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自殺した少女。

こっちも短編版と変わっていません。

フゥ以外の人間の名前登場。

私がこの大学に入って三年と半年が経った。

それはつまり茶道部に入って三年と半年が経ったということでもあり、もうすぐ卒業を迎えるということでもある。

別に明確な目的があって大学に入った訳でもなければ、誰かと一緒にこの大学を目指した訳でもない。

ただ自分の学力にあっていた学校を勉強せずに受験し、落ち、滑り止めのこの大学にやって来ただけ。

高校は県内有数の公立高校。

顔は世間一般では美人と評される。胸は人並みにはあるし、高校時代、それはもうモテた。

数人の男と付き合ったが、みんなすぐに体を求めてきて煩わしかったので一線を超えることなく別れた。

付き合った男たちはこの学校ではない別の大学へ行ったので、もう連絡をとることはないだろう。

同窓会などでは会うかもしれないが、きっとその頃には私は結婚している。そんな気がする。

閑話休題。

そんな私が入学式が終わったあと、一人で歩いていると当然のようにチャラチャラした男子に声をかけられる。

どうせ体が目当てなんでしょ?

そんな私の内心を隠し、人を待たせていると嘘を吐いて逃げる。

それを三回ほど繰り返したとき、ふと周りを見渡すと自分がどこにいるのか分からなくなった。

洋風な建物が続いていたはずなのに、学校の雰囲気には似合わない竹薮が現れた。

門はくぐっていないはずなのでまだ大学の敷地内のはずだ。

なのにこうも雰囲気が変わると興味が湧いてくる。

竹薮横の整備された細道を通るとビヨン、という音の後にパンと何かが突き刺さる音が聞こえてきた。

……弓道部?

あぁ、やっぱりそうね。袴姿の人間が出てきたし。

でも私は大学でスポーツをやる気はなかったし、弓道場の扉を開ける気にはならなかった。

向かいの建物を見ると、茶道部と書いてある。ここまで来たのだから、とその建物に入っていった。

「お、いらっしゃい」

中に入るとそこそこ顔のいい純日本風の顔の男の人が出迎えてくれた。

私を見た後に一瞬デレっとした彼はすぐさま顔を元に戻す。

こんな反応は見慣れている。いつものことだ。こんなことでは不快にならず、促されるままに中へ入っていった。

着物を着て落ち着いた雰囲気を醸し出している先輩たちを見て、私こと沖野おきの美香みかはこの部に興味が湧いた。

一応他のサークルも見た。

ケバケバしい女がチャラ男に媚びを売るサークル。

一般人である私にオタク話を強要してくるサークル。

飲みサー、ヤリサーなど、ろくな物がなかった。

入学してから一週間ほど経った授業開始日の朝、私は再び茶道部に赴く。その日は授業は昼に一コマあるだけだったが、なんとなく家にいるよりもそうした方がいい気がしたのだ。

しばらく先輩と部活についての会話をしていると、一回生の何人かが見学にやってくる。

横の繋がりは大事だし彼らとも話す。

その中には後の私にとって、現在の私にとって重要な立ち位置となる二人。

佐竹さたけ叶兎かなとと音無おとなし風華ふうかもいた。

二人の第一印象はどちらも、冴えないというものだった。

風華には白い肌が羨ましいとも思ったが、叶兎に関してはむしろ陰気な感じがした。

女子と話すことに慣れていないのかしょっちゅう目が泳いでいたし心象は正直よくなかった。


一週間後には流石の叶兎も私の目を見て話すこともできるようになっていた。それにともなって私の彼に対する心象も多少はよくなっていった。


更に一ヶ月後、本入部の日が訪れる。

この日は新入生歓迎コンパが茶道部内で開かれ、コレに来ている人間が入部するという日だ。

結局コレに来た一回生は私を含めて女子五人、男子三人だ。

つまり八人が新たに入部した。

上回生は十五人だから一回生の比率は大きい。

もっとも、この次の日に何故か男女共に一人ずつ辞めたので結局六人になってしまったが。


ある日、お茶を点てるわけではなく普通にジュースやお菓子を皆で持ちあって食べる日があった。

その日の片付けを叶兎がやると言い出した。叶兎は普段からこういう雑用をやることがあったので私を含めて皆は何も疑問に思わず、早々に帰って行った。

だけど私は流石に悪いと思って残って叶兎を手伝おうとした。

そして、見てしまった。

コップに口付ける叶兎の姿を。

「叶、兎……?」

バッ!

漫画だったらそんな擬音語が横に書かれるであろう動きをして、コップを隠す叶兎。

いや、今更遅い。

気になったのはそのコップを今日使っていた人物。

私の記憶が正しければ風華が使っていたものだ。

「それ…風華の…?」

私がそう尋ねると、叶兎は観念したように頷いた。


それから私は叶兎の恋愛相談を受けるようになった。

必死に言わないでくれと頼む叶兎を可愛いと感じてしまったというのもあるが、それ以上に私がしていた勘違いに対する罪滅ぼしだ。

何を勘違いしていたのかと言うと、てっきり叶兎は風華ではなくて私が好きなのだと思っていたのだ。

でもそんなことはなくて、風華一筋だった。個人LINEでしみじみと思い知らされた。

ただね、若干怖いわよ?

何で今日風華が笑った回数とか把握してるのよ……?


そんなことが数ヶ月続き、私たちも二回生になろうかという頃風華に聞かれたことがある。

「ねぇ、美香と叶兎って付き合ってるの?」

私たちは恋愛相談という形で結構個人LINEも続いていたし、喋っていることも多かった。

叶兎が好きなのはあなたで、私はその相談に乗っているだけ。

そう答えていたらどうなっただろうか。上手くいっていただろうか?

