始動
放課後になり、俺と南澤で部室に行けば、既に到着していた泉がこちらに直ぐに駆け寄ってくる。
「広先輩!真由美先輩のあれを」
「分かってる。今からそれについて話を始めるぞ」
「…はい!」
俺の言葉が嬉しかったのか、泉は笑顔で頷きながら自分の定位置に戻っていく。俺も自分の位置に着き、南澤も座ったので早速話し合いを始める。
「泉も知っていると思うけど、今朝寺垣について書かれた紙が廊下に張り出されていた。だけど、あれは事実とは違い実際は寺垣の父親だ」
「あれが嘘なのぐらい私でも知ってますよ!今はそれをどうしようかって話をするんですよね!?」
「ああ。その通りだ。まず、俺の憶測だけど八割の確率で怪盗Xの仕業だと思ってる」
「逆に怪盗X以外の可能性があるんですか?」
「殆ど無いが、寺垣に恨みを持ってる人間とかならあり得そうだろ?そいつの狙いと、怪盗Xのペナルティの日が偶々重なったと言う事も考えられる。まあ、今日これ以上何もなければ怪盗Xの仕業で間違いない。今回のこの紙が怪盗Xの仕業だとしてどうしてこんな事をしたのか、そして今回の犯人について少し分かった事を説明する」
泉に今日剛先生との会話で複数犯の可能性、そして怪盗Xが寺垣、もしくはこの『お悩み相談部』に恨みを持っているかもしれない人物と言う事も話しておく。
「……私達って誰かに感謝はされても反感を買う事なんてあるんですかね?」
「まあ、確かに悩みを解決してるわけだしな。だけど、例えばそうだな。俺達みたいに誰か人が来ないと活動が出来ない部活があるとすれば、一学期に『お悩み相談部
』の人気で人が奪われて恨みを買ってる可能性があると言う訳だ」
「……確かにそれなら恨みを持っていてもおかしくはないかもしれないですね。それで、丁度繁華街をお父さんとうろついていた真由美先輩が写真を撮られたと言う事にも繋がると思います」
俺もまあ、その線は無くはないと思うが、正直狙ってやっているとしか思えないんだよな。
憶測だが、相手が複数犯の場合俺たち全員が見張られて怪盗Xとその仲間が弱みを握ろうとしている。その線が濃厚な気がする。
「…ちょ、ちょっと待って!それって私のせいじゃない!私がこの部活を宣伝しようって言ったから真由美が」
「それは違う」
南澤が何か自分のせいにしようとしているので、言葉を遮る。
「どうしてよ!どう考えても私のせいじゃない!私が宣伝なんかしなければ真由美がこんな目に遭ってないってことじゃない!」
南澤が声を荒げて否定するが、俺は別にこいつのせいだと言いたかった訳ではない。
「考えても見てみろ。お前がこの部活を宣伝したのは俺からすれば人が毎日多く来るし、面倒だった。だけど、そのおかげで色んな人の悩みを解決したんだろ?だったら褒められはしても貶される謂れはない筈だ」
「……前半部分が無かったら最高だったんですけど、広先輩らしいですね」
「喧しい」
だって本当に面倒だったんだから仕方ない。
「……そうよね。怪盗Xの逆恨みって事なのよね」
「ああ。それに、今までのは全部憶測の話だからな。実際に『お悩み相談部』に恨みを持ってるかすらまだ分かってない状況だ。だから、まずは犯人を絞り込むことから始めようと思うけど、反対意見はあるか?」
誰もしゃべらないので無いと判断して俺が考えた作戦を話す。
「それじゃあ、まずは寺垣に恨みを持っている文実の人間を探す、もしくは俺達と同じで人が来ないと活動が出来ない人間を探す、どちらにする?」
「「両方!!」」
泉と南澤が同時に応えるのが予想出来ていて、そのまんま答えたことに少しおかしい気持ちになるが、今は止そう。
「なら、泉が寺垣に恨みを持ってそうな人間を探す、南澤が部活動の人間の探りを入れる。それで良いか?」
「広先輩はどうするんですか?」
「俺は別に探りを入れたい場所がある。そのあてが外れたらお前らのどちらかのサポートに回ると思う」
「分かりました。それじゃあ南澤先輩一緒に探しますよ!」
「当たり前よ!絶対に探し出して真由美の前で土下座させてやるわ!」
この二人がやる気を出すのは想定内なのだが、
「……分かってると思うけど、遠まわしに探せよ。そうじゃないと、犯人に気づかれたらそれこそ絞るのが困難になるからな」
「分かってますよそのぐらい!行きましょう南澤先輩!」
「泉ちゃんは少し先に行ってて。直ぐに追いつくから」
「……?分かりました」
一瞬南澤の言葉に不思議そうな顔をする泉だったが、そのまま部室を出ていくのだが、どうしたんだろうか?
