来訪者
皆さん知っているであろう。俺が『お悩み相談部』に入っていることは。そして、不本意ながらも部活に入っているのだが、メンバーを覚えているだろうか?
南澤、寺垣、清水、泉、俺、の計五人のメンバーによって編成されている。
しかしながら、ここで紙コップに入ったお茶を啜りながら寛いでいる人間が二人。
「……なんか呑気に寛いでいる二人が居ると思うんだが?」
「広先輩の事ですか?」
俺の言葉に沿わない失礼な言葉を真顔で呟く泉。
「俺は大変不本意だがここのメンバーだ」
「不本意はいらないわよ」
「伊里ちゃん言われてるよ」
「美佐子ちゃんです」
「お前ら二人だよ!」
呑気に寛いでいる小野と漢城。こいつら文実のメンバーじゃないのか?
「文実の仕事はどうしたんだよ。忙しくないのか?」
「私の仕事は既に終わらせてあるので大丈夫です」
「私もとっくの昔に終わらせたから大丈夫」
……そうだった。忘れがちだが、この二人は相当ハイスペックの持ち主である。
だからと言ってここに居て良い理由にはならないのだが。
「……暇って漢城は文実での新聞は?」
「もう作り終えました」
「……小野、お前は坂村と遊ぶ約束があるんじゃないのか?」
「千代とは明日遊ぶ」
……詰みとはこの状況の事を言うのだろう。
こいつらが来たおかげで、騒がしさが二倍になり静かに本が読めない。
因みに俺への話題を振る回数も増えて本を一行読むのに二分は掛かる。
「まあまあ、吉条も多少は良いじゃん。それに、怪盗Xについて本格的に探すんでしょ?」
「まあ、確かにそうだな。しかしな、怪盗Xがこれ以上何も仕掛けてこないのであればどうやって探し出すか、それを考えないとな」
寺垣の言う通り、遠回りしてきたが、これで今度こそ本格的に怪盗Xについて探すことが出来る。よって、見つけ出すための策を考えなければならない。
「あ!怪盗Xなら私も手伝います!」
怪盗Xと言う言葉にお茶を啜っていた漢城が手を挙げてこちらを向いてくるが、お前が手伝ってくれるのは最初から知っている。
「美佐子ちゃんはどうします?」
「おいおい。こいつがそんな事する筈」
「いいよ。私も嘘の動画を流されたのは気に食わないし、誰が犯人なのか知りたいから」
「……マジでか」
今までの出来事からしてあり得ないと思っていたが、まさかここにきて――――小野が助っ人として来るだと?
ずっと俺達の敵側と思っていた小野がまさか助っ人になるとは流石に予想外だが、小野程優秀な奴はそんなにいない。
「……嬉しい誤算だが、取り敢えず全員座って話し合うぞ」
「広先輩が張り切るのは珍しいので、素直に従いましょう」
清水を除いて、他五人がきちんと座ってくれたので、話し合いを始めるが、その前に小野に今まで分かった事を伝えておく。
「――――ふーん。成る程。ただ、一つ質問があるんだけど」
「俺も一つ質問がある」
「お先にどうぞ」
「ちょいちょい何かあの時の性格が出ている気がするんだが?」
小野の言葉使いを聞いていると、少なからずあの時俺達が素だと勘違いしていた口調が入ってきている気がする。
「――――これが私の本当の性格だからだよ。言いたいことははっきりと言う。そう決めたんだ。そう思ったらこんな感じになった」
「理解した。それじゃあ話を戻すがお前の質問は?」
「怪盗Xが何もしてこない以上私達が出来るのはまず絞ることぐらいだ。この『お悩み相談部』だったけ?それに恨みを持っている人物か、それとも私や伊里ちゃん、真由美、そして私に恨みを持っている人物か、それは結局どちらになるの?」
「俺の予想で良いなら話すが、『お悩み相談部』に恨みを持っている人間と言う線は多分無い。寺垣だけならまだしも、お前と漢城が標的にされている時点でその線は殆どないと言って良い。だから、俺はお前ら三人が恨みを持たれているという線で話を進めるつもりだ」
