実行
先日文実に行っていた四人も部室へと戻った後、清水の意見を聞き、アレンジを加えた第三の選択肢である計画を全員に話せば、全員が同意を示したことにより、実行されることになった。
「泉、こっちの声聞こえるか?」
「ばっちり聞こえますよ!」
部室の前に置かれた自分のスマホから泉の声を聴きながらきちんと電話がつながっていることを確認し、俺の横に置かれてある南澤の電話も確認する。
「おい漢城。お前は阿保だから間違えて電話を切らない事だけ集中してろよ」
「吉条君は私を馬鹿にし過ぎです!そんな事……」
漢城が何を言おうとしたのか分からないが、ツー、ツーと電話が切れる音だけが部室の前で鳴り響き、横に居る南澤、寺垣もまたどうやって反応して良いのか分からないのか苦笑い気味だ。
再度、南澤の電話に漢城から着信が来たので切ってやりたい気持ちにかられるが、今はそんなふざけたことをしている場合ではないので、素直に出ておく。
「気を付けろよ」
「……了解です」
普段より漢城の声が小さく聞こえるのは電話のせいだけではないだろう。
最後にまた横に置かれてある寺垣の電話も一応確認しておく。
「小野。お前は大丈夫だとは思うが、一番重要な役割を任せてある。頼むぞ」
「ふぁあ。はいはい。不可能なんて三文字は私の辞書に載ってないから任せてて」
欠伸を噛みしめる音が若干不安をもたらしてくれるが、小野ならば何とかしてくれるだろうという安心感がある。
「今回、真由美が文実のヘルプに行ってないから変に思われないわよね?そうなったら失敗じゃないの?」
南澤の言わんとすることも理解出来るが、俺は完璧にやるのがモットーなのできちんと配慮はしてある。
「それに関しては泉に文実が始まる前に、部活で相談が来たので今回は私一人です、と言ってもらうつもりだ。それなら文実への配慮、そして怪盗Xも不思議には思わない」
「成る程。そこまで考えてたのね」
「なんだか真澄って頭更に良くなってない?」
「俺もそれは思っていたが言わなくていいぞ」
「何で言わなくていいのよ!そう言う事はきちんと言葉にして言いなさいよ!」
「いや、最近やたらと的確な事ばかり言ってるなって思ったんだよね」
「俺もだ。昔は的外れな事ばかり言っていたイメージがあったがな」
「二人とも一言余計だからね!?私そんなに悪くないわよ!」
「……あの、一応電話をしていること忘れないでくださいね?結構響きますから」
「お前のせいだぞ」
「私のせいなの!?」
南澤の声が無駄に大きい為、泉に注意される羽目になってしまった。まあ、冗談はさておき、ここからが本番だ。
「そろそろ会議が始まりそうか?」
「そうですね。結構人も集まって来てるので多分もう少しで始まります」
泉の声に俺達も互いにこれから重要なことが起こるという事だけは理解しているので誰が何を言わずとも会話を辞め、電話に耳を傾けていた。
「何かその場にいない私が緊張してきちゃった」
「私も!これ見てる方も結構緊張するのね」
正直二人の言っていることが分からなくもない。
俺もまた自分でやらないと言う事で不安を覚えてしまう。だが、逆に自分でやったとしても俺は演技が上手い方ではないので、直ぐにばれてしまう可能性が高いに決まっている。だからこそ、少しでも俺達の勝率を上げる為にあの三人に任せた。
――――頼むぞ。泉、小野、漢城。
「それじゃあ、今から会議始めるから皆座ってね」
三人の携帯から聞き覚えのある人物である内田の声が聞こえたため、ここからが本番である。
「今日はこれまでの会議での纏められたプリントを配布するのでクラスで禁止事項などをしっかり説明してください」
ボソボソと色んな声が聞こえるのはプリントを渡している最中なのだろう。頼むぞ。
「――――あのプリントが足りないんですけど!」
