リア充とは
「……今のは聞き間違いですよね?」
俺の言葉を聞いた時、オックーの眉が少し動いたのは見逃さなかった。オックーにとっては俺の返答は思っていたのとは違うのだろう。
確かに、俺もオックーの気持ちは理解出来る。大いに共感できる部分がある。前までの俺ならオックーに力を貸す……とまではいかないにしても止めることは無かったかもしれない。
「残念ながら聞き間違いじゃない。俺は全くお前の気持ちには共感なんて出来ないって言ったんだよ」
「何でですか!?貴方だっておかしいとは思わないんですか!?」
「思わない。そもそも、お前の言う事には二つ間違いがある」
「間違いなんて有る訳が無い。それが、俺が今までの十六年の間、見て来た中で実感したことだ」
「いや、ある。一つ目としてお前は俺を強者だと言った。だけど、それは違う」
「違わない筈だ!吉条先輩はこうやって俺を嵌めることが出来てるじゃないですか!」
「確かにここに嵌めることを考えたのも、犯人の中にお前が居ることを見つけたのも俺だ」
「だったら」
「――――だけど、全部俺が一人で出来た訳じゃない。俺は自分の事は自分が一番理解している。俺は凄くなんて無い。今までもそうだ。俺一人の実力だけで何か出来たことなんて一度もない。黒柿の時も、今までも全部俺一人で何か出来たなんて微塵も思ってない。お前を見つけれたのもここに居る全員のおかげだ。それが一つ目の間違い」
俺は強者なんかじゃない。特別でもない。
全てを完璧にこなせる清水の様な凄さなど欠片も無く、情報を聞くのも、自分の考えに不安になり相談したり、全ては自分一人の功績で…寧ろ俺は助けられて勝手に自分の手柄にしている様な人間だ。
「二つ目の間違いとしてお前はカーストの上位者自分の実力が無いからお前の手玉に取られたと言った。だけど、それは違う。こいつらもだが、世の中のリア充やカースト上位者は弱者ばかりではない。お前の言う通り、確かに世の中にはお前の言うような人間もいるかもしれない。だけど、大半はお前が思ってるような人間じゃない」
「どうして吉条先輩がそんな事を知ってるんですかね?僕より全くリア充とは無縁の様に思えますけど」
「無縁だからこそ分かることもある。傍から見れば五月蠅い様に思えるかもしれない。だけど、その中の殆どの人間は周りに合わせようと気を配ったり、話題を持ちかけたりしている。正直に言って俺からすればどうしてそこまでするのかは理解出来ない。出来ないが、凄いとは思える。ここに居る三人も例外じゃない。色んな人から剣押されたり、妬まれたり、別に嫌いじゃない人から告白されそれを振る側としても傷つきながらも頑張って生活している。俺から言わせてみれば小さな手を使って陥れようとするお前が一番――――弱者に見えるぞ」
最後に強く言葉を放てば、今まで温厚な表情を浮かべていたオックーの口元が引きつり、目を吊り上げ怒りをこれでもかと現していた。
「誰が!誰が弱者だ!ふざけるな!僕がどれだけこいつらを手玉に取ったか知らないのか!完璧だった。完璧に僕はカースト上位者を手玉に取れることが出来る。僕が一番だと言う事が実証されたんだ」
正直こいつは稀に見る異常者だ。世の中には自分が特別なのだと思う漫画で言う中二病の様な人間は何処かに存在するかもしれない。
だけど、こいつは自分が一番なのだと疑っていない。
挙句の果てに、カースト上位者に対する恨みが強すぎる。
こんな人間がこの学校に居るとは思いもしなかった。
「まあ、お前が言うようにこいつらはお前に手玉に取られた。だけど――――今度手玉に取られたのはお前だぞ?」
「……っ。僕がこんな人たちに」
今の現状が理解出来ないのか、絶望したような顔をしているオックー。だが、実際にここにいる全員が居たからこそ見つけられたのは言いようのない事実である。
「お前は人を見下しすぎなんだよ。そして、カースト上位者を標的にしたのが間違いなんだよ。間違いだらけだが俺は――――いくらお前が知り合いだとしても許す気にはなれないぞ?」
「――――ッ」
下を俯いていたオックーの髪を持ち上げ、こちらを向かせると、大きく目を見開いていた。もしかしたら怖がっているのかもしれないが、あいつ――――寺垣はそれ以上に怖い思いをしていたのを本人から直接聞いている俺からすれば、全く可哀そうには思えなかった。
「お前がやっていることは自分でも分かっているかもしれないが、職員会議で話題に出るほどだ。お前が怪盗Xだという証拠は勿論録音してある。停学ではなく、間違いなく退学になるだろう。これからのお前の人生、今日の事を良く反省して生きていくんだな」
「ま、待ってくださいよ!ぼ、僕はこれから大学に出て社長になるって夢があるんです!だから、見逃してください!」
オックーの打算では、カーストの話を持ち掛ければ俺が乗ってくると思って許すとでも思ったのだろうか?