今となっては分からない。

でも、そう。

アレが最悪の答えだったことだけは分かっている。


あの質問からさらに数ヶ月が経ったある日、いつものように個人LINEで恋愛相談という名のストーカー話を聞いていたのだが、急にそれが途絶えた。

既読がついているのに返信がない。

最近とある事情により恋愛相談が辛くなってきていたので別によかったのだが、いつもならコレから話が大きくなるところだったので少し心配になった。

次の日の叶兎はやっぱりいつもとどこか違っていて、無理をしているように見えた。生気のない顔で皆から心配されていた。

どうしたのかと後で人気のないところで聞くと、風華に彼氏がいたらしい。

泣きながらそう答え、私の胸で泣いた。

脆く泣き崩れた叶兎を見て、風華のためを思って必死に耐えた叶兎を見て、私の前では自分を曝け出した叶兎を見て……もう、本格的に目を背けることが出来なくなった。自分の気持ちに嘘がつけなくなった。


私は、叶兎が好きだ。


今まで私に言い寄る男は顔だけを求めて、一途なんて程遠い心の持ち主しかいなかった。だから一途に思われている風華が羨ましかった。

きっとそれがきっかけ。

その心が私に向けばいいと考えたのが始まり。

だから、あの時「うん」と答えてしまったんだろう。


四回生になった。

彼氏がいても叶兎は諦めなかった。

だけど風華の幸せは壊したくないのか、強引に言い寄ったりしない。そんな奥手では駄目だよ、と言ってみたけれど「恥ずかしい」と返された。

あぁ、可愛い。

本当は恋愛相談なんてしたくない。

フゥがね。フゥがね。と風華のことばかり聞きたくない。

だけど聞かなければこの関係が終わってしまう。

私が好きなのは一途な叶兎だ。私に余所見をする叶兎ではない。

私を見て。私を見ないで。風華を見ないで。風華を見て。風華を諦めて。風華を諦めないで。私を抱きしめて。風華を抱きしめて。ワタシをワタシをフウカをフウカをワタシをフウカをフウカをワタシをワタシをワタシを……。

矛盾した思考が私の頭の中を駆け巡る。

ここ二年で日常と化してしまったことだ。

気分転換に近所のカフェに向かう。小さいながらも温かい雰囲気のこの場所と茶道部の部室が私の心の安らぐ場所だ。

いや、だった。というべきか。

最近は茶道部の部室では心が安らがないし。主に人間関係のせいで。

喫茶店のマスターと他愛もない世間話をした後家に戻る。

ポストを除くと一通の手紙が入っていた。

内容を見ると結婚式への招待状。

私の知り合いで誰か結婚する人なんていたっけ?

新郎新婦の名前を見る。

新郎は染野そめの雄哉ゆうや。知らない名前だ。

そして新婦は……音無風華。

それを見た瞬間私の中に浮かんだ感情は祝福ではなく、歓喜。


あぁ、これで叶兎は風華を諦めざるを得なくなる。叶兎は私を見てくれる。あの一途な気持ちで、私を!


あぁ、コレが私の本音だったのか。

やっと納得する。

そう。一途に思っているなら対象は風華である必要はない。欲しかったのは叶兎が風華を諦める理由と叶兎の心。

もう隠す必要はない。

結婚式が終わり次第私は叶兎に告白する。

傷ついたの叶兎の心を私にしか向かないようにする。


私が尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くして尽くし倒してあげるから、一緒になろう叶兎?


次の日から私は風華の結婚式が待ち遠しくて仕方がなかった。心から風華を祝福したし、それを叶兎に悟られないようにした。

そして、ついに結婚式が三日後に迫った日、事件は起きた。

風華が行方不明になったのだ。

部室に行くとパニックだった。ただ一人落ち着いて居たのは叶兎。

あぁ、風華は行方不明になったけれど自分で失踪したんじゃない。叶兎が攫ったんだ。

「風華が心配じゃないの?」

「フゥはアイツと一緒になりたくなっただけなんじゃない?なっちゃいけないんだ、ならないよ」

噛み合っているようで噛み合っていない。

その言葉だけでは確信が持てなかったけれど、まさか、叶兎、あなた……。

私の疑惑の目を心外だとばかりに叶兎は目を背け、話を打ち切った。

違うの。あなたが攫ったというのは確信してる。

疑ったのは──自殺しないかということだ。


そして後日。ある廃屋から二人の死体が見つかった。

私の懸念は正しかった。

叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎叶兎かなとかなとかなとかなとかなと。

やっぱり風華と死んだ。

やっぱり風華じゃなきゃダメだったということを思い知らされた。

泣きながら一日を過ごす。生気のない顔で数日を過ごす。


警察はこれをギャングによる殺人事件とほぼ断定して捜査していた。

だから司法解剖が行われ、二人の葬式が開かれたのはしばらくしてからだった。

何故警察がそんな考え方をしているのかを考える。

叶兎がそう仕向けたからだろう。

最後まで、死んでまで、気持ちを隠し通したいという意地。

なら、そう……私は叶兎を想う者としてソレを完遂させてあげよう。

だから、来世では風華じゃなくて私を見てね叶兎。


私は葬式の参列者の一人に近付き、尋ねる。

「ねぇ、──のは貴方?」


さらに後日、一人の男と一人の女が自殺したという。

男の方から遺書は見つからなかったが、女は遺書に一言、こう書いていた。

叶兎のいない世界で生きたくない。

さらに不思議なことに二人の所持品にも家にもケータイはなかったという。

叶兎視点でフゥ以外の名前が出てこないのは、それ以外をどうでもいいと思っているからだったり……


○年生じゃなくて○回生って表現するのって大阪だけですかね……?

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