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結果

 人は自分がやっていることを馬鹿にされることを嫌う。

 人は自分の趣味が分かってもらえなくても悲しむことは少ないが、馬鹿にされれば苛立ちを隠せない。


 人は本能と理性によって生きている。その中でどれだけ外面で偽ろうとも、内心では焦りまくっているに決まっている。

 複数犯と言う事は共通の狙いがあるからこそ出来るのかもしれない。だが、共通の狙いがあるにしても、人の感情と言うのは誰もが理解できるものではない。自分にとって苛立つことが、他の人からすればあんまり怒らない。そんな事はざらにある。


 だからこそ、人は人と深くつながっていくことで少なからずそれを理解しようとするのかもしれない。だけど、どれだけ深く関わろうとも全てを理解し合えるわけではない。

 複数犯と言う事、それは人の気持ちを共有することは出来ないという欠点があるのだ。

 今怪盗Xがどう考えているのかが大体見当がつく。

 どうしてこんなことになっているのか?仲間がこんな事をする筈がない。だけど、もしかしたら?

 などと、どんどん思考が通常通りにはいかない事だろう。

 人は焦っている時ほど冷静な思考が出来なくなる。普段色々と緊張に慣れている人間なんて早々いないだろう。


 ここまで来れば後は罠に掛った相手の焦った思考を分析するだけだ。


 「み、皆さん落ち着いてください。一人プリントを下さい。そしたら幾らでも予備は作れるので。だけど……どうしてこんな直ぐにでも作れるプリントを数枚盗んだんでしょうかね?数を見誤ってしまったんでしょうかね」


 内田先輩の言葉に文実からの笑い声が聞こえてくる。


 「……内田先輩、想像以上に演技が上手いのね」


 南澤が電話越しに感心しているが、お俺もまた少し驚きであった。純粋の塊のような人だと思っていたが……いや、電話越しではあんまり分からないが、多分本心から思っている言葉を言っているだけなのかもしれない。


 「だけど、吉条も結構大胆な発想するんだね。まさか作戦に――――文実の実行委員長である《《内田先輩を協力者》》に選ぶなんて」


 「まあ、今回に関しては仕方がない。結構博打の様に見えるかもしれないが、内田先輩だって困っていた筈だ。自分たちが最後の体育祭で見つかったとはいえ小野のペンキ事件、そして今度は自分が委員長と言う責任を負う立場での花飾りの紛失事件、困っていたに決まってる。だからこそ利害が一致すると思ったんだ。まさか、悩む素振りも見せず一言で了承されるとは思ってもみなかったけどな」


 「私も内田先輩って温厚な人だと思ってたから絶対に了承しないと思ったわ」


 「俺も思ってもみなかったが、それほど内田先輩もこの文実に賭けてるって事だろ」


 「……どういうこと?」


 南澤は分からないのか首を傾げているが、答えは簡単だ。


 「文実、体育祭実行委員もそうだが、委員会に入る者は大体三つの理由の中のどれかだ」


 「三つの理由って一つしかないんじゃないの?体育祭実行委員を成功させたいって思う気持ちだけでしょ?」


 南澤の言わんとすることも分からなくはないが、世の中はやる気に溢れた人間ばかりではない。


 「確かに南澤の言う楽しみたい、行事の真ん中に立って成功させたいとやる気に満ち溢れている人間が理由の一つ。二つ目としてここは普通に進学校だ。少しでも内申を上げて大学などの推薦を狙う為に内申目当てで入る人間が二つ目の理由。三つめが俺みたいにやる気も無いが強制的にやらされる人間だ」


 「まあ内田先輩は両方ともやってるから一つ目の理由だろうね」


 「ああ。だからこそ文実に賭ける思いが違うって事だ。今笑っている人間の殆ども一つ目の理由で入った人間だろうな。皆表にこそ出さないが苛ついてたんだろうな。正直俺には理解出来ない気持ちだ。文実なんてたかが高校の中の行事。人生の中にあるたった一つの行事だ。だけど、それを何よりも楽しもうと、思い出に刻もうとする人間だっている。皆怒ってたんだろうな、怪盗Xに。自分たちの文化祭を邪魔するなって」


