怪盗X
「……成る程。まさか、ここまで全部仕組まれていたとは思いもしなかったな」
オックーは俺の背後に居る人たちを見渡し、全てを察したのかもしれない。一瞬にして冷静を取り戻し、尚且つ状況判断が出来るオックーを見てやはりこいつが怪盗Xなのだと改めて気付かされる。
「……正直殆どお前だとは思っていた。少ししかお前とは話したことは無かったが、まさかこんな事をするなんて思いもしなかったぞ」
「その言葉をそっくり返させて頂きますよ。吉条宗弘先輩。俺も体育祭で関わるまでは本当に何処にでもいるただの先輩だと思ってましたよ。だけど、まさか俺が景と組んで貴方に負けるなんて微塵も思いもしなかった。あの時ほど自分の愚かさを露呈した時は無かった。だからこそ、今回は油断無しで完璧に勝ったと思ったが、それでも駄目とは流石に思いもしませんでしたよ」
「……認めるんだな。お前が怪盗Xだと言う事を」
「だって仕方ないでしょ?窓の隙間が空いているし、その先にはスマホが置かれてあるから既にもう電話の内容はバレてる。それならもう言い逃れ出来る術は見当たらない」
……こいつこそ普通に見えて、この状況で辺りを見渡して状況を整理する事だって出来ている。ここだけで言えば、清水と同等ぐらいの頭の回転の速さだと言えるかもしれない。
「……もうどうにでもなれって感じですけど、取り敢えずどうして分かったのか、どうやって僕をここに誘き寄せたのか、教えてもらって良いですかね?」
「俺もお前に聴きたいことがある。それに答えてくれるなら話す」
「聞きたい事?別にもう何を聞かれても大丈夫ですよ」
「なら話そう。俺がお前だと思ったのは、文実に来た時お前と初めて話した時だ。あの時、お前は内心の為に広報部に入ったと言ったが違うだろ?怪盗Xとしての役割を果たす為に入った。言ってたよな?広報部での仕事は最初は楽だって」
南澤の言葉、その言葉によって俺は文実に初日に来た時にオックーが言っていた言葉を思い出し、そして広報部の人間なのではないかと一瞬考えた。だけど、その時思い出したのは文実よりもっと遡り、伊瀬茜の噂に関して有名な人間を探っていた時だ。
「オックーが言っていた言葉を思い出した時、一瞬オックーではないと思ったが、黒柿を訪ね教室に来た時、お前の言葉を思い出した。言ってたよな?漢城と《《帰り道に出会ったことがある》》って」(※第18話参照)
「……やっぱり覚えてましたよね。正直、あの時は本当に吉条先輩の事は全く気にしていなかったのでつい口が滑っていました。だからこそ、後々後悔はしましたけど、流石に覚えていないと踏んだけど、無理だったか」
オックーもまた流石にここでの失態には気付いていたようだ。
「帰り道を知っているお前なら後を尾行するなんて話は簡単なはずだ。それに部活も入っていないお前なら自由に動くことも出来る。この時点で俺の中でオックーは犯人候補の中に入った。だけど、まだ俺の中で腑に落ちない点があった。それは、お前が嵌めたここにいる三人との共通点だ。それだけが本当に分からなかった。だけど、俺の中で犯人になり得る人物がお前しか見当たらなかった。言ったよな?お前は俺に負けて悔しかった。だからこそリベンジしたいと。それは今回の件でも重なる」
今回の一件、その中に俺はオックーが関係しているとは容易に想像することが出来た。だが、その一方で一つだけ気がかりになったのは、
「――――お前は関係者だ。だけど、俺の中で共通点が無いと言う事で黒幕ではなく、《《関係者》》と言う立場じゃないかって思ったんだ。その点はどうなんだ?」
「……確かに、吉条先輩の推理は正しい。何時も合理的であり、体育祭の時も合理的な判断が出来ていると思います。だけど、常に合理的に考え過ぎでもある。僕は確かに――――黒幕ではない。唆されて始めたことだが、今までそこにいる寺垣先輩、小野先輩、漢城先輩を嵌める計画を作り、体育祭での借りを返すために吉条先輩を巻き込むために『お悩み相談部』を標的にしたのも全部自分で考えたことなんですよ」
前半部分で相当重要なことを言っているが、今はただどうしてオックーがこんな事をしたのか、それが気になった。
「後で色々と聞きたいことはあるが、どうしてお前がこんな話に乗った?」
「今の世の中が気に食わないからですよ」
俺の問いに対し、オックーは即答で答える。
「少し話は逸れますが、僕は今後自分で会社を立てて起業するつもりです。そこでは、あまりコミュニケーション能力が無くとも強者が上にいけるシステムでやっていくつもりです」
何故この場で急にオックーが自分の夢の話をしたのか一瞬分からなかったが、後の方で段々と意図が組めるようになってきた。
―――――こいつ、まさか。
「吉条先輩ならもう分かったんじゃないんですか?僕はずっと気に食わなかった。ただ、毎日バカ騒ぎをするだけで学校で頂点に立ったつもりでいる。調子に乗る者がいる。僕より頭も悪い奴らが自分の目の前でバカ騒ぎをしている連中を見れば怒りしか込み上げてこない」
今の言葉ではっきりした。こいつは――――学校のカースト制度が気に食わなかったんだ。
「だから起業する前に手始めに、丁度良いと思った。この腐れ切った日常を破壊してやろうと思った。本当に成功した時は背筋が震え上がるほど高揚しましたよ。今まで陰で普通に過ごしていた俺が学校のカーストの頂点に居る人たちを手玉に取れた。こんなにも嬉しい事は無かった」
自分が行ったことを話すオックーの表情は今まで見たことが無い程笑っていたが、その表情がどうしても俺には醜く見えてしまった。
「……た、たったそれだけの事で真由美やここに居る二人を陥れたって言うの!?ふざけんじゃないわよ!!」
隣に居たはずの南澤が激情してオックーに近づこうとしていたのでその手を掴み止める。
「待て南澤。まだ、オックーの話は終わってない」
「その通りですよ。吉条先輩なら分かるでしょう?貴方は凄い。どうせ、ここまで来れたのも貴方が計画してたんでしょ?涼が突然クラスで謝罪したのも絶対に吉条先輩だ。僕には分かる!貴方も強者の位置にいる人間だ。僕の気持ちが分かるんじゃないんですか!?こんな世の中でリア充以上に力を持っている自分がカーストの中盤、底辺に居るなんて許せないと思うでしょう!?」
オックーは俺と似ていると言った。
似ている云々は別としてもオックーの気持ちは理解出来る。世の中には隠れながらに頭の良い人間は沢山いる。
清水の様に運動も、頭も良い人間でありながらカースト中盤に居るなんておかしい、と思わなくもない。
そこに、カースト上位者からの恨み、嫉妬が無いと言われれば嘘になるだろう。
だからこそ、俺の言葉は一つだ。
「―――――全く思わねえよ」