俺の携帯から泉の声が聞こえた。
「え?私ちゃんと人数分に加えて少し多めに作っておいた筈なんだけど足りませんか?」
「はい。私の分がないですね」
「――――あれ?私の所に二枚重ねてあるんですけど、何か変な付箋が付いてます。あ!怪盗Xからって書いてあります!」
ここで、漢城の声が聞こえる。今の所は計画通りだ。漢城の声に明らからに色んな雑音が入っていることを聞こえれば、誰もが新聞を見て怪盗Xの存在を知っている。そして、その本人からの付箋と言う事で誰もが驚いているのだろう。
「……なんて書いてあるの?」
「え、ええとですね。『文実の詳細に関する予備のプリントは頂いた。これからも楽しんでくれたまえ。怪盗X』って書いてあります」
「フッ。予備のプリントって怪盗Xって小物みたいだね」
小野の質問に漢城が答え、携帯だからこそ聞こえているが小野が小さく怪盗Xを子馬鹿にしたような言葉を放てば、波が段々と押し寄せるように小野の言葉を一手にどんどん周りからの雑音が増えていく。
大体怪盗Xのしょぼさについて笑っているのかもしれない。
「……泉。状況はどうだ?」
「予定通り小野先輩の一言をきっかけに周りから中傷の様な笑い声が聞こえたり、ちょっと小馬鹿にしたような発言がちらほらと聞こえてきます」
よし。ここまでは全部順調だ。
「やったわね!ちゃんと作戦が成功したわ!」
「ああ。ここまでは良いんだが問題は怪盗Xがこれからどう出るかだ。漢城、小野、怪盗Xの表情に何か変化はあるか?」
「うーん。見過ぎてしまったら何か勘付かれそうであんまり見れないのが現状です」
「危機感があるだけで充分だ」
「――――今少し目が上に上がったから、私の予想的には多分、今何が起きているのかを整理している可能性が高いかもしれない」
「……何で些細な目の動きだけで分かるのかが謎だわ」
小野の言葉に南澤が苦笑いしているが、俺も少し驚いてはいた。そんな些細な動きを発見できるとは小野を文実の方に行かせたのは正解だったな。
「今まで手を組んでなかったのに手を絡めて組んでいるのを見れば、考え事をしているのは間違いないと思う」
「……ちょっと小野ちゃん凄すぎない!?」
「これぐらいならそこにいる吉条でも出来る筈よ」
「出来るの!?」
「出来るかどうかは知らんが南澤は声のトーンを落とせ。もしもの事を考えてだな」
「分かったわよ」
少しバツが悪そうに静かになったので質問に答えておこう。
「出来るかどうかは分からんが、多分誰かに勘付かれないで見ようと思うのは至難の業だと思う」
「小野ちゃんが凄すぎるんだね」
「そう言う事になるな」
今までは対立し合っていた関係でこれ程まで頭の切れる奴がいるとは思っていなかった。だからこそ、苦戦を強いられてきたが味方になればこれ程頼りになる人間は早々いない。
「小野ちゃんも凄いけど、怪盗Xが思案してるって事は成功したんじゃないの?」
「五割成功しているが、ここで怪盗Xが動けば完璧だな」
今回の作戦は清水の意見を取り入れ第三の選択肢として――――挑戦状を怪盗Xに演じて叩きつけることによって――――挑発するという、清水の第一の意見、第二の意見を取り寄せた作戦を思い付いたのだ。
一つの意見だけならば怪盗Xが動く可能性は五割、だが、二つの意見を合わせれば怪盗Xが動く可能性は高くなると言う事が俺の頭の中で決まった。
今まで自分が積み上げてきた価値を、下げられるのは嫌だろう。苛立ちが募り頭の中がぐるぐると正常に働かない事だってあるだろう。
――――俺も小野にテストで負けた時同じだったから良く分かるのだ。一度何か起きることで今まで積み上げてきた地位を下げられるなんてことは多々ある。
さあ、この状況でお前――――怪盗Xはどう動く?