 「私もそう思ったわ」


 「うん。私も」


 人の怒りと言うのは怖いと言う事を――――身に染みてるんだ。今回《《も》》利用させてもらう。


 「――――良い話をしている所悪いんだけど、もう報告しなくても大丈夫?」


 小野の声が聞こえて慌てて電話に意識を向ける。つい、自分でもこちらの話に夢中になっていたようだ。


 「何か気になる事でもあったのか?」


 「気になる事って言うか、多分吉条の考えは九割当たってると思う。今怪盗Xが拳を握りしめて何か怒りを抑えている様に見える」


 「……何で小野ちゃんはそんなに分かるのか私には全く分からないです!」


 「おい漢城。あんまり大きな声で喋るなよ」


 「分かってます。だけど、周り結構喋ってますから殆ど私の声なんて分からないですよ」


 「漢城先輩の言う通り、今は笑い声と怪盗Xの話題で盛り上がり中ですよ。広先輩はこんな感じを狙ってたんですか?」


 「ああ。今だからこそ怪盗Xは思考が纏まらない筈だ。静かではない空間。自分を馬鹿にしてくる人たちの中で思考が纏まる訳が無い」


 「ちょ、ちょっと皆さん静かにしてください。取り敢えずプリントをコピーして来るのでその間にお手洗いなどに行きたい人は行っておいて下さい」


 内田先輩は役割を全て全うしてくれた。後は……。


 「……漢城。席を立ちあがって部屋を出ろ」


 「え?何でです?」


 漢城の言葉に隣に居た二人が転げ落ちそうになっていた。

 俺は漢城と言う人間が天然と言う事を十分知っているのでそうはならなかった。


 「お前、作戦を全部覚えてないだろ?良いから出てこい。そして、感づかれない様に会議室から出る人間を隠れて見える位置に移動してくれ」


 「あー。そんな事を言われた気がします」


 まるで今思い出したと言わんばかりだが、昨日の内に全て話しておいたのに流石は馬鹿城。阿保さも一級品だった。


 椅子を引く音が聞こえたので俺達もそろそろ移動を開始するか。


 「吉条何してるの?早く行くわよ!」


 「置いてっちゃうよ?」


 俺が席を立とうと思っていた頃には既に二人が部室の扉の前に立っていた。


 「やる気は十分だな」


 「当たり前よ!これでようやく怪盗Xに文句が言えるんだから」


 南澤はやる気十分だし、寺垣だって変な言い掛かりをつけてきた怪盗Xに文句を言ってやりたいはずだ。やる気はあるのだろう。

 ……だが、俺にはそこまでやる気と言うのは無かった。

 なんたって今回の犯人は――――俺の知っている人間だからだ。


 「――――吉条君」


 「ん?」


 今までずっと座ったまま一人平常運転の清水がこのタイミングで唐突に話しかけてきた。


 「私達は怪盗Xに挑戦状を叩きつけられた。それだけよ」


 「あの子どうしたの?」


 「さあ?」


 二人とも清水の言葉の意味に全く分かっていない。だけど、こいつが本当にエスパーなのかと疑いたくなる。多分気付いていたのかもしれない。俺が怪盗Xの正体に感づいた時からやる気が無い事に。


 清水が言いたいのは怪盗Xは『お悩み相談部』に挑戦状を叩きつけた。その答えだけを持って他の事を忘れろと言いたいのだろう。


 相変わらず不器用にも程があると思うが、少しだけ気が楽になったのも確かだ。


 「――――ありがとな」


 清水に伝えたが聞こえているのか、聞こえていないのかは分からないが何故か、お礼なんていらないと聞こえるような気がした。


 「……あ、吉条君が怪盗Xだと言った人が教室から出てきました」


 南澤がスマホのスピーカー機能をオンにした状態だったので漢城の声が聞こえた。


 「南澤ここからはスピーカー機能はオフにして漢城はそのまま小野、泉が出てから三人で怪盗Xの後を慎重に追うように伝えてくれ」


 「分かったわ」


 南澤が伝えているので、俺達は歩きながらも会議室から空き部屋への最短ルートを辿る。


 「泉、聞こえていたかもしれないが、今から小野と一緒に出て漢城と一緒に怪盗Xの後を追ってくれ」


 「分かってますよ。小野先輩も既に会議室から出ようとしてくれてますし」


 「俺達も直ぐにそっちに行く」


 泉たちとは後で合流できるとして俺が怪盗Xならお手洗いに行った場所とは少し遠い場所で話す筈。だが、文実での会議室に後から入れば流石に俺達に感づかれる配慮も考えていると思えば、行き先は到底限られる。


 「吉条。伊里ちゃんが怪盗Xが空いている空き部屋に入ったって」


 「よし。走るぞ」


 全ては作戦通り。後は犯人とのご対面だけだ。


 「――――ここに入ったんだな」


 走って向かえば、文実の方に行っていた三人が壁に隠れているのを見受けられた。


 「はじめの作戦通り、一応扉の隙間からスマホで録音機能をオンにしているのであちらの声は完璧に録音できている筈です」


 「分かった」


 覚悟を決めて扉を勢いよく開ければ、中で電話を片手に持ちながらこちらの方を驚きに満ちた顔をして見ている人間が居た。


 「――――あの時もお前はそんな顔をしていたな」


 初めは信じられなかった。だが、もうお前が犯人だと分かってしまったのだから。後は、お前と全部きちんと話すだけだ。


 「《《体育祭の時とは違うが》》、今はどんな気分だ?―――――オックー、いや、《《小倉鷲高》》」

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