っても俺達が庇っている様にしか見えないし、当事者である寺垣が違うと言っても実際に父親なのだが、他の皆は誤魔化している様に聞こえないだろう。
どうせ、この後に『お悩み相談部』で話し合って何とかするに決まっているのだ。寺垣の変な紙を出した犯人を突き止める。だから、今は何も言わずに、我慢するしかない。
「ちょっと!」
……だが、俺は一つ大きな過ちを犯した。
ここにいる誰よりも寺垣の事を心配しどうにかしようとしている女がこの状況で黙っているわけがないのだ。机を大きく叩き立ち上がる。
「あのね!真由美は……って!吉条!は、恥ずかしんだけど」
今すぐに何かを言おうとする南澤の手を掴み、教室の外まで連れていく。
「……お前の気持ちが分からない訳じゃないが、ここで何を言っても、誰も信じるわけないだろ」
「分かってるわよ!だけど、なんで真由美があんなこと言われている状況で黙ってないといけないのよ!真由美は本当に……本当に優しい子なのよ!」
南澤は下を俯き、グッと我慢するかのように手に拳を作り握りしめていた。
「あいつが優しい人間だと言うことぐらいは俺だって知ってる。だけど、今はどうしようもない。俺達が怒ったとしてもどうする事も出来ない。それこそ、この犯人があ怪盗Xなら相手の思う壺になるかもしれない」
「……そのぐらい私だって分かってるわよ」
未だ、南澤は下を俯いたまま顔を上げようとしない。
「安心しろ南澤」
「え?」
「俺だって寺垣に借りがある」
南澤から受け取った偽の紙をポケットから取り出してもう一度見る。
やはり、何度見ても気に食わない内容だ。本当に、腹が立つ。
寺垣には海の家で起こった向江の案件で手伝ってもらった借りがある。あの時は、俺一人では絶対に出来なかったことだ。そんな中、寺垣は手伝ってくれた。そこには大きな借りがある。
「……よ、吉条?大丈夫?」
「ああ。だがな、怪盗Xだけは絶対に見つけ出してぶっ潰す」
自分でもここまで怒っていることに気付かなかった。先程まで南澤が怒っているから少し平静を装えていたのかもしれない。だが、今となってはそうもいかない。思わず、自分の手の中にあった紙を強く握りつぶして怒りを霧散させるしか今の俺には考えられなかった。
「……ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。あんた凄い怖い顔してるわよ」
「あ、悪い。もう大丈夫だ」
紙を握りつぶしたことで少しは霧散出来たし、後は怪盗Xを見つけ出して怒りを抑えよう。
「ハア。なんか吉条の顔見てたら私が落ち着いたわよ」
「俺はお前の顔見てると怖い思いをしそうで怖い」
「今丁度イライラしてるから殴るとなると全力になるわよ?」
「……冗談だから勘弁してください」
少し場を和ませようと思ったのだが、逆効果のようで俺に恐ろしい展開が待ち望んでいそうだった。やっぱり、俺にはこういったリア充の行動は向いていないらしい。
「……ねえ、吉条」
「あ?どうした?」
一礼して謝ったと思えば、南澤がこちらを見据えて何処か悪戯っ子の様な顔をしている。……凄い嫌な予感しかしない。
「今から一時間目の授業サボるわよ」
「お一人でご勝手に」




