被害者の少年。
※この物語はフィクションです。実在の人物、事件、団体etcとは(ry
ついでに内容は短編版と変わっていません。
僕がこの大学に入って三年と半年が経った。
それはつまり茶道部に入って三年と半年が経ったということでもあり、もうすぐ卒業を迎えるということでもある。
別に明確な目的があって大学に入った訳でもなければ、誰かと一緒にこの大学を目指した訳でもない。
ただ自分の学力にあっていた学校を勉強せずに受験し、落ち、滑り止めのこの大学にやって来ただけ。
高校は男子校で、一応進学校。
高校のクラスメイトは皆頭がよく、こんな2流大を受けたりせず、また、受かっていても他の大学に行ったり、蹴って浪人したりしていた。
チャラチャラしていなくて、根暗そうな見た目。
そんな僕に話し掛けてくる人間などいるはずもなく、また、内向的な性格が災いし、必然的にぼっちとなる。
コレに関しては僕が悪いということは分かっている。話し掛けてくれない人間を逆恨みしたりするような狭い心は持っていない。
決してそんな勇気がないだけではない。
入学してからの一週間話す人など存在せず、サークルに勧誘されることもなかった。
今思い出してもよく心が折れなかったな、と思う。
入学してから一週間もすれば授業が始まる。皆がワイワイ授業のある学舎へと向かう中、僕は恥ずかしながら迷子になっていた。
ぼっちであること言い訳する気はないが、こっちはさせてもらいたい。たまたま前を歩いていた4人グループが同じ授業だという会話が聞こえて来たのだ。だから僕は彼らにストーカーよろしく付いて行った。するとなんと彼らはあろうことか授業をサボる予定だったらしく全く関係ない場所へ向かっていたのだ。
入学式のときに見たから新入生であることは間違いない。初日からサボるなよ!と声を大にして言いたかった。
勿論、彼等からすれば勝手に付いて来たのはこっちだし知ったこっちゃないだろう。それが分かっていたので叫ばなかった。
彼等の会話を再び盗み聞きしたところ、どうやら受ける予定だった授業はサボっても問題のないものだったらしい。
受験勉強などしてこなかったことから分かるようにサボり癖のある僕は当然のようにサボることに決めた。数秒前の心の台詞は何だったのか、というツッコミは受け付けない。
迷子として彷徨っていると洋風な建物には似合わない竹薮が現れた。
竹薮横の整備された細道を通るとビヨン、という音の後にパンと何かが突き刺さる音が聞こえる。
しかし僕は音の発生源であろう建物よりも、隣の物静かな建物が気になった。
その建物に入ると中には着物を着た男三人、女四人がいて、着物を着ていない男女が四人ずつ居た。
「あら?いらっしゃい」
中に居た着物を着た女子(女性?)が話しかけてきた。
この時ほど話し掛けられて緊張したことはない。
別にその人が特段綺麗だったというわけではないが、女子と話すのは実に3年ぶり。男子校出身者にはキツいことだった。
目を逸らしながら答える。
「こ、こんにちは。け、見学させてもらってもいいですか?」
着物でよかった。体のラインが出にくい着物でなければ逸らすついでに胸をチラ見していた自信がある。
一瞬ならバレないだろうと思っていても、向こうにはバレていると聞いたことがあった。第一印象を悪くはしたくない。
「ええ、どうぞ」
視線を逸らしたのが面白かったのか、笑いながら中へと促された。
何のサークル、あるいは部活なのかすら知らずにのことだったが、和風であったのでとりあえず最低限の礼儀だけは守ろうと心掛けていたように思う。
聞けば、ここは茶道部であり着物を着ているのは新入生を歓迎するためのものだそうだ。明日には見られなくなるらしい。
ラッキーだったな、と中に居た男性が茶化してきた。
うん、それは素直にそう思う。
私服の人間は全員同じ一回生。
見学に来ているだけだそうだ。
話してみたが入るかどうかは検討中らしい。
お茶とお菓子を頂いて、その日は部室を後にした。
それから一週間、僕は茶道部に入り浸った。
上回生の方々とも少しずつではあるが仲良くなり、同じように見学に来ている同回生とも仲良くなった。
もう女子と話してキョドっていた頃の僕とは違う。ちゃんと女子の目を見て話せるようになった。
偉いだろう。
……え?初対面の女子はどうかって?