「成程ね。まあ、それが妥当だけどそれに加えて文実のメンバーって言う事?」
「そうなるな。そうじゃないと俺達の行動を把握して挑戦状なんて叩きつけることは出来ないからと言う理由だが」
「結構絞れては来ている気がするけど、もう少し絞らないと流石に探そうにも探せないんじゃない?」
「小野の言う通りだ。そこで、ここにいる奴らでどうやって怪盗Xを探し出すのかの話し合いだ」
「とは言ってもヒントがこれ以上ないならどうすることも出来ないんじゃない?」
寺垣の言う通りなのだが、今はこのヒントの中でどうにかしなければならないのは絶対だ。
「それに関してだけど、もう一つだけヒントがあるんじゃないのかしら?」
「どういうことだ?」
「前回送られてきた紙、あれを見れば何か分かるかもしれない」
「あんたそんな遠くから話しても聞き取りずらいから話に入りたかったらこっちに来れば?」
「お断りよ。私が言いたいことはもう言ったから。後は静かにして頂戴」
「素っ気ないわね」
清水の言葉の前に南澤の雰囲気が以前とは本当に違う気がするのは俺の気のせいではない。
以前までなら清水が口を挟めばチーターの様な形相で睨みつけて威嚇していたにも関わらず、今は一緒に話さないか?とか言っている。信じられない。
この短い間に南澤に本当に何があったのか不思議でならない。
――――だが、南澤の変化にも気になるが、今は清水の言葉だ。
清水は不確かな真実を嫌っている。しかし、気になることが無ければ言葉を発さないのも事実だ。
確証はないが、何か気になる点が清水にはあの紙に見たのだろう。それならば、もう一度見る価値はある。
「今までの怪盗Xの挑戦状は捨ててないよな?」
「勿論ですよ。机の中にきちんと仕舞ってますよ」
泉が立ち上がり、一つの机の中を漁り紙を出してきたので、最後に配られた一枚を見る。
『お悩み相談部の皆さん。これまでの全て自分がやった事。その全てを未然に防ぐことも、見つけ出す事も出来なかったようだ。自分も暇ではない。よって怪盗Xの働きはここまでとする。少しはスリルがあって楽しめた。さようなら』
この紙を見ただけでは、やはり怪盗Xがもう活動を辞めたことぐらいしか分からない。
俺が馬鹿なだけなのか?
「小野。一応これを見てもらっても良いか?」
「良いよ。見せて」
小野が手を差し出したので紙を手渡せば、小野は紙に目を通しているようだ。
「――――確かにちょっとだけ不自然ね。清水が話した理由が少しだけ分かる気がする」
「何がおかしいんです?」
「矛盾が生じている。スリルがあって楽しめたって書いてるでしょ?もしも怪盗Xが見つかるか、見つからないかの瀬戸際のスリルを味わうだけの快楽の人間なら普通段々ヒントが分かって来たこれからが本当の瀬戸際じゃない?だから、少し不自然な気がしなくもない。まあ、もしかしたら怪盗Xがただの小心者って事もあるだろうけど」
「――――いや、小野の言う通りだ。小心者ならわざわざ寺垣、漢城、小野に関しての噂なんて流す必要が無い筈だ。それこそ文実での花飾りなどを盗んだ方がまだあんまり見つかった時怒られずに済むからな」
「凄いわね小野ちゃん。普通こんなの分からないわよ」
「べ、別に普通だから」
あ、こいつ今照れたな?
南澤は純粋な奴だからこそその言葉には嘘が無い。あの純粋な目で褒められれば嘘ではないと直ぐに分かったのだろう。
小野が照れる場面など初めて見るが中々に新鮮な気がする。
――――何故だろうか。
このメンバーならこの少ないヒントの中で怪盗Xが判明する。
確証が無いのは嫌いな筈なのに俺は頭の中で希望と言う文字が見えた気がした。




