第89話 視察 と 視線(前)
コウと2人で街中を歩く、指示を兼ねた視察する為だ。
目的の人物トラを見つけ声をかける。
「トラ、どうだ?」
「セン殿、作業の方は順調ですぞ。」
「そうみたいだな。」
そう言って働く皆を見てみる。
昨日まで無かったアパートがもう完成しつつある。
まったく、ネコ族の身体能力には驚かされる。
木造とは言え、1部屋はそう小さい物ではない。
浴室、トイレ、キッチン、収納全てを備えた部屋を2階建て10部屋で1棟
それが見る見る出来上がっていくのは壮観という一言に尽きる。
「セン殿、開発地域はここまでで良いのですか?」
地図を取り出し聞いてきた。
「いや、ここも予定に入れよう。」
地図に墨の鉛筆で書き込んでいく。
この建築スピードなら予定より増えても問題ないと思ったのだ。
「わかりました。」
「コテツはどの辺りまで進めたかわかるか?」
「はい、今日の予定ではここまで進めるそうです。」
大きな地図を取り出し、机に広げつつ教えてくれた。
それは俺の想像よりかなり早いペースだった。
「すごいな・・・というか出来るのか?」
「出来るでしょうな、昨日と同じ程度ですので。」
明らかに人がやる数十倍以上の速度だ。
ドワーフとの街道が整備されるのは時間の問題だな。
それで人数が100名程度というのだから凄い。
「なるほど、では頑張ってくれ。」
「はい。」
次の視察へ向う。
「ネコ族の方って凄いですねー」
コウが感心したように感想をこぼす。
「そうだな、ただの人間だとあそこまでの速度は出ないだろうな。」
「そうですよね」
この世界の事を少しは判ったつもりだったがまだまだだったようだ。
基本として前世よりはるかに高い基礎体力なのだ。
各種重機などが無い時代の人はこの位の体力があったのかもしれないな。
次の視察場所である、会議所の裏手の新築の家の前に立ちコウがノックをする。
「はい、どなたでしょうか?」
そう声が聞こえ扉が開かれるとモミジが俺達を出迎えてくれた。
中に入ってみるともう1人モミジが居た。
これはモミジの得意能力の1つである分身だった。
「これはセン様、視察ですか?」
「そうだ、ちゃんと仕事しておかないとモミジからの資金打ち切られるからな。」
モミジの部署はこの街の財政を一手に担っており、何処にどの位の資金を使うかなどを決めているのだ。
自給自足での生活をしていない全員の給料がここで決まるのだ。
「セン様が仕事をしないと言う事があるのですか?」
笑いながら俺達にお茶を出してくれる。
「ほっといたら俺は1日縁側で溶けてるぞ?」
「でも、その分コウ様が仕事をなされてると思いますが。」
それってヒモって事だよね?
男の威厳とかそんなの無くなっちゃうよね?
「センさんは、目を離すとすぐどっか行っちゃうので、何もして無い事の方が少ないから大丈夫ですよ。」
コウが俺の方を見て笑顔で言う。
(俺は子供か・・・?)
『似たような物かと。』
俺の扱い酷くないか?
「冗談はさておいて、本日はどのような?」
「うむ、交易はどんな感じかと思ってな。」
「ドワーフ国への鉱石の輸出は順調です。
エルフ国への武具の輸出も順調に右肩上がりです。
帝国は騒乱の復興を進めている最中ですので交易というほど品物は動いていません。
ただ、食料品などは少しずつ流れ始めています。」
「そかそか。」
モミジの言葉に満足そうに頷いているとコウが疑問をはさんできた。
「新しくこちらに来られた種族の方々は馴染めてそうですか?」
「そうですね・・・現場では無いので深くは判りませんが、概ね順調に色々な仕事をされていますよ。」
「そうですか。」
「何か心配事でも?」
「いえ、この間来られたコロポックルの方々が余り見かけないようなので大丈夫かな?と。」
「ああ、コロポックルの方々は裁縫や狩りが得意な方が多く、ニルルさんの所やジーさんの所が多いので街中だとあまり見かけないでしょうね。」
「そうなのですか。」
「んじゃ、次はニルルの所でも行ってみるか。」
「そうですね。」
「それじゃ、邪魔したな。」
「いえいえ、視察頑張ってくださいね。」
手を上げてモミジの家を出ると視線を感じる。
まぁ、視線を感じるのは視察開始直後からなのだが・・・
視線に悪意が無いのと犯人が判っているのだが、俺に話しかけるでもなくずっと付いて来ているだけだ。
コウのも視線が判っているらしく、ピクリと眉を動かしたが顔には出さない。
「どうする?」
俺はため息交じりにコウに聞いた。
「悪意は無いようなので放置でもいいんじゃないでしょうか?」
「それもそうか。」
そう言って工場地帯を目指し歩き始めた。
すると視線の主もそれについてくるように動き出す。
「ワキャー!」
突然、視線の主が悲鳴を上げる。
どうやら奴に捕まったようだ。
「あら?ちゃんと仕事してるんだ、殺してないといいのだけど・・・」
コウがそんな呟きを口にする。
視線の主を捕獲したそれは真っ直ぐこっちに向ってくる。
「捕まえたニャよ。」
口に視線の主の首を咥え、さも褒めて欲しそうに俺の前に立つシラタマ。
こいつはいつになったらネコの癖が抜けるんだ?
捕まって泡を吹いて気絶する視線の主に声をかける。
「もう怪我はいいのか?ローリ。」
俺の言葉にハッと目を覚ましてその場に土下座するように平伏す。
「もももももう、っだだだだだっだいジョブです!」
「で、俺達を監視して何の用だ?」
「かかっ監視だなんてトンでもない!ボクはただ、お礼をいいたくて・・・」
小さくなっていく声で最後の方は聞き取れなかったが、どうやら礼を言うためらしい。
「礼なら前言っただろ?」
「それじゃボクの気が済まないよ!」
「何でもするよ!セン様がいうならボク・・・」
「あ~要らん!」
後ろから凄い殺気を感じて慌てて止める。
ローリは頬を赤らめながらモジモジしている。どうしたもんか・・・
「コウ、シラタマ、ローリの処遇は任す。好きにしろ。」
判らない時は丸投げする、それが一番だ。
怖いので後ろを振り返らずに言った。
後ろから溜息と共に「わかりました。」と聞こえホッと胸をなでおろす。
コウとシラタマにローリを任せて1人で視察を再開する。
これで身の危険は減った。
(あんな地雷原をいくつも抱えていたら視察どころじゃないからな・・・)
つか、ローリは何であんな事言い出したんだ?
多分、アムドゥス辺りに吹き込まれたんだろうけど。
「モモに近づけさせない為に~」とかいかにも奴の考えそうな事だしな。
新しく出来た工場地帯に入る。
大小様々な工場が乱立しており敷地も十分、試作品を試す空き地まである。
その空き地を挟んで向かい合いように大きな建物、カツとニルルの工場だ。
俺は、先に近い方のカツの工場へと足を向けた。