男子でも無理なのに無茶を言わないで欲しい。
更に一ヶ月後、一斉入部の日がやってきた。
この日は新入生歓迎コンパが茶道部内で開かれ、コレに来ている人間が入部するという日だ。
結局コレに来た一回生は僕を含めて男子三人、女子五人だ。
つまり八人が新たに入部した。
上回生は十五人だから一回生の比率は大きい。
もっとも、翌日に男女一人ずつが辞めるという謎な行動があったのだが。
部内恋愛は奨励されていた訳ではなかったが、別に禁止されていた訳でもない。
現に上回生同士で付き合っているという話も聞いた。
客観的に見て僕の理想は高すぎる。
だから恋をすることなどないだろうと思っていた。しても叶うことなどないとも。
だけど恋をする相手というものは得てして理想とは異なるものだ。
そう、僕は恋に落ちた。
相手は同じ茶道部一回生の女子。
決して美少女とも美人とも言えない。もっと美人な女子も茶道部にはいる。
なのに彼女に恋をした。
名前は音無おとなし 風華ふうか、アダ名はフゥ。皆そう呼んでいる。
ふっくらとしたほっぺと白い肌が特徴の優しい娘。
つつきたい。抱きしめたい。
優しい彼女に恋をしてからずっとそんなことばかり考えている。
あぁ、フゥ。好きだよフゥ。
でもこの気持ちはまだ打ち明けない。
今彼女に告白してもフラれる未来しか見えない。もっと好感度を上げないと。
ゲーム脳な僕はそんなことばかり考えていた。
その考えを後悔するのは二年後のこと。
二回生になってはや一ヶ月。
フゥを好きな気持ちに変化はない。
いや、更に彼女を思う気持ちは大きくなっていた。
僕がフゥのことを好きだと知っているのは茶道部の女子の一人だけ。例の美人な娘だ。
必死で周囲には隠していたが、ちょっとしたミスでばれてしまった。
ヒントは洗い物、間接キス。
隠すの上手過ぎ、アレがなかったら気付かなかった。とは彼女の談。今でもからかわれる。他の人に話していないだけ良心的だ。
ばれてしまってはしょうがない。たまに相談に乗ってもらっている。
僕の思考が異常だとは薄々気づいている。彼女も負けず劣らずの異常思考だったので相談相手としてはうってつけだった。
マック店内でスマホを使い、個人LINEでいつものように相談していると、フゥが入ってくるのが見えた。
運命が味方してくれたのかと思った。
違った。
フゥは男と一緒だった。男の顔を見ると高校の友だちだ。
彼は数ヶ月前に彼女が出来たと言っていた。祝福もした。
けどまさか、フゥだとは思わなかった。
僕は何も考えられなくなり、気付けば家のベッドで泣いていた。
次の日、きちんと部活には向かった。
よほど生気のない顔をしていたのだろう。
皆が心配してくれた。
中でもフゥと相談相手の女子は特に心配してくれた。
体調が優れないのだと誤魔化したが、相談相手は本当の理由を察したのか、人気のないところで聞いてきた。
昨日あったことを話し、彼女の胸で泣いた。
そして現在。
依然としてフゥのことは好きなまま。
諦めた方がいいとは分かっている。
でも、諦められない。応援してくれる人がいるというのもその原因の一つ。相談相手の彼女はひたすら寝とれと言っている。
家のポストを確認すると二枚のハガキが入っていた。
結婚披露宴の招待状。
新郎の名前は高校の友だち、そして新婦の名前は……音無 風華。
学生婚。
あぁ、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで新郎は僕じゃないんだ!
二枚目も同じハガキ。
フツフツと怒りが湧いてくる。
お互いの交友関係も把握してないくせに!その程度の癖に!
そんな内心は隠してハガキの写真を撮る。LINEのトークに招待して茶化したように二枚届いたことを弄る。
幸せ一杯だという二人のトークは見るに耐えなかった。
結婚式のスピーチは共通の知り合いということで僕がすることになった。
当たり障りのない内容。
それ以外を話す気力などない。
じゃなければ自分の内心を全部ぶちまけてしまいそうで、フゥの幸せを壊してしまいそうで。
なんとか原稿を書き上げたのは結婚式の一週間前のことだった。
その四日後、フゥが行方不明になった。
新郎はフゥを必死で探している。僕はお前との結婚が嫌で逃げ出したんじゃないのか?と適当に答えておいた。
部室に行くとパニック状態だった。
相談相手はフゥが心配じゃないのかと聞いてきた。
何て答えたかは覚えていない。
ただ、疑惑の目を向けられた。
「失礼だよねフゥ」
コレは僕の独り言。
「彼女の目はまるで僕が誘拐したんじゃないかという目だったよ」
薄暗い部屋から返ってくる言葉などない。
「そんなことするわけないじゃないか」
誘拐なんてくだらない。相手の意思を無視してまで手に入れるなんて美学に反する。
「じゃあ、お休み」
右手に持つのは包丁。
心臓を突き刺す。
後日、ある廃屋から二人の死体が見つかる。
警察は両方の死体に暴行の痕があったことから、ヤクザに襲われ、殺されたのだろうと判断し、捜査した。
未だに真相は闇の中だが、その死体の人物と関係のあった、とある二人の大学生がその後自殺したという。
オチが分かりにくいのはわざとです。
他人視点で氷解させる予定です。