「言っただろ?俺はお前が知り合いだろうが、少しでも話に共感が持てようが絶対に許さない。お前はやったらいけないことをやって来た。それで許してもらおうなんて甘い考えが通用すると思うな」
俺が今回の件にどれだけ腹を立てたか怪盗Xである小倉は全く分かっていない。
漢城の母親と話をして折角学校生活の事を楽しそうに話していると喜色に満ちていた笑みを…壊していたかもしれない。
寺垣は一歩間違えれば二度と平穏な生活を戻ることも出来ず南澤や俺達以外に誰からも侮辱の目を向けられ残りの高校生活を過ごさなければ駄目だったかもしれない。
小野は他の人達が恐怖で苛めに発展しなかったが…一歩間違えれば学校に通えなくなるほどの苛めが起きることも考えられていた。
話を聞き、今まで全て何とか偶然の産物、考えた結果とも呼べるが奇跡的に三人が楽しく学校生活を送れているが、間違えていれば…二人の生活は馬鹿げた異常者の行動で全てが崩れ去る所だったんだ。
「――――よ、吉条。さ、流石に退学は酷過ぎるんじゃないかな?」
「は?お前、こいつがやったことを許すのか?」
ここにきて、背後から一歩近づいて来た寺垣がオックーを庇う。
「許せないよ!私変な紙が学校中に配られてるって聞いた時はもう人生が終わるかもとかネガティブな考えばかり浮かんできて本当に怖かった。だけど、今回の件で気付けたこともある。私にとって掛け替えのない場所がここにあるって教えてくれたのもあの紙のおかげなんだよ。だから、流石に退学まではしなくても反省してくれれば良いと私は思うな。美佐子ちゃんと伊里ちゃんはどう思う?」
寺垣は同じ被害者である小野と漢城の方を振り返れば二人は顔を見合わせているが…その顔に怒りは無かった。
「私は正直こいつが退学になろうがなるまいが、どちらでも良いよ。真由美の考えてることは甘っちょろいし正直馬鹿だなって思うけど、私も今回の一件で救われた部分があるのは事実だから真由美の意見に一票で」
「正直私は今回の一件で何一つ困ってないので大丈夫です!」
「……ハア。お前らそんなんでこれから生きていけるのか不安になってくるな。まあ、そうらしい。よって、今回はお前へのお咎めは無しだそうだ」
「え?」
オックーは今何が起きているのか理解出来ないのか変な声を上げる。俺がオックーの立場でも変な声を上げていたと思う。だけど、驚かなかったのは少しだけこいつらとのかかわりが長いからだろう。
「だけどな、今回の一件で反省しないでもう一度何かすれば誰が何と言おうが俺はお前を退学まで追い込む。それだけは忘れるな。後黒幕にもそう伝えておけ」
誰かは知らないが、今だ通話中になって机の置かれてある携帯に聞こえる様に声を若干大きくして伝える。
「ちょ、ちょっと待ってください!本気で言ってるんですか?自分で言うのも何ですけど、見逃すなんて信じられませんよ!?」
誰もが話は終わりだと言わんばかりに教室から去ろうとしている中で膝を付き困惑しているオックーが喚き散らす中で、南澤がオックーを不思議そうな表情で見ている。
「ハア?あんたこの期に及んでそんなこと言ってるの?私だって許した訳じゃないけど、真由美が許すんなら許すしかないでしょ。私、部室に戻っても良い?」
「私も戻って一休みしたいですね。何か緊張しすぎて肩が凝りました」
オックーは未だに理解出来ていないようで、口を開けて言葉を失っていた。
怪盗Xとしてここにいる奴らを追い詰めることに関しては全く分からないが、こいつらの言っていることが分からないことに関しては同意見だ。
「意味が分からないって言うのは俺にも分かる。正直、こいつらが言ってるのは馬鹿極まりない発言だと思う。だけど、それが多分カースト上位者だと俺は思う。本当に真の意味でカースト上位者は――――誰にでも手を差し伸ばすことが出来る人間だ」
『お悩み相談部』VS怪盗Xは『お悩み相談部』の勝利で終わりだ。