「何かあったのか?」
「あんたにお礼を言う為よ。真由美の恨みを買ってる人間を私に探さないように配慮してくれたんでしょ?」
「……偶々だ」
本当に妙な時だけ鋭い南澤には少し困る。
「別に吉条がそう言うんなら別に良いけど、取り敢えずありがとね。それだけ!」
お礼を言って気恥ずかしかったのか、南澤は少し駆け足で部室を出る。これで、部室に残ったのは先程から何の日常と変わらないように本を読んでいる清水と俺だけだ。
「……なあ、清水。お前も」
「嫌よ。どうして私がそこまでしなければならないのか分からないから」
協力してくれと言おうと思ったのだが、清水は俺の言葉が分かっていたのか即答する。だけど、正直俺だけでこの案件が解決出来るとは思わないんだ。だからこそ、清水の協力は必要不可欠だ。
「お前は気に食わないとは思わないのか?」
「何が?」
「俺は寺垣の件で多少なりとも腹が立った。まあ、それもあるんだが、それ以外にこの怪盗Xが非常に気に食わない。それはお前も同じだろ?」
「……多少はね」
「そうだろ?今までの流れるようなこの紙の内容、どう見ても怪盗Xの思惑がここまで計算通りに言っているとしか思えない。それがどういう意味か分かるか?」
俺の言葉に興味を惹かれたのか、清水が本は開いたままこちらに目を向ける。
「どういうことかしら?」
「今回の怪盗Xの挑戦状。それは『お悩み相談部』に対する挑戦状だった。と言う事は、お前がこの部活に居ることもこの怪盗Xは知っている筈だ。なら、俺が何を言いたいかと言うと――――清水、お前が居ることも計算済みでここまで出来ると怪盗Xは分かってたんじゃないのか?」
清水の眉がピクリと動き、本を閉じて身体ごとこちらを向く。
「吉条君が言いたいのは、私や貴方も含めて怪盗Xの掌の上で転がされていると言いたいのかしら?」
「そう言う事だろ?実際に全部怪盗Xの狙い通りの様な展開になっている気がする。俺はそれが非常に気に食わない。誰かの思惑通りに動かされるなんて俺のプライドが許さないし、清水、お前もそうだろ?」
「……成る程。貴方の言う事が正しいわね。確かにもしもここまでが怪盗Xの狙い通りだとすれば、非常に不本意だけど私達は掌の上で踊らされていたことになる。それは、気に食わないわ。それで、貴方は私に何を協力して欲しいの?」
何とか清水のやる気を出させることに成功できた。正直半分は賭けだったが成功出来て良かった。
「清水にやってもらうことは、今回のこの写真の場所の特定、それと一週間前に送られてきた挑発の紙にヒントが隠されているのかを探してほしいんだ。それなら、誰とも話さなくていいし楽だろ?」
「…そうね。それなら私でも大丈夫。こちらは任せなさい」
「お前なら任せてれば大丈夫だってことぐらい分かってる。よろしく頼む」
清水に頼み、俺は俺で別行動を取る。清水によって場所が特定出来たらそれからはまたやることは変わってくるのだが、それまでの間にやれることはある。
泉が寺垣に恨みを持っている文実の人間、南澤が同じ様な部活動で『お悩み相談部』に恨みを持っている文実の人間。
これは、ほぼ百%だが犯人の一人は文実。それは確かだから二人に取って貰った行動は正しい筈。だけど、今回のケースでは複数犯の可能性。その場合、俺が取れる手段として一番可能性が高い人間に的を絞り探りを入れていくしかない。
――――春義連を探るしかない。だけど、俺だけでは不安だし、こいつが居てくれると本当に助かり、俺からすれば確実に犯人ではないと断言出来る助っ人――――漢城伊里に頼むしかない。
「漢城、お前の力を貸してくれ」




