【16】 マリエルからの手紙
「ルナ。またお茶会の招待状よ。最近、増えたわね」
お母様から封書の束を両手で受け取る。
ざっと見ただけでも十通以上はあるみたい。
封書裏の差出人を確認すると、それぞれに懐かしい名前が記されている。
アーバン子爵邸でのお茶会からは、八日が過ぎていた。
ここ数日の間、フィリップス子爵家に届く、わたし宛てのお茶会への招待状は格段に増えている。
以前と比べると、軽く倍以上はある。
それも、ほぼすべて王立学院時代の元同級生たちからのものだった。
突然になぜ、こんなにもお茶会への招待が増えたのかといえば。
まあ、思い当たるのはアーバン子爵邸でのクリスタとの一悶着。うん。それしかない。
あの場にいた、顔色が青色を通り越して真っ白になってしまった彼女らが早速、広めたのだろう。
だって。クリスタと取り巻きさんたちは、返り討ちにあったことを自分たちで広めるはずはないからね。
せっかく招待状をいただいているのに、申し訳ないとは思うけど……。
どの招待にも応じる気はない。
お茶会で楽しく親睦を深める、という気分にはなれなかった。
絶対にクリスタとの一件と、テオ殿下の話題は避けて通れない。むしろ、それを期待しての招待のはずだ。
わざわざお茶会で今それを話題にしなくても、年の最後の日に王宮で開催される舞踏会では、イヤでもその話題を避けては通れない。
「お母様、全部断ってもいい?」
腰に手を充てたお母様は「仕方がないわね」と、軽く息を吐いた。
▲▽▲▽▲
暦の上では、あと二週間足らずで新しい年がやってくる。
サリファ王国では慣例行事として、年の最後の日には、夕方から王宮で王家主催の舞踏会が催される。
夜通し踊り、歌い、過ぎる年を送り、新しい年を迎えるのだ。
よほどの事情がない限り、王国の十四歳以上の貴族は、舞踏会に参加をしなければなならない。
一年に一度。
王家に忠誠を誓うために、領地が遠い貴族も、この日は一族で王都へとやってこなければならない。
一族総出で王都に逗留するとなれば、旅費、滞在費、衣装代と、それなりに少なくない費用がかかる。
舞踏会は力のある貴族の反逆を防ぐために始められた、ともいわれていた。
つまりは、貯めている資金を散財させて、武器や兵力を準備する経済力を削ぎ落そうという理由らしい。
王立学院を卒業したのちに、領地へともどってしまったマリエルから手紙が届いていた。
舞踏会の前々日に王都に到着する予定だという。
マリエルに逢うのは去年の舞踏会以来になる。
一年ぶりだった。
彼女は王都で催される夜会にも出席しない。
そのためになかなか会える機会はないが、手紙だけは頻繁にやりとりをしている。
マリエルの兄上のオーギュスト様は、仕事の関係上、タウンハウスを住まいとしていた。
ご両親のクロス男爵夫妻もすでに王都入りをしている。オーギュスト様と一緒に、タウンハウスに滞在していた。
マリエルも、もっと早く王都に出てくればいいのに。
どれだけ領地に引きこもっていたいのか。
まあ。彼女らしいといえば彼女らしいけど。
マリエルからの手紙を読み進めるうちに。
……うむむ。やっぱり。
思わず唸ってしまった。
アーバン子爵邸でクリスタに一言申した振る舞いが、武勇伝として元同級生たちの間に広まっていると書かれていたのだ。
クロス男爵領は、王都からはかなりの距離がある。
汽車に乗っても半日。
それなのにすでに、マリエルがアーバン子爵邸での一件を知っている。
ということは……顔色が青から真っ白になった元同級生たちは、どれだけの速さと勢いで手紙をしたためたのか……。
……はあ。
悪い噂や悪事ほどすぐに伝わってしまうのは、本当のようだ。
いや、まあ、この場合の悪事……はクリスタのほうだと思いたい。
あ、人の口に戸は立てられないとかって、誰かが言ってたっけ。
マリエルはわたしを心配してくれていた。
当然、テオ殿下の新しい恋人の噂も聞いたはず。
でも。そのことについては、なにも触れてはいなかった。
ただ、「いつでもルナの味方だから」と、彼女らしいきっちりとした線の、真っ直ぐな文字で書かれていた。
マリエル……ありがとう。
マリエルにはきちんと伝えなくちゃね。
テオ殿下は、なにも悪くはないということを。




