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殿下! その婚約宣言は反則です!?  作者: 冬野ほたる


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15/53

【15】 思惑と気持ち 2

 

 

 「あの、お母様。ノア様が……困っていらっしゃいます」


 いたたまれなくて、つい口を挟んだ。

 ノア様だけじゃなくて、わたしにもけっこうなダメージがある。


 お母様の寄越(よこ)した含んだ視線は、使命感に満ち溢れていた。

 「我が子爵家とあなたのためなのよ」と、いう。


 「ルナ様。なにか私に……お話しがあるのでは?」


 ノア様はお母様の質問が途切れたのを逃さずに、すかさずわたしに話を振った。


 「そうそう。そうでしたのよ。実はルナが、ノア様に折り入ってお話をしたいことがあるようなのです……。お邪魔なわたくしはこれで失礼いたしますから、あとは若い二人で、これからのことでも語り合ってくださいね。ではノア様、ごきげんよう。どうぞごゆっくり~」


 おほほほほと、扇子で口元を隠して席を立ち、去り際に「うまくやりなさい」と、わたしに片目を瞑(つむ)った。


 ノア様は、なんだかよく解らないというような、きょとんとした表情を浮かべたままだった。


 それにしても、つ、疲れた……。

 どっと精神的な疲労感が襲ってくる。

 まるで、激しい暴風雨が通り過ぎたあとのようだ。


 ……はあ。


 ……元はといえば、すべてわたしのせいだし。

 お父様、お母様に多大な心配と迷惑をかけているし。

 なんとかできるものなら、なんとかしたい。

 だけど、だけど。……そんなことを託されても。

 なにか、なんというか……。


 ノア様は相変わらず麗しい。


 高い位置で結んだ、さらさらの長い黒髪は艶々(つやつや)しい。

 しゅっとした輪郭に青い瞳の涼やかな目元。

 左側の目じりのほくろは、妖しいほどの艶(あで)やかさを漂わせる。

 微笑むときには少しだけ、形のよい薄い唇が上がる。

 その声は耳の奥に心地よく流れて、鼓膜を潤し、震わせる。

 近衛護衛騎士団の黒と白を基調とした軍服を纏ったノア様は、絵物語に登場する騎士様そのものだ。


 やっぱり、直球ど真ん中でタイプ。


 トキメクか、トキメかないかでいえば、トキメク。

 ドキドキするか、ドキドキしないかといえば、ドキドキする。

 でも……。

 なんだか、こう、以前に感じていた気持ちとは違うような気がする。

 うまく説明がつかないんだけど。

 どうして……だろう。


 「ルナ様、大丈夫ですか?」


 浮かない表情(かお)を見てとって、青い瞳が気遣うように揺れる。


 「……はい」


 「私にお話があるとのことですが……。やはりセオドア殿下のことでしょうか?」


 じっと、ノア様を見る。

 ノア様も青い瞳でわたしを見ている。


 ノア様はテオ殿下の側近だ。

 様々な事情も知っているはず。

 テオ殿下とわたしとの婚約がどうなるかも、解っているはずだと思うんだけど。


 そんな素振りもまったくみせないけど、わたしがノア様をどう思っていたのかを、テオ殿下からは本当に……なにも聞いていないのだろうか。


 お母様の言う通りだとしたら、なにかしらは聞いているようにも思うけど……。


 でも、テオ殿下は優しいから。


 テオ殿下からそんなことを話したら、ノア様は命令と受け取るかもしれない。

 そうはならないように、ノア様の意思にお任せをするつもりで、敢えてなにも伝えていないのかもしれない。


 それに……。

 手紙は書いたものの。

 「折り入ってお話をしたいことがあるようで」なんて言われても、ノア様にどう話せばいいのか、なんて。さっぱりわからない。


 ノア様は、わたしが話し出すのをじっと待っている。


 ……ええいっ。もう、だったら……。


 「あの……。ノア様はなぜ、我が家へいらっしゃっているのですか?」


 「私は……セオドア殿下の大切なルナ様のことを、くれぐれも大事無きようにと頼まれておりますので」


 にこりと、なんの躊躇(ためらい)もなく微笑む。


 「……」


 それは……どういう意味?

 なんだか、ますます解らない。


 だって、もう『セオドア殿下の大切なルナ』じゃないでしょ?

 それとも『セオドア殿下の大切なルナ』だったから、お母様の言うように、そのあとのわたしの身の上をノア様に『大事無きよう頼んだ』ということなの?


 「あの、ルナ様……やはり、昨日仰っていたことを気にされているのでは。でしたら……」


 ノア様は目を細めて首を傾げた。


 「そんなことは、ありません」


 無理やりに口角を上げる。

 わたしには、テオ殿下と金髪碧眼美人さんのことを気にして憂う資格はない。


 「……そうですか。では、もうしばらくですので」


 ノア様はそう言って肯いた。


 もうしばらく……。

 それは、やっぱり、そういうこと。

 ……そうなんだ。


 婚約が白紙にもどるまで、もうしばらくなのだ。


 「……はい」


 わたしはそれだけを答えて、紅茶を口に運んだ。

 ノア様もそれ以上は、なにも言わなかった。

 






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― 新着の感想 ―
殿下の策がなった、訳ではないんだよね? 「会わない間に気持ちが募る、久しぶりぶりドキドキ作戦~」とか。
[良い点] すみません、もう実は読んでたんですが、 感想書く時間がっっ 書きたくてウズウズウズウズしてました やはりそうかと確信に至りましたぜ! それにしても、 ノアさんの あの事を気にされて…
[一言]  気付いたときにはもう………。  ルナが自分の気持ちと向き合うには、現状は落ち着かなさすぎますよね。  考えはあるのでしょうけど。悲しませてるよ、殿下!!  やっぱりノア様……色々ちょ…
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