述懐? 見納め?
「はあ~~~。お天道様の下で吸う空気は、美味いなぁ~」と、太田黒の声。
「俺? もう、出てきたよ。微罪だったしな」
続けて、彼は言う。
「あの金庫が開けられなきゃ、まだまだ大丈夫」
と嘯く。
「無理にこじ開けようとすれば、金庫もろとも吹っ飛ぶ仕掛けになってるしな。刑事にも伝えてあるから、奴らもバカな真似はしまい」
ヒロシの部屋を望む街角の一隅に佇み、太田黒は迎えの車を待つ。
「金庫のカギを探し当ててから、もう一度、俺を拘留する腹だろうが、まず、無理だろうなぁ」
と、自信たっぷりだ。
「牛舎だけでも、何か所あると思う? しかも警察は、堆肥を作るために牛糞を貯めてる所を、徹底的に探さなきゃならん。ワッハハハハ~~~」
いかにも愉快げに笑う。
太田黒の待つ車が来た。
「こんな所で、何をなさってたんですか?」
ハンドルを握るアツシが、バックミラー越しに聞く。
「うむ。あのな」
「……」
「俺の遺志を継ぐ者が、そろそろ現れそうなのだ」
「それは、私どもが、……」
アツシが続けるのを、抑えるように、
「お前たちは、もう十分だ。あの人たちの生活が立ちゆくように、ただ見守ってやってくれてればいい」
「……。それは、相沢に任せました」
「うむ。それでいい」
満足そうに、太田黒が頷いた。
太田黒が言う「あの人たち」とは、言わずと知れた「あのアパートで、つつましく暮らす人々」のことだ。
「こうしてると、昔に戻ったようだな。アツシ」
「はい。……」
「でもな、」
「……」
「もう、十分だ」
「……」
「お前は、お前の人生を生きろ」
「……」
「俺も、さっきのあの場所を、見納めに寄っただけだ」
「……。これから、どう、なされるお積りで?」
「うむ。……」
以後太田黒は、黙して語らなかった。
©2026 [風風風]. All rights reserved.




