【24】 ルドア殿下劇場
冒頭の一行は23話と重複します。
「ええいっ! 黙れ!」
ユージーン侯爵様の言葉をルドア殿下の怒声が遮り、指を突き付け宣告する。
「ユージーン侯爵令嬢。そなたにはもう、用はない。ユージーン侯爵と伴に退がるがいい!」
吐き捨てるような口調には、配慮や思いやりなど、ひと欠片も感じられない。その声には蔑みさえ含まれていた。
細められた灰色の目は、先ほどまで婚約者だった者に向ける眼差しとは思えないほどに、冷たい色をしている。
「ルドア殿下! どうか、お考え直しをっ!」
ユージーン侯爵様は悲痛な面持ちで懇願する。
ユージーン侯爵令嬢は、ドレスのスカートを左右の拳でぎゅっと、強く握りしめて震えていた。
ルドア殿下はそんな彼らに見向きもしなかった。
フラン伯爵令嬢の腰に回した手を、さらにぐいっと引き寄せる。もう片方の手は、芝居めいた動きで大きく広げた。
「たった今から、私の婚約者はここにいるロージー・フラン伯爵令嬢とする!」
フラン伯爵令嬢は、ルドア殿下の胸にポロンとこぼれそうな胸を思いっきり押し付けて、しなだれかかった。
うっとりとした表情でルドア殿下を見上げている。
「フラン伯爵令嬢?」
ぴょこぴょこと跳ねるのをやめて、聞き耳を立てていたマリエルがボソリと呟く。
会場の一角から「賛成!」「おめでとうございます!」「我らが証人です!」などという声とともに、拍手が上がった。
ユージーン侯爵様とユージーン侯爵令嬢は、顔色を真っ青にしてそこに立ちすくむ。
酷い。
……いくらなんでも、このやり方はあまりにも酷い。
ドレスの色までかぶせている。悪意があるとしか思えない。
こんな仕打ちをするなんて。ユージーン侯爵令嬢が一体そこまでのなにをしたというのか。
いや……ルドア殿下は「なにもしなかった」とか言っていた。よく……解らないけど。
初めて挨拶をしたときから、性格がすっごい悪そうだとは思っていたルドア殿下。……やっぱりその通りだった。
廊下で遭ったときの、狡猾そうな冷たい灰色の瞳を思い出す。
同じ婚約解消でも、テオ殿下はどれだけ……配慮してくれているのだろう。
フロアを取り巻く人々の中から、年配の男性と女性が数人、今にも倒れそうなユージーン侯爵様とユージーン侯爵令嬢に走り寄る。
二人を抱き抱えるようにしてフロアから連れ出してゆく。
一部からの拍手はまだ続いていた。
ルドア殿下はそれに応えて、誇らしげに大きく手を振っている。
その他の貴族たちは……互いに顔を見合わせて困惑していた。
王太子殿下と王女様は手を取り合い、その光景を茫然として眺めている。
テオ殿下は隣に立つ金髪碧眼美人さんと一緒に、事の成り行きを静観している。
「そして本日は、もう一つ!」
ルドア殿下が再び声を上げた。
くるりと身体の向きを変えると、壇上の国王陛下を媚びるような視線で見上げる。
「陛下にお願いがございます!」
「……ほう。なにを願うと言うのだ?」
事の成り行きを見守っていた国王陛下の声は、重々しく響いた。
「陛下!?」
王太子殿下が抗議の声を上げるも、国王陛下は肯き、それを手で遮る。
「よい。せっかくの機会だ。ルドア、申してみよ」
「はい。……我がサリファ王国は光輝く妖精王サリファールによって建国された、由緒正しき王国でございます。歴代の王も皆、輝く金の髪を持つ者。しかし……現在の王太子はそうではない! 暗い髪の者はサリファールの加護を得ることができません。このまま兄上を次代の王とするなら、サリファールの加護を得ることができない我が国は、滅びの道を辿ることでしょう。陛下、そのようなことにならないためにも兄上を廃嫡し、どうか私を王太子として立ててください!」
瞬間、しんと静まり返る。
………………はあぁぁぁ!?
ルドア殿下のあり得ない言葉の意味を皆が理解すると、会場は一斉に大きく騒めいて揺れた。
さらっと、なに言っちゃってんの!?
妖精王サリファ―ルは神話なのに、小さい子どもだって知ってるのに。
髪の色とか? 滅びの道とか? バカなの? バカでしょ?
そんなの言いがかりもいいところじゃない!
思わずオーギュスト様とマリエルと顔を見合わせる。
「ルドア! いい加減にするんだ! 貴様は自分がなにをしているのか、解っているのかっ!?」
我慢も限界だったらしい王太子殿下は、ルドア殿下につかつかと歩みより、腕を伸ばす。
まさにそのとき。
「きゃあ!!」
王女様の悲鳴がフロアに響いた。王太子殿下が振り返るその先に――。
黒と白の軍服を纏った近衛護衛騎士団の騎士様二人に、王女様は手首を後ろ手にして拘束されていた。
騎士様たち!? なんで!?
「兄上。余計なことをしないでください。大人しくしていれば、オリヴィア王女様には危害を加えません。おいっ」
ルドア殿下が顎で指図をする。
近衛護衛騎士団のほかの騎士様が、テオ殿下の隣に立つ金髪碧眼美人さんをも、王女様と同じように手首を後ろ手にして拘束した。
「セオドア。お前も大人しくしていろ。しかし……お前も物好きだな。子爵の小娘にいれあげたかと思えば、今度はその女か。そういえば……お前の母親も、金色の髪に青い目だったな」
わかりやすく嘲り、唇の端を歪める。
その言葉に会場がさらにざわめく。
周辺の者たちは、ちらちらと振り返った。
ルドア殿下、なんて、なんて……。
わたしのことは、なんと言われてもいい。
だけど、だけど。
テオ殿下のお母様への想いを踏みにじるようなことを……!
それにこんなの、人質をとった反逆行為じゃないの!?
ぎゅっと、マリエルの手を握る拳にも力が入る。
「ルナ、落ち着いて」
「ルナ様、深呼吸です」
マリエルが背中をさすり、オーギュスト様と一緒に静かに名前を呼んでくれた。
深く息を吸って、吐く。
数回ほど繰り返すと、気持ちが少し冷静になった。
……そうだ。
わたしがかっとなっても仕方がない。
クロス兄妹に「ありがとう。大丈夫」と肯く。
テオ殿下のほうが、どれだけ悔しい想いをしているか。
恋人さんをも人質にとられて、どれだけ心を痛めているか。
「……ルドア、そなたは武力で、その地位を欲するのか?」
国王陛下の声はこんな非常事態にも、取り乱すことなく落ち着いている。
「武力!? 滅相もありません! 私の思想に賛同した貴族たちが協力しているだけのことです!」
ルドア殿下は満足気に周囲を見渡す。
動作がいちいち大袈裟で、芝居がかっていることが鼻につく。
「……オリヴィア王女とその令嬢の拘束を解くのだ」
「それはできません。陛下に私の望みを叶えていただかないことには!」
国王陛下は小さく、ため息をついたようにみえた。
「……確かに、歴代の王はサリファールと同じく、金色の髪を持つ者だった」
「陛下!?」
「そうなのです! わかっていただけましたか!」
王太子殿下とルドア殿下の声が重なった。
「ならば……そこにいるセオドアも、そなたと同じ条件ではないのか?」
予告詐欺です。
申し訳ありません。
テオ殿下、もう少し先です。m(__)m
だって、ルドア殿下が、ルドア殿下がぁ!
。゜(゜´Д`゜)゜。




